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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
99/206

月光

 レオ達4人は城の中に入った。廊下の床を踏み締めるたびに木の軋む音がする。少し開いた障子の隙間からは、紫色の光が静かに流れ込む。空の禍々しい雲の隙間に大きな満月が見える。


「……静かですね………どこかに魔物が隠れているんでしょうか…?」

「いや、魔物の気配はないな。」


 レオに言葉を返したシルバは、少し立ち止まって小さく口を開いた。


「……妙だな……ここに来て敵の反応が無いってのは………それに、何だ…?胸がモヤモヤする……」


 満月が静かに雲に隠れ、差し込む月光を薄暗くさせた。周囲に耳を傾けても、風の音すら聞こえない。そんな中でシルバだけは、妙に響く胸騒ぎに歯を食いしばって立っていた。すると突然、シルバは刀に手を掛け、一瞬で振り返った。シルバの視線を追うように、レオ達も後ろを見た。するとそこには、菊の柄の着物を着た少女が立っていた。


「なっ、魔物かっ!?」


 アランは驚きながらも構えたものの、シルバは刀から手を下ろし、少女に話し始めた。


「お前……座敷童子(ざしきわらし)だろ…?」

「えっ、これがあの……!?」


 ネネカはシルバの言葉に驚きつつ、少女の見た目に少し見惚れていた。すると少女は小さい声で言葉を残し、歩き始めた。


「………ついてきて。」


 少女からは足音が聞こえない。不気味に思いながらもレオ達は小さな彼女について行った。藍色の短い髪に薄い月光があたり、柔らかく光る。頭の後ろの大きなリボンが、歩くたびに揺れる。アランはシルバに問いかけた。


「これ、ついて行っても良いんすか…?絶対ヤベェやつっすよ。今のうちに後ろから殺すってのは……」

「いや、やめとく。コイツからは殺意は感じ取れねぇ。あと、わざわざ敵を招き入れるんだから、それなりに見せたい何かがあるんだろ。」


 4人は少女の背後を歩き続けた。気付けば、4人は縁側に立っており、目の前には柳林で囲まれた砂利の波が広がっていた。所々に大きな岩や松の木が、穏やかな波に逆らうように月光を浴びて立っている。レオは特に感動した。


「………すごい……綺麗だ………」

「へぇ…上手く出来てんじゃん。これを君が?」


 シルバが少女に言うと、女の子は首を横に振り、柳林の方に指をさした。4人は指のさす方向を見た。


「………来たか。」

「………」


 視線の先に1人の銀髪の青年が現れた。純白の衣を着ているが、左腕は袖に通していない。そんな左腕や胸部には、大きな切り傷があった。腹に包帯を巻いている。左目は切り傷で塞がれ、それと十字に交わるように鼻にも切り傷がある。右目に黒い瞳はない。


「お前、名は?」

「……無礼だな。人の城に忍び込んで、先に名乗れとは……」


 シルバの言葉に青年は返した。帯には1本の刀が巻いてある。


「あ〜……悪いね。俺礼儀とかあんまし分かんねぇんだわ。俺、シルバって言うんだ。うん。はい。……はい、お名前…ドーン。…はい。」


 青年はシルバを冷静な表情で黙って見つめた。


「………お名前…どぞ……?」

「私の名はハクヤだ。貴の持つ刀、(まさ)しく陽光と銀刄。早速だが、シルバ。貴を試させてもらう。」


 その声の後に、4人は彼の尖った耳を見た。右のこめかみの髪だけが極端に長く、縛られているため、振り子時計の振り子のようにゆっくり揺れている。ハクヤは左手で鞘を握り、親指で鍔を持ち上げ、親指を離した。その時。


