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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
少年の夢編
206/206

このひろい大空に

 少年は、ガラスのように透き通る翼を広げた。その漆黒に包まれた銀の瞳は、前に立つヴォルシスに向けられている。対するヴォルシスも、鋭い視線を少年に向ける。2人の対峙を見つめる周囲の人たちは思わず息を呑んだ。


「……レオさん………」


 ネネカはそう口から溢したが、少年の姿はまるで別人だった。あの目の漆黒は殺意の色。彼は記憶を代償に力に呑まれた。


「………来い。勇者よ。」

「………………」


 ヴォルシスの言葉の後、少年は剣を構えた。そして次の瞬間に起こった出来事を、周囲の彼らは目に留める事ができなかった。気づいた時には剣と大鎌が交わっている。その衝撃が後から真空の波となって周囲に広がる。光景と音のずれが、次元の違いを見せつけているかのように見えた。その間、刃が交わった回数は6回。もはや人の動きではない。


「“真空烈破波動”。」

「………!」


 ヴォルシスの左手から勢いよく放たれた気弾を、少年は素早い判断で回避し、彼を中心に円を描くように飛び始めた。ヴォルシスは神速ともいえる彼の飛行を目で捉え、次々に閃光を放つ。


「“ユータナジー・ヒット”。」

「……守れ、“フェザービット”ッ。」


 ヴォルシスが放つ閃光を、独りでに動き出した複数のガラスの破片が受け止めた。それをしばらく繰り返した後、少年は翼をたたみ、剣を突き出してヴォルシスへ急降下する。対する彼は大鎌を回して構え、勢いよく振り上げた。飛び散る火花、鼓膜を突き刺す音、波となって伝わる力の衝突。剣を弾かれた少年はなおヴォルシスを見つめ、冷静な表情を見せていた。


「行け、“フェザービット”。」

「………っ。」


 すでにヴォルシスを囲むように、無数のガラスの破片が張り巡らされていた。そして、少年がそう口にして開いた左手を強く握ると、ヴォルシスを囲むそれらが一気に彼に襲い掛かった。


「“アナザーディメンション”。」


 ヴォルシスが鎌を振ると、時空が裂けて虚空への門が開き、彼はそこへ飛び込んだ。獲物を逃した無数の破片は少年の元へと戻り、再び翼となる。


「…………」


 ヴォルシスの気配が消えた。だが、見えないどこかで確実に少年を狙っている。空中で留まる彼は静かに待った。ヴォルシスが再び現れるのを。


「………ッ!」

「“ジェノサイド・キャノン”。」


 そして、時は来た。少年は振り返って目の前で翼の壁をつくり、攻撃に備える。背後から少年に襲い掛かったのは、禍々しい色をした波動の光束。一瞬にして再び開かれた虚空の門から、胸を強く打つ音と共に放たれたのだ。その威力は空間を歪ませ、少年を上へ押し出すほど。すると彼は背に6枚の羽を残し、急降下した後に虚空の門の方へ飛んだ。その先にヴォルシスが見える。少年は剣を構えた。


「………ッ!」

「…っ。」


 禍々しい色の波動は止み、剣と大鎌が交わった。少年は床を強く踏み締め、ヴォルシスの鎌を受け止める。この時、ヴォルシスが優勢に見えた。すると少年は、誰も予想しなかった意外な行動に出る。


「“エクスカリバー”ッ!」


 少年が握るテスタメントが、激しい光に包まれた。今ここに2つの剣の力が交わり、魔王に向けられたのだ。だが、ヴォルシスの表情は変わらない。


「“シャドウ・リーパー”。」


 ヴォルシスの影が独りでに動き出し、少年に鎌を振った。対する彼は、光束を受け止めていた羽を元に戻し、壁をつくる。


「守れ、“フェザービット”ッ……………っ!!」


 だが影はガラスの壁をすり抜け、少年に刃を向けた。咄嗟に避けたつもりではあったが、右頬に切り傷を負い、血を流した。


「“ユータナジー・ヒット”。」

「……!」


 ヴォルシスの左手から放たれた閃光を、少年は首を横に曲げて避ける。その後すぐに彼は回転しながら剣を振り、大鎌を弾いた。重なった剣の威力によって、少年の力はようやくヴォルシスに通用したのだ。隙を与えず、少年は剣を突き出す。だが、ヴォルシスが相手である以上、その俊敏な動きさえも無駄。


