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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
92/206

目的地への近道

 朝。


「お〜いっ、そっちはどうだった?」

「ダメっす隊長。折れた刀や骨ばっかで……」


 パーニズの城下町から東に少し離れたところに、かつて世界の中心となっていた和風の城がある。銀刄城だ。その城は今はもう焼け落ち、人の気も無い。ただ、鼻を刺すような灰や屍の臭いが漂い、雑草が生えつつある。今、その城を3人のパーニズ兵が調査しているところだ。


「それにしても…………いつ見ても酷い有様だな。」

「まぁ、昔のパーニズの王は独裁的だったって聞くし、神様やらの罰を受けたって思えば……ねぇ。」

「……銀刄ゲンダイ……裁きで堕ちたか………………しかし妙だな。ここに来る道中もやたらと魔物が現れたし、今ではダンジョン扱いになっている。」


 すると、2人の兵のもとに1人の兵が息を切らして走ってきた。鎧には蜘蛛の巣が掛かっている。


「隊長っ…!!地下にっ……!!」

「何っ?地下の貯蔵室ならこの前調べただろう。」

「その貯蔵室に、さらに下へと続く隠し扉があったんですよっ…!!」


 息を切らした兵の言葉に、2人は顔を見合わせて息を呑んだ。


「…………分かった。だがまずは報告だ。町に戻るぞ。」





 その頃レオ達は、パーニズの町外れのギルド小屋にいた。旅に出ようにも、ドーマの死が心に重く引っ掛かり、体が思うように動かないのだ。


「……お前たち、何回来ても構わないけどさ、飽きないか?」


 カウンター席に座るレオとアランとネネカに、ココは近づいて話しかけた。


「うん…………ありがとう……。ここに居ると守られてる気がして、安心するんだ…。」

「…………そうか……?……躊躇なく銃出す人居るのにか……?」


 静かに微笑むレオに、アランは背後に座るリュオンに聞こえぬよう、小さい声で言った。


「だとさ、リュオン。第一印象は大切だぞぉ?」

「黙れ。」


 アランの隣に座るエレナスが笑いながらリュオンに言った。アランは目を大きく開いてエレナスを見つめた。


「ねぇ、お腹空いてない?何か食べたい物とかある?」

「ぁ……ありがとう…ございます……。ですが、さっき酒場で朝食は済ませたので………。」

「そっか。」


 グラスの氷を見つめて静かに座るネネカに、クレアは声をかけた。ネネカのいつも通りの小さな声を聞いたクレアは、心に小さな安心感を抱いて、微笑んだ。


「んで、これからお前らどうすんだ?ずっとここに居たって何もできねぇぞ。」


 リュオンはタバコを咥えて言った。ゾロマスクで隠された目にはレオ達の姿は映っていないだろう。そんな口調だ。


「…………秘宝を……」

「またそれか。あんなもんチマチマ集めてりゃぁ、お前らの討つべき仇の(ツラ)どころか、あっちの世界見るのもいつになるか…だな。」


 リュオンはレオの弱々しい声をかき消した。そして足を交差させて机の上に置いた。


「それは…どういう…」

「行きてぇんだろ?ダークネスの世界に。仲間が幹部に()られたんだ。行きたくて当然だろうな。」


 3人はリュオンの方に振り向き、アランは問いかけた。リュオンはその声に対し、タバコの煙を吐いてニヤけている。アランはリュオンの言葉を反対するように受け止めた。


「……そうっすけど……でも、そんなこと言われても、秘宝を集めて渦までの階段を出さなきゃぁ………ぁっ………エルド…さん…」

「…………フッ……」


 アランはカウンター越しに立つエルドの方を向いた。リュオンは再びニヤけ、タバコを灰皿に押し付けた。


「…そういえばエルドさん…………前、ダークネスの世界に行ってきたんですよね……」 

「…………以前は行き方を教えませんでしたね……この状況ですから、ダークネスの世界に行ってみたい気持ちはよく分かります。ですが、あそこは危険です。それなりの覚悟は必要でしょう。」


