望まぬ種
薄暗く肌寒い洞窟の奥で、立ち止まるレオとカレンに恐怖が襲い掛かった。レオの脚にヌルヌルした根のような物が巻き付き、レオを引きずり倒した。
「…っ!!なんだっ!?」
「レオ君っ!!」
レオは咄嗟に剣を抜き、根のような物に軌跡を放った。
「“ソードテンペスト”っ!!」
根のような物は赤い血を噴き出し、レオの脚から離れた。
「大丈夫!?レオ君っ!?」
「うんっ…………何だったんだ……」
レオは立ち上がり、カレンと同時に上を見た。蛍光色に光るファントムフラワーに照らされる薄暗い天井には、複数匹のミミズがタコの足のように束になった巨大な魔物がいた。
「魔物っ……!?………………この洞窟には出ないはずなのにっ…………」
「カレンっ、気を付けてっ!!」
複数本の根は、勢いよく2人に伸びて襲い掛かった。カレンは背負った槍を手に取ると、レオは右に、カレンは左に跳んで避けた。根は蛍光色の花畑に刺さり、荒らした。
「しまったっ!!花がっ!!」
「くっ……!!“ライズスラッシュ”っ!!」
レオは天井の太い根を目掛けて、剣を振り上げながら真上に跳んだ。根はレオの腹部を叩き払い、レオを硬い壁に叩きつけた。
「うぅっ…!!あがぁぁぁぁっ!!!」
「レオ君っ!!“スクリュー・ストレート”っ!!」
カレンは槍に竜巻きを纏わせて、レオを叩きつけた根に突き出した。根は竜巻きを避け、カレン目掛けて伸びた。
「っ!!……避けると花がっ!!」
「“ソードテンペスト”っ!!」
レオは右膝を地につけて剣を振り、軌跡を放った。軌跡は根を切断し、大量の血を噴き出した。
「魔物は僕が引きつけるっ!!カレンは出来る限り花を取って、その後洞窟を出ようっ!!」
「わ…分かったっ!!」
レオは立ち上がり、剣を複数回振って軌跡を根の1つ1つに放った。根がレオ目掛けて伸びると、レオは横に転がるように回避し、再び軌跡を放った。
「こんな数っ、マトモに戦ったらMPとSPが尽きるっ……!!」
「レオ君っ!!アイテムポーチに詰め込んだよっ!!行こうっ!!」
「……カレンっ……!!危ないっ!!」
1本の根がカレンに伸び、口の中へ入った。
「…ぅっ!!」
「カレンっ!!…あぁっ!!」
レオの体に根が巻き付いた。
「……ぶっ……ぅぅ……!!……ぅぶっ!!ゔぉぇぇっ……っ!!」
根はカレンの喉を通り、胃をかき回した。カレンはあまりの息苦しさに白目になり、頬に一筋の涙を流した。
「…………っ!!カレンっ!!」
レオは締め付けられた体を動かすが、根はレオを離さない。
「カレェェェェンっ!!!」
レオが大声で言ってもカレンは動かない。気を失っている。根はしばらくカレンの体内をかき回すと、カレンの口から離れて、レオを離した。レオはカレンの元へ走り、背負って出口へと逃げ出した。
「……くっ!!出口はっ……!!」
背後から再び根が襲い掛かってくると思うと、脚に力が入らない。恐怖に包み込まれた暗闇の中を、動かないカレンを背負ったレオは息を切らして必死に走っている。
「はぁっ…はぁっ……!!あった!!出口だっ!!」
レオの先に、外の光が見えた。レオは外に出ると、躓いて転がり、カレンを投げてしまった。
「……ぃ……っ…………!!カレンっ!!ごめんっ!!大丈夫っ!?」
「…………」
レオはカレンに近付き、声を掛けながら体を揺さぶった。白目のカレンは動かない。口からは嘔吐物が流れた。レオは辺りを見回し、村を探した。しかし周りにあるのは木々だけで、人の気配はない。空は紫色の雲で覆われている。
「…………早くしないとっ!!」
レオは震える脚に力を入れて、再びカレンを背負って走った。いくら走っても前に現れるのは木だけ。冷たい肌のカレンが先ほどよりも重く感じる。
レオは息を切らして必死に走った。
当てもなく
必死に
「………診断結果が出ました。レオ・ディグランス・ストレンジャーさん。こちらへ。」
ここはサイスのとある村の病院。レオは白衣の女性と向かい合うように椅子に座った。
「…………カレンは………………大丈夫なんですか……………………?」
「…………大丈夫………………とは言えないわね。彼女にとって、これは耐えきれない現実ね。」
白衣の女性が言うと、レオは頭を抱えてため息をついた。
「あなたと彼女が見た魔物の名は、恐らくウロボロスルート。推奨レベル50の植物系魔物ね。生物の口に咥えさせる根を尾に例えた事から、その名がついた。」
「…………耐えきれない現実って…………何です…………?」
白衣の女性は立ち上がり、横のベッドで寝ているカレンを見た。
「根は食道から胃、小腸へ入り、小腸を破って子宮へ。ヤツは種を植えたのよ。“生物”とは言ったけど雌のこと。ウロボロスルートの1番恐れられている特徴は、その増殖方法よ。子宮に植えられた種から出る子は栄養分を吸収し、腹を突き破って産まれる。勿論、その生物は死ぬわ。」
レオは震え、カレンの弱り眠る姿を見た。もし本人が知ったらどうなるだろうと思うと、胸が苦しくなってくる。
「……治す方法は…あるんでしょうか………………」
「…………生憎、サイスの病院もオーリンの病院も薬を切らしててね。……この島にいる以上、彼女は助からないわ。」
レオは頭を抱えて、震えながら涙を流した。カレンがこうなったのは自分が弱かったからだと、自分を責め続けた。意識が飛ぶまで自分を殴り潰したい気分だ。白衣の女性はレオの肩に手を置き、1枚の紙を渡した。
「オーリンの浜辺の村から来たって言ったわよね。出来る限り、彼女の側に居てあげて。」
紙には、この場所からオーリンの村までの道が描かれてあった。レオは紙を握り締め、カレンを背負って病院を出た。




