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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
秘宝編
68/206

生きていてくれて…

 レオ達は旅から帰り、パーニズの町外れのギルド小屋にいた。シルバとマリスは奥で大きな鉄の音を立てて鍛治作業をしていて、クレアとエルドは椅子に座って静かに裁縫をしている。


「みなさん、色々とありがとうございます……。」

「フフッ。ネネカちゃん、大丈夫だよ。少なくとも私は、こうしてる時間が好きなの。…ほらほら、女の子なんだから、もっと笑顔っ!似合うの作るから。ねっ?」


 クレアは、静かなネネカに笑顔を見せて言った。ネネカはクレアのそんな表情を見て、少しだけ笑顔をもらった。


「じっちゃ〜ん、裁縫ばっかやらずにコッチも手伝ってくれよぉ〜。」

「おやシルバさん。その割にはかなり順調ではないですか。」


 するとレオはエルドに近付き、声をかけた。


「あの、お金の方は……」

「お支払いですか、気持ちだけで満足です。お金の事でしたら、こちらにはリュオンが居ますので、心配ありません。……このような所で立っていても退屈でしょう。しばらくの間、ここは我々に任せて、外出するのはどうでしょうか。」


 エルドはいつものように落ち着いた声で言うと、レオ達はしばらく向き合い、返事をした。


「そ、それじゃあ、よろしくお願いします。」


 レオが言うと、四人で頭を下げて外に出た。


「………」

「どうしたの?エルドじぃ…」


 クレアは手を止めて、黙ったエルドの顔を覗いた。

「……彼らも、軍の一人だと思うと、どうしても申し訳ない気持ちになりましてね……。」

「……そう…よね……。あの子達が今までどんな険しい道を進んできたかは分からないけど、この戦いは、辛いものになるでしょうね……。」




 レオ達が町の門の前に立つと、そこには何かを囲むように多くの人が集まっていた。大半が同級生だ。


「なんだろう……行ってみよう。」

「お、おぉう……」

 

 四人は人混みをかき分け、みんなの視線の先を見た。そこにあったのは、大きな布を被った三つの死体だった。それらの肌は不気味に青白く、脚や腕、中には横腹を失い、骨や内臓が生々しく見えるのがある。


「うっ…………」

「マジかよっ…………」

「そ……そんな……」

 

 誰もが一目で理解した。これらの死体が同級生だということを。アランは死体の前に立つと、左から順に名前を言い始めた。


「……スコッツ…………カーナ…………ベルタ」

「ちょっと待ってよ!!」


 人混みの中から一人の女の声が聞こえた。


「なんで……っ!!なんでみんなしてベルタって言うのよ!!」

「………………そう言えば……ベルタと付き合ってたな…………。モルカ。」

 

 死体を挟むように、アランの前にモルカが姿を見せた。


「ベルタは死なないっ!!約束したのよっ!!一緒に、生きて帰ろうって…!!死ぬわけ…………ないじゃん!!!」

「やめてくれっ!!!」


 アランの横に、身体中を包帯で巻かれた男が現れた。


「お前っ…ロットか……?」

「あぁ……そうだアランっ……。モルカっ…………全部っ…………俺のせいなんだぁっ!!」

 

 ロットは冷たい石畳に膝を付き、涙を流して言った。


「ただの採取クエだったのにっ……急にバケモノが現れてっ…………スコッツとカーナはすぐやられてっ…………ベルタがっ…………俺の事はいいってっ…………逃げろってっ…………………俺をっ………………!!逃がしてくれたんだぁぁぁっ!!!」


 町中にロットの声が響いた。気付けば人混みは涙で溢れている。


「なぁ…………?…………モルカぁっ………………ベルタはぁぁっ………………最後までぇっ……………優しかったんだぁぁぁっ………………」

「いい加減にしてぇっ!!!」


 モルカは頭を抱え、首を横に振った。声も体も震えている。


「何度も言わせる気なのっ……?この死体はぁっ……ベルタじゃないっ…………ベルタじゃないのっ!!ベルタじゃないのよぉぉっ!!」

「テメェ!!マジでいい加減にしろよっ!!!」


 アランがモルカの胸倉を掴み、右の頬を叩いた。


「ベルタはなぁっ!!仲間の事を思って、今こういうカタチになってんだっ!!これがベルタじゃねぇって言うんなら、ベルタの勇気はどこに行ったんだっ!!おいっ!!」


 アランは怒鳴った。その声は多くの人の心に突き刺さった。


「じゃ……じゃあぁっ…………!!ロットが悪いじゃんっ!!返してっ!!ベルタを返してぇっ!!!」

「ロットにこれ以上罪を押し付けるんじゃねぇっ!!!……冷静になれよっ、悪いのはロットじゃねぇっ!!お前でもねぇっ!!全部、クソみてぇなダークネスのせいなんだよっ!!!」


 アランは拳を握った後、腕を下ろした。モルカは涙で赤い頬を濡らしながら、ゆっくり人混みをかき分け、その場を後にした。


「……ア…アラン………みんなも…………。俺は、三人も死なせてしまったぁっ…………。うっ……うぅっ…………あぁぁぁぁぁっ!!!」


 ロットは頭も地面に付けて泣き叫んだ。すると、レオはロットの横で低い姿勢になった。


「ロット……君は悪くない。みんな、分かってるよ。…………場所だけ教えて。」

「い……行くのかっ…………?」

「うん。少しでも良いから、僕とアランとドーマとネネカを……信じてくれないかな?」


 ロットはその声を聞くと、ゆっくりと顔を上げた。レオは頬が涙で濡れたロットの肩に手を置いた。


「怖く…………ないのか…………?」

「怖いさ、当たり前だろ?」

 

 ドーマは震えるロットの前に立ち、胸を張って言った。


「それでも、……仲間が居ます。……その仲間と…帰る場所もあります。」


 ネネカが涙を拭いて言った。


「そうだネネカ。だから俺達は頑張れる。……なぁロット、行かせてくれ。生きて帰って来るからよ。」

アランが笑顔でロットに言うと、ロットの口はゆっくり開いた。

「分かった……場所はローアの西の山だ……。さすがに心配だから、行くなら明日にしてくれ…………。」

「おう!ありがとなっ!!やられちまったコイツらの思い、ちゃんとバケモノにぶつけてやる!!」


 アランはロットの背中を軽く叩いた。レオは、アランとドーマとネネカに頷き、ロットに口を開いた。






「生きていてくれて、ありがとう。」






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