「…………」

「いい動きだ。さすが、記憶を代償にしたまでもある。」


 ヴォルシスの左手が、少年の剣を握る右腕を掴んでいた。少年は翼の刃を彼に向け、複数飛ばす。


「……ッ!!」


 だがそれらは彼の眼光によって掻き消された。やがて少年が握る剣はエクスカリバーの光を失い、ヴォルシスは彼の腕を離した。少年は翼を広げ、後ろへ下がる。


「………やはり魔王ヴォルシス……討つことはできぬか。」


 少年はそう口を開き、剣を鞘に収めた。これは諦めだ。この世界の力を身に纏い、代償を払って呑まれた勇者である彼は薄々勘付いていた。ヴォルシスの秘密に。


「あぁ、討てぬとも。話せば長い。そして貴様ら人間には無関係。……理由(ワケ)あって私の体は不死身。不老不死だ。故にティア・イリュージョンの力を以てしても私は倒せぬ。」


「なっ………なんだって………」


 2人を囲むアラン達は、ヴォルシスの言葉に衝撃を受けた。ヴォルシスは続けて口を開く。


「既に目的は果たした。もはや戦う必要もあるまい。」


 静まり返った戦場に、アラン達は動揺を見せた。それは不完全燃焼に近い。状況の変化に、理解が追いつかない者もいた。少年は口を開く。


「ではどうする。どちらかが敗れねばこの戦は終わらん。先に刃を受けた俺の負けか?」

「いや、我々ダークネスの負けだ。目的は果たした(・・・・・・・)のだからな。」


 予想外にも、魔王が敗北を認めた。彼らの心に芽生える喜び。だが、ヴォルシスの言葉は、これで終わりではなかった。


「ダークネスはライトニングに敗れた。しかし、まだ人間との勝敗はついていない。」

「何っ……」


 するとヴォルシスは左手を上に向け、禍々しい色をした玉を出した。途端に体中を駆け巡る恐怖の予感。思わず少年は構えた。


「何のつもりだ魔王。人間との勝敗だと?」

「そうだ。貴様ら人間に最後の試練を与える。これより私は自らの手でこの世界を閉ざす。加えこの玉、名はワールド・エンド。世界を巻き込む暗黒の爆発を起こす。全員が無事脱出したところで、爆発は渦を越え、ライトニングの世界をも呑み込む。」


「…なんだよそれッ……!!」

「………最後の…足掻き…………いや、試練………か。」


 アランは拳を握り締め、シェウトはそう口から溢す。ヴォルシスは続けて口を開いた。


「では誰がこの爆発を受け止める。人の重罪……傍観、逃避。1人でもそれに抗う意思を示す者が居れば、貴様ら人間の勝利だ。」

「……………」


 少年の目は冷たかった。そして、彼を見つめるネネカは思い出す。彼が別人である事を。また、彼がティア・イリュージョンを使ってから、仲間に対して見向きもしなかったことを。


「………レオさんは……力に呑まれている……………レオさん………もしかして………」


 本来のレオであればどうだろうか。自分の身を投げ捨ててでも、仲間を守る。だが、それは本来の彼であって、今は己の名さえも忘れた1人の少年。未来は無いように思えた。彼女は膝から崩れ落ちる。


