File No.29:ヒロミの町は大洪水!!
――ここは、あたしヒロミが住むマウンペアの町。
町は梅雨の季節というのもあって、毎日毎日ジメジメ雨ばっかり!
――ほら、町並みをご覧なさい。
外には誰も出歩いてないし、家の中を覗けば住民や子供達(特に女の子)が退屈そうに窓を眺めている。
それは雨が降っているから……
――ほら、今度はマウンペアの近くのW.I.N.D指令本部基地をご覧なさい。
サブロー総司令官がゴルフクラブ片手に不満そうな顔で窓を見つめている。多分接待ゴルフに行けなくて悔しいんでしょう。
それは雨が降っているから……
――そして、出動できずに基地の中で待機しているタケルとフィーリアをご覧なさい。
「何よ背広のポッケにまた名刺入れて!!『戦闘ちゃん』って誰よ!!?」
「知らねぇよ!?元女戦闘員の名刺なんか!!」
「詳細知ってる時点で会ってるんじゃないの!!!」
浮気と誤解の狭間で二人仲良く戦闘中。
……それは雨が降ってなくてもやってるのでほっときましょう。
――そしてあたしとルリナちゃんが住む喫茶店『リリィ』も……ポツンと二人で店の中で待機中。
それは……さん、はい。『雨が降っているから……』
……何一人でご唱和させてるんだろ。
「んもぉぉぉぉ!こう毎日雨ばっかじゃイライラして仕方ないわ!!」
人は天候不順だったり、低気圧な気候が続くと自律神経が乱れて頭痛などを引き起こすと言うけれど、あたしは外出出来なくて動かせない身体が文句を言い出してイライラのピークに達していた。
「イライラしても仕方ないですよヒロミさん!毎年梅雨はこうなんですから」
ルリナちゃんの言うとおり。
しかもブレイドピアの世界の気候は『温帯』、即ち日本と同じように春夏秋冬季節がはっきりしている世界なのだ。
「そんなに身体動かしたかったら、ヒロミニちゃんと一緒に遊べば良いじゃないですか!」
「嫌よ!ヒロミニちゃん出したら出したで部屋の中散らかしたりするんだから、掃除するの毎回大変なのよ!!」
この前のおてんばぶりを見て分かるように、多分ヒロミニちゃんも子供なりにあたし以上にエネルギーが有り余ってると思う。
もし出しちゃったりしたら……無茶苦茶疲れるだろうなぁ。あの子に怒鳴りたくも無いし、お世話も楽じゃないのよ。
家の中を見渡せばあたしとルリナちゃんしか居ない。――そうだ!どうせ邪魔者も居ないんだし……!
「ねぇねぇルリナちゃん、せっかくこんな雨なんだし久々にイチャイチャしよーよー!」
「えぇ!?こんな梅雨時でジメジメしてるときにですか?」
「良いじゃないのー!こういうメランコリーな天気だからこそ愛が欲しいのよ!!だからお願いお願い♡︎」
「はぁ、仕方ないですね……」
ルリナちゃんはやれやれと言わんばかりの溜め息を付きながらあたしと部屋に直行する。ああ言いながらも引き受けるということは、満更でも無いと解釈していいだろう。
★☆★☆★☆
――一方マウンペアの町にただ一人、大きな傘を広げる小公女……いや、レイン公女。
ジャックスの女怪人がドレスを舞い上げ高く飛び上がり、住宅の屋根に佇む。
「お父様……今頃天国の何処に居るんでしょう?お母様に逢えましたか……?」
雨が無情に滴り落ちる曇天の空を見上げて、レイン公女の眼から涙が滲み出る。
「天国って素敵な所でしょうね……私も一緒に連れていけたら、何れだけ嬉しいか……逢いたい。お父様やお母様に逢いたい……うわーーーーーーん!!!!!」
過去に何があったんだレイン公女、大号泣。その悲痛さが天の彼方に伝わったのか彼女の涙と共にとてつもない量の雨が振りだした!