 すると、リュオンの向かいに座っているライラが、落ち着いた様子のエルドに口を開いた。


「覚悟は必要……って、まさか行かせる気ですか!?」

「ちょっと口塞いでろライラ。…教えてやれ。エルド。」


 リュオンが言うと、エルドは真剣な眼差しをレオ達3人におくり、話し始めた。


「…レオさん、アランさん、ネネカさん。ダークネスの世界へ続く渦はパーニズの空のアレだけだと思っていませんか?実は、この世界の数カ所に同じような渦があるのです。」

「…………ってことは、エルドさんはフリールにある渦で行ったって事っすね。」


 エルドの紫色の瞳を見つめるアランの表情も真剣だった。エレナスはそんな彼を見て、黙ってグラスを口に傾けた。


「はい。しかし、通常、渦を利用できるのはダークネスだけです。」

「……じゃ…じゃあ、やっぱり私達は行けないのでは…?」


 ネネカの声は小さかったが、いつもより少しだけ強さを感じとれた。すると、エルドはカウンターの上に地図を置いた。


「いえ。ご覧下さい。ギルシェの南に、ケルベリアンというダークネスに占拠されつつある国があります。ここの小さな村に、ある魔物が居ましてね。その魔物の血を飲むことで、渦を通ることが可能になります。」


 エルドの言葉で3人は息を呑んだ。マリスは膝の上にココを乗せ、背中を撫でながら3人の喉仏を見ていた。


「その魔物は……」

「……暗黒界の番犬、ケルベロスです。獣系闇属性、凶暴な性格で、素早く暴れ狂った攻撃で襲ってきます。そして、何よりの特徴が、鋭い牙を持つ3つの頭です。」


 3人を心配するライラの顔は険しくなった。するとリュオンは再びタバコを咥え、固まる3人に口を開いた。


「勿論やるよなぁ。この話を聞いて、秘宝集めにするとは言わせねぇ。…“急がば回れ”は臆病者の言い訳だ。」

「…………やります。…やらせて下さい。僕達に。」


 レオはリュオンの言葉に背を押され、目の前に立つエルドに言った。エルドの表情は少しだけ柔らかくなった。


「…健闘を祈ります。確か、酒場のクエストボードにケルベロスの討伐依頼があったはずです。今では古い依頼ですが、そちらを受注してはどうでしょう。」

「はい。ありがとうございます。」


 ネネカがエルドに軽く頭を下げると、奥に居たシルバは大きなあくびをした後、3人に口を開いた。


「1つ言っとくけどぉ、ギルドからは助っ人出せねぇから、そこんとこヨロシク。ダークネスがいつ攻めて来てもおかしくねぇ状況だからよ。」


 シルバが言ったその時、古い木の扉が開き、小屋の中に3人の兵が入ってきた。


「失礼いたします。」

「おぉ〜、調査ご苦労さん。どうだった?」


 シルバは3人の兵に挨拶するように片手を軽くあげた。


「シルバ様、ご報告があります。銀刄城跡の地下貯蔵室に、さらに下へと続く隠し扉を発見しました。」

「おぉ、マジか。見てぇ見てぇ。」


 シルバは立ち上がり、跳ねるように兵の前まで歩いた。


「んじゃ、じっちゃん。マスター。ちょっと行ってくるわ。」

「はい。お気をつけて。」

「あぁ、行ってこい。」


 シルバは3人の兵と共に小屋を出て、銀刄城跡へと向かった。


「じゃあ僕達は酒場で討伐の準備をしよう。あと、パーティに入ってくれる人を探そう。」

「……だな。」

「………はい。」


 3人は立ち上がり、ギルドメンバーに軽く頭を下げて小屋を出た。涼しい風と温かい日の光が、旅立つ3人を見守るよう優しく包んだ。





 しばらくして、銀刄城跡の地下では……


「シルバ様、暗いので足元にお気をつけ下さい。」

「大丈夫大丈夫〜。しっかし、長いなぁ、この階段。かなり下まで行くぞぉ。」


 4人は隠し扉を通り、暗い中を松明片手に、ひたすら階段を降りていた。ようやく平坦な場に着いたその時、シルバは眉間にしわを寄せて奥を見た。


「……どうされましたか……シルバ様……」

「ちょっと松明を……」


 シルバが言うと、1人の兵が松明を持つ手を伸ばし、奥を照らした。3人の兵は目を大きく開いて息を呑んだ。


「…………こ……これは…………」

「…………………間違いねぇ…………渦だ。」

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