「“刹那ノ斬”…」

「っ!!危ねぇっ!!」


 シルバは3人を押して横に倒れると、背後にあった襖が横に斬られた。


「っ!?何が起こったんだ……?」


 アランは瞬きもせず、ハクヤの冷静な顔を見た。シルバは立ち上がり、砂利の波の上に飛び込んだ。


「“乱れ桜花”!!」


 シルバが2本の刀に桜吹雪を纏わせて斬りかかると、ハクヤは刀を逆手に持って抜いた。


「“流れ柳木”……」


 シルバの2本の刀とハクヤの1本の刀が交わり、周辺に桜吹雪と柳の葉の嵐を吹かせた。ハクヤの持つ刀の根本には月光の文字が刻まれている。


「っ……」


 シルバはハクヤの刀を弾き、少し下がった所に着地した。


「アイツ、俺の技を受け止めた………。しかも、少ない動きで………こいつはまさか……」


 シルバが小さい声で言うと、ハクヤは刀を鞘に納めた。するとレオは立ち上がり、剣の軌跡を2つ放った。


「“ソードテンペスト”!!」


 2つの軌跡はハクヤを目掛けて飛んだ。ハクヤは鞘を握り、親指で鍔を持ち上げ、親指を離した。


「“刹那ノ斬”。」


 2つの軌跡は木端微塵に斬り裂かれ、すぐに、奥にいるハクヤの涼しい表情が見えた。


「くっ…やっぱり効かないか……」


 レオはそう言うと、アランとネネカと共に砂利の上に立った。


「………邪魔だな。」


 ハクヤがそう言って砂利を踏み締めると、シルバは最悪な状況を思い浮かべた。


「っ!!よせっ!!」

「“狐火”。」


 ハクヤは右手から緑色の炎の面を出し、その面を顔に押し付けた瞬間、レオを右に、アランを左に蹴り飛ばした。2人は柳の木に体を叩きつけて、砂利の上で倒れた。


「レオさんっ!アランさんっ!」

「テメェェェっ!!」


 シルバは2本の刀を握り締め、舞い踊るようにハクヤに斬り掛かるが、ハクヤは左手で刀を逆手に取り、冷静な表情で攻撃を受け止める。刀と刀が交わるたびに火花が飛び、大きな音を鼓膜に響かせた。


「アイツらには手ェ出すんじゃねぇっ!!」

「言ったはずだ。私は貴を試させてもらうと。貴の共などには興味など無い。ただの邪魔者だ。」

「なら尚更ぁっ!!」


 すると、シルバの背後でネネカがレオの方へ走り出した。それを見たハクヤはシルバを蹴り飛ばし、ネネカを目で追いながら宙に浮いた。


「……“五芒星魂(ごぼうせいこん)”。目障りだ。」


 ハクヤは右手で円を描くと、5つの火の玉が円の上に現れ、続いて星を描くと同時に火の玉を1つずつネネカに放った。


「っ!!やめろぉぉっ!!」

「…!!きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ネネカは火の玉に包まれた。すぐに火は消えたが、ネネカは砂利の上に倒れた。


「っ……!!マトモに人の話も聞けねぇのかぁっ!!ハクヤぁぁぁっ!!」


 シルバは立ち上がり、1本の刀を握ってハクヤに飛び掛かった。銀の刃には炎を纏った獅子が宿った。


「“炎獅子乱舞”!!」

「…“大海無双”。」


 ハクヤの逆手に持つ刃に荒々しい水飛沫が纏い、シルバの刀を押し出すと同時に、右脚をシルバの横腹に叩きつけた。しかし、シルバは怯まない。見ると、シルバは青色の炎の面を顔に押し付けていた。


「…“鬼火”………ぉぉぉぉおおおおっ!!」

「っ!!」


 シルバは左腕でハクヤの右脚を掴み、右手の刀を強く握って、ハクヤに斬り掛かった。


「“気攻波”っ!」


 その時、シルバは一瞬の強風で右に飛ばされた。片手をついて着地したシルバが顔を上げると、ハクヤの横に着物の少女が立っていた。


「っ!!」

「ご…ごめんなさい……ハクヤさま……」

「キクよ。貴は下がっていて良い。」


 すると少女はハクヤを見上げて頷き、縁側へ走った。


「………シルバよ。私は失望した。心が乱れておるぞ。そのままでは刀の業など子供遊びに等しい。それでも銀刄の血が流れる者か…?」


 シルバは立ち上がり、ハクヤの顔を見て頭に血管を浮き上がらせた。


「ふっ…失望したのは俺の方だ。関係ねぇヤツらにも手ェ出して、よく堂々と刀握ってられるな。」

「………なるほど。情けの塊となったか。」

「………っ……!!………ぅ…ぉぉぉぉおおおおおおおっっ!!!」


 その時、ハクヤの背後からアランが飛び掛かった。拳を強く握り、歯を強く食いしばってハクヤを睨みつける。アランの拳が銀色に染まった。


「“銀の拳”っ!!」

「…愚かな。」


 ハクヤは後ろに下がって拳を避けると、刀を強く握り、下から上に向かって斬り掛かった。


「しまっ…!!………がぁっ!!」


 アランの目から黒い瞳が消えた。アランは左に飛ばされた。


「……………“狐火”…………………………………」


 ハクヤの目の前に居たのはシルバだった。シルバはアランの右の横腹を蹴り、ハクヤの前に飛び込んだのだ。そして。


「…っ!!…………………………………………………」


 シルバの右の横腹から左の胸へと刃が走り、多量の真紅で砂利を染め、地面に体を叩きつけて倒れた。ハクヤの持つ刀の先に。紅が滴り落ちる。空の禍々しい雲の隙間に大きな満月が見えた。

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