★☆★☆★☆
「はぁ、はぁ……」
「あぁ、ルリナちゃんの暖かい身体があたしにも伝わる……」
「うふふっ、ヒロミさん汗出てますよ」
「そういうルリナちゃんだって!よ~し舐めちゃお~☆」
「やぁんっ、くすぐったい♡︎」
「おぃすぅぃ~~☆♪汗も滴る美女のエキス……………………」
「……? どうしたんですかヒロミさん」
この時あたしはふと悟りを開いたような真顔で硬直し、そして口を開いた。
「……止めよ。何か虚しくなってきた。このまま行くとあたし変態に成りかねないわ」
「……………」
この時ルリナちゃんは『元から変態チックなのは存じてますよ』と言いそうになったが、思い留まって言わなかった。
ザーーーーーーーッッ
「――それにしてもこの雨何時になったら止むんでしょうか……?何かだんだん雨脚が強くなりましたよ」
部屋が静かなこともあって、雨が屋根や窓に強く叩きつけられる音が強くなり、ルリナちゃんも心配しつつある。
「大丈夫よこんな雨暫くすれば収まるわ。来月になれば梅雨も明けるし、そうしたらルリナちゃんと……」
ドバァァァァァァーーーーーーーッッ
「……え?最後の方何て言いました?」
更に強まった雨脚の音であたしの会話が遮断されていく。
「いや、だから(ザーーー)ね、ルリ(ザーーー)とあ(ザーーー)で海岸の(ザーーー)でみず(ザーーーーーーー)らおっぱい(ザーーーーーーーーーーーー)らバカンスでも……って
――雨うるさッッッ!!!!!!!」
電波の悪いFMラジオかっつーの!!
しかし直ぐ様我に帰ると、その雨はドラム缶に入った水を思い切りひっくり返したような物凄い量の雨となっていた。
「……ちょっとヤバいかも」
慌ててあたしとルリナちゃんが店の1階に降りてみると……
「大変!浸水してる!!」
急いで玄関口の靴や本を避難させつつも、ルリナちゃんが窓を覗くとその風景に戦慄した。
「ヒロミさん大変です!!町が既に河みたいになってますよ!!!」
あたしも窓を覗くとびっくらこいたのなんの!!たった数分の雨であっという間に町の通路は浸水し、走行していた車も立ち往生。排水溝なんか全然役に立っていなかった。
最初あたしは町の近くにあった湖とそれに隣接する川が決壊、氾濫を起こして浸水したのかと思った。
だがまた数分経った後も雨の勢いは収まらず、それどころかどんどん水のかさが増えていく。
『洪水警報発令、洪水警報発令!住民の方は直ちに2階や高いところへ避難してください!!』
町内放送と共に警報サイレンがウーウーとなり始め、住民の皆のパニックになる様子が窓から見ても確認できた。
そしてうちの店も……窓の風景がまるで水族館の水槽を見ているかのように、水かさがみるみる増していく……1階も持ちこたえられるか。
「ルリナちゃん、急いで2階へ!!」
「はい!!」
2階に上がって、今度はあたしの部屋の窓を開けて上から町の様子を見下ろす。
もう完全に町が雨水に溢れ、今や家の屋根や2階の部分がはみ出ているプール状態と化した。
中には逃げ惑い、洪水の波に溺れかける住民すらもいる。非常事態だ。
「どうしましょうヒロミさん……」
多分あたしたちが2階へ逃げ込んでも水かさがどんどん上がって2階も浸水してしまうと思う。こうなったら……!
「――トクサツール・救命ボート!!」
あたしは腰のトクサツールベルトを使って、ゴム式の大型ボートを作り出した!
それを玄関のベランダから水の所へ放り込んであたしもそれに乗り込んだ。
「何してるんですか!?」
「決まってるでしょ!住民達を助けに行くの!!ルリナちゃんも早く!!」
あたしは手を差し出してルリナちゃんを同行させるためにエスコート。そのまま二人ボートで突き進む。
そしてあたしはスマホでW.I.N.Dに連絡を取った。
「――――あ、サブロー総司令官!マウンペアの町の洪水で巻き込まれた住民の救助を要請します!!あたしはその元凶を追います!!」
『分かった!直ちに出動させる!!ヒロミ君達も気を付けるんだぞ!!』
よし、これで大丈夫だ。後は洪水の元凶を倒すだけ!きっとジャックスの仕業だろうけど……
あたしとルリナちゃんのノアの方舟に乗って、この大雨を静めてみせる!!
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