刻まれた感覚
翌日、レオ達はギルド小屋へ向かった。中に入ると装備の作成作業は終わっており、いつものように静かになっていた。
「おや、皆さん。お待たせしました。完成しましたよ。」
エルドはカウンターでワイングラスを拭いている。四人は軽く頭を下げ、カウンター席の前に立った。
「まず、レオさん。近距離での戦いに必要な装甲を中心に、また、動きやすさを考えて作りました。光角の鉢金、光鱗の鎧、光鱗の臑当て、雷光の剣…いかがでしょうか?」
レオは装備を受け取り、装着した。
「凄い……軽くて動きやすいのに頑丈だ…ありがとうございます。」
「それは良かったです。次に、アランさん。同じく近距離での戦いを専門としますが、彼とは違って動きやすさを意識して作りました。肌の露出が少し目立ちますが、装甲も忘れていません。雷皮のヘッドバンド、雷刃鱗の胸当て、雷牙のスパイク、碧雷のガントレット…いかがでしょうか?」
アランは装備を受け取り、すぐに装着した。
「おっ、なかなかかっけぇな。」
「デザインも工夫しました。次に、ドーマさん。狙撃を主に行うあなたには、なるべく攻撃中に支障を無くすために、首回りと肩の辺りを気にして作りました。水鳥の羽根つき帽、水嘴の胸当て、水羽の長垂れ、水触角ノ長弓…いかがでしょうか?」
ドーマは装備を受け取り、装着した。
「お〜。視野も十分あるし、弓が使いやすい。」
「最後に、ネネカさん。あなたにとって装備の重さはかなりの負担となると考え、魔力の加護が働くように、また、攻撃に対する回避性能を上げるため、彼らのとは比較的に軽い装備にしました。水触角のカチューム、水鳥のローブ、水鳥のブーツ、清鉄の十字架…いかがでしょうか?」
ネネカは装備を受け取り、ゆっくりと装着した。
「あっ…とても軽くて、少し温もりを感じます。ありがとうございます。」
「それと皆さん。今回のような装備には、売られている装備とは異なり、スキルというものがあります。」
エルドはそう言って、またワイングラスを拭き始めた。
「スキルか…ますますゲームっぽくなってきたな〜。んで、どういうスキルが付いてるんです?俺達の装備には……」
「はい。レオさんには、HPがMAXの時に走力が15%上がるスキルが、アランさんには、状態異常を受けている間、攻撃力と会心率が共に1.5倍上がるスキルが、ドーマさんには、武器を構える時間が長いほど攻撃力が上がるスキルが、ネネカさんには、攻撃魔法耐性とパーティ内の回復量が上がるスキルが付いています。」
エルドの声を聞くたびに、四人の視線は自分の装備に向けられた。
「それに、お気付きでしょうか。昨日の戦いにより、皆さんのレベルは30を超えるほど高くなっておりますので、以前とは大きく上回った行動が可能となっていると思います。……ところで、皆さんのその眼差し、また戦いに行くように見えますが、今回はどちらへ?」
「ローアに行きます。何やら強い魔物が現れたらしいので。」
レオは鋭い目でエルドの落ち着いた顔を見た。
「ローアですか。確かに、強い気配は感じますね。しかし、この強い気配は今までに無いものです。これがもし強化された魔物だとしたら、近いうちにダークネスが攻めて来る可能性も無いとは限りません。」
「なっ、ダークネスが……!ってことは、……魔王も……?」
アランはカウンターに手を置き、少し慌てた表情で問いかけた。
「それは分かりません。それでも、あちらがいつ、どの駒を出しても対応できるよう、心の準備もして置いて下さい。」
「…はいっ。」
レオ達はギルド小屋を後にし、ペガサスに乗ってローアへ飛んだ。今日の空は少し荒れている。いつもより冷たい風が肌に流れる。
「……なぁ、みんな。レベルも上がったんだし、新しい魔法とか特技とか身につけたんじゃないの?」
ドーマが風の音に負けないよう、少し大きな声で言った。
「僕は、カウンターとソードテンペストが使えるようになったよ。」
「俺は、銀の拳とライジングアッパーができるようになった。」
「私は、フレッシュとガードファントムを身につけました。」
ドーマは三人の声を聞いた後、一息ついて口を開いた。
「あのさ、一つ、みんなの頭の片隅にでも置いといて欲しいんだけど……アタシ、ハイリロードとシューティングスターってのができるようになってさ、特にシューティングスターなんだけど、かなりの時間をかけて攻撃力を最大限に引き出して、一本の矢を放つ必殺技みたいなやつなんだ。切り札になると思うから、その時には合図でもなんでもしてくれ。」
ドーマは背負った弓を撫でた。三人はドーマに頷いた後、レオはペガサスをアランに近づけた。
「ねぇ、アラン……」
「ん?どうした、元気ねぇな。」
「…ちょっと話したい事があって……」
レオが昨日の出来事から表情が曇っていることはアランも分かっていた。
「…………こんなこと、みんなに言えないことだろうなって思って……多分僕だけだと思うんだけど……」
「…………何でも言え。」
「……うん。…………今まで、いろんな人の死を見てきたけど………心に深く刻みたいのに……朝、目が覚めるたびに薄くなってしまうんだ………そんな自分が、時々許せなくなって…」
アランは下を向くレオから少し目を逸らし、曇った空を見た。
「…………多分それ……お前だけじゃねぇぞ………確かにネネカは人が死ぬたび泣いちまうけど、俺とドーマも今までちょっと悲しんだらすぐに行動に移るくらいだ。…………俺が思うに、…多分あれだろ。」
「……あれって?」
「あれだよ。校長、よく言ってたじゃんか。ゲームでは生き返れるけど、現実は命を失うと全部終わっちまうって話。ここ、一応ゲームの世界だから、俺達まだあいつらが死んじまったって事…信じきれてねぇんだよ。……多分…………。」
アランはそう言ってまたレオの方を見た。
「…………そっか……。モルカの気持ちも、分かる気がする…………。話せて良かったよ。ありがとう、アラン。」
その頃、ダークネスの世界では……
「……やはり、注意すべきか…………」
椅子に座った男が小さな声で言うと、女は男の肩に腕をついた。
「どうなさいました?……それ、人間のことですよね?」
「あぁその通りだ。中でも、この二人には特に目をつけるべきだ。…………」
「レオ・ディグランス・ストレンジャー…マァド・リリーマ。」