「しかし、これでは不釣合い。ライトニングの世界を守り抜いた暁には褒美をやろう。……これまでに散った人間全てを蘇らせ、貴様らの元へ返す。」


 ヴォルシスがそう口にすると、怒りに震えたアランが一歩前に出た。


「何言ってやがるクソ野郎ォッ!!どちらにせよ1人は犠牲になるって事だろうがッ!!俺は認めねぇぞッ!!」

「私は魔王ヴォルシス。私は自ら貴様らの敵となり、あえて自ら悪を名乗る者。また、全世界に鉄槌を下す者。覚悟あっての行いだ。覚悟を決めよッ!この私のようにッ!!」


 そしてヴォルシスは手の平の小さな暗黒を握り潰し、巨大な破裂音と共に爆発を起こした。暗黒の爆発はヴォルシスを包み、徐々に拡がっていく。終焉が幕を開けた。


「お前らッ!!今すぐここから出ろッ!!階段を降りるんだッ!!」


 そう口にしたのはシルバ。だが、この爆発を誰かが止めなければならない。それは彼も十分理解している。


「でもこのままじゃあ、ライトニングもッ!!」


 シルバに口を開くマリス。逃げ出したい、生きたい。誰もがそう思っていた。その最中、膨張する暗黒に飛び込む陰が1つ。ネネカとアランは叫んだ。


「レオさぁぁぁんッ!!」

「ダメだッ!!レオぉぉッ!!」


「…………」


 ガラスの翼を広げる少年が、爆発を受け止め始めた。力に呑まれた彼には信じがたい行動ではあったが、この通り彼はそれを実行している。この時の彼の背中はレオだった。ネネカは彼の方へ走る。彼女に過ったもの、それは“永遠の別れ”。そして翼を広げる彼の背後に立った彼女は涙を溢しながら叫ぶ。


「どうしてあなたはッ!!いつもいつも無理をするんですかッ!?あなたばっかりッ!!自分の命を投げ捨ててみんなのためにッ!!…………もう……耐えられないですっ……!!……もうこれ以上……レオさんに無理をしてほしくないッ………!!……どうしてッ…………」


 大粒の涙が頬を伝って落ちていく。これはネネカの心の叫びだ。自分よりも仲間を優先する彼が嫌いだった。約束を破ってでも他人を助ける彼が嫌いだった。こんなにも心配しているのに、まるで自分には無関心で人の事ばかり気にしている彼が嫌いだった。だが——


「…………………来い。」

「……………えっ………」


 少年は振り返り、ネネカを強引に抱き寄せた。そして———


「ぅっ……………」

「…………………」


 2人の唇が強く触れた。初めての感覚に、ネネカは胸の鼓動を高める。時が止まったかのように思えた。この瞬間が一生続いてほしい。ついにこうしてレオと触れ合う事ができた。嬉しかった。クナシア・ネネカ、彼女はそんな彼、レオの事を誰よりも愛していたのだ。


「……………レオさん………私………ずっと………」


 少年の目を見つめながら口を開いたネネカ。だが彼は視線を逸らし、ある方向を見た。アランだ。少年は彼に頷き、ネネカを抱く腕を緩める。するとネネカは、アランに担ぐように持ち上げられた。


「キャッ!!…あっアランさんッ、何をッ!?」

「……ここを出る……レオを…置いてなぁ………ッ…」

「…………嘘……………嫌ッ!!絶対に嫌ですッ!!そんなのッ!!私はッ——」

「俺だって嫌なんだネネカッ!!でもッ………こうするしかっ……ねぇんだよッ…………!!」


 アランの目からも大粒の涙が溢れ落ちた。出さなければならない犠牲。その犠牲が、これまで共に苦難を乗り越えてきた友である場合、どれほど胸を痛めることか。息苦しくて仕方がなかった。腕の中で抵抗するネネカ。アランは再び少年を見つめ、口を開いた。


「………本当に……これで良いんだな………?」

「………………………………行け。」

「…ッ!!」


 アランは振り返り、走り出した。それからは、あまりの悲しさにレオの方へ振り向く事さえもできなかった。ただひたすら、彼の覚悟と、自身とネネカの悲しみと悔いを噛み締め、出口へと走る。


「レオさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!」

「….……ッ!!くっそ…………ッ!!」


 その後彼らに続いて、リュオンやシェウトも走り出した。そしてマリスがカイルの腕を引くと、彼女は動かなかった。


「お母さんッ!?どうしたの、逃げるよッ!!」


 マリスは爆風の中で叫んだ。だが、カイルはヴォルシスが引き起こした爆発をただ静かに見つめている。ようやく口を開いたカイルは、一歩また一歩と少しずつ歩み始めた。


「………そうね………良いわ。最期まで着いていくわ…………貴方に………」

「……えっ…………お母さん…………?」


 カイルが向かうのは広がる暗黒の方向。マリスは再び叫んだ。


「お母さんッ!!ダメッ!!行っちゃダメぇッ!!」

「………マリス……ごめんね…………彼と………幸せに………ね………………」


 やがて闇に呑まれるカイル。それを追うように飛び出したマリスを、シルバは引き止めた。彼女は腕の中で泣き崩れる。


「………お母さんッ………また一緒に……暮らせると………思ったのにッ…………」

「…………俺たちにも…やるべき事がある。………行こう。」


 シルバはマリスの耳元でそう口にし、歩き始めた。そしてシルバは爆発を受け止める少年の近くで立ち止まり、彼に口を開く。


「……その〜……何つーか………何もできなくてすまねぇ。あと、ありがとうな。これだけは言っておきたくてさ。………お前は結局、最後まで勇敢なヤツだったよ………誰よりもな。……代わりにって言ったらおかしいかもしれねぇけどさ……俺、お前のおかげでライトニングの世界が無事だったら、絶対に平和な世界にしてみせる。境界線が無い、誰もが手を取り合って過ごせる平和な世界に…さ。約束する。」


 シルバの目はまっすぐだった。その声を聞いて、彼の方を見る少年。2人はしばらく目を合わせ、その後少年は口を開いた。


「……………早く行け。」

「…………分かった。……忘れねぇよ、お前の事。絶対な。…………行こう……マリス……」

「……うん……私も忘れないよ…………レオくんの事………」


 そして2人は少年に背を向けて走り出した。残ったのは少年ただ1人。だが、戦い以外無関心ゆえ、彼は孤独を感じてはいなかった。自身を誇る事も、これから自分の身に起こる事にさえも、彼には何も無かった。ただひたすらに、目の前の暗黒の膨張を食い止める事だけを考えていた。





















 そして、ライトニングの世界。光の階段を降り切り、アラン達は振り返った。光の階段は次第に散り始め、遠くに見える闇の渦は少しずつ小さくなっていく。彼らは、あの先にレオを置いてきてしまった。あまりのつらさに、ネネカは泣き崩れる。


「レオさんッ……………1人にしないでって……約束したのにッ……………ッ…………」

「…………………ネネカ。」


 アランは、彼女に合わせる顔が無かった。だが、あの時のレオと自身の選択は間違っていなかったと思う。それでも、自分は彼女とその想い人を引き剥がし、同時に親友を失ったことには変わりない。アランは拳を握り締め、悔しさを強く噛み締める。すでにこちらの世界でも戦闘は終結していた。多くの死傷者が出たが、コルトやギルドの人たちは無事だった。後に再会した彼らは、ココとレオの死を告げると、彼らはそれを心から悲しんだ。戦いは終わった。もう命を奪い合う必要などないのだ。今戦場で立つ彼らだけではない。これまで散っていった者たちも含め、彼らがこの戦いを終わらせたのだ。だがこの勝利、喜ぶ者もいれば、悲しみの涙を流す者もいた。


「………………レオ………….…………………ありがとう……………っ」


「———ぃ………」


 声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。アランはその声に耳を傾けた。


「——ぉい…………」


「……なんだ………?」


 声をたどる。先ほどまで光の階段があった崖、その先に立ち、真下に広がる海を見た。


「お〜いッ!聞こえとるじゃろッ!!返事なり何なりせんかぁ!!」

「亀神っ……様!?泳げたのかよっ……ってか何でここにッ!?」


 崖の下で亀神が、海面から甲羅と頭を出して泳いでいた。目を凝らすと、甲羅の上にうつ伏せで倒れる人陰がある。それを見て、アランは目の下を熱くし、飛び跳ねるように喜んだ。


「レオだぁっ!!レオが帰って来たぞッ!!」

「…っ!?レオさんッ!!」


 思わずネネカは走り出し、勢いよく崖を飛び降りた。飛び散る水飛沫、崖の上で湧き上がる歓声。ネネカは亀神の甲羅を上り、横になったレオを抱きしめた。


「レオさぁぁんッ……!!」

「…………っ……ね…ネネカッ………く……苦しいッ………」

「…………もぉ……何回約束破るんですかっ………私っ………本当に悲しかったんですよっ…………」

「……えっ……えっと………ご……ごめん……?」


「レオが生きてたァッ!!生きてたぞッ!!」

「「うおおおおおおおッ!!」」

「……………まったく、心配させやがるッ……」


 周囲は喜びで溢れ返った。だが、それだけではない。


「お〜いッ!!みんなァ〜ッ!!」


「………この声……………カルマかッ!?」


 シェウトが声の方に振り向くと、大勢の人陰がこちらへ向かって来ていた。先に見えたのはカルマだ。他にもオーグルやスフィルなど、一度別れを告げた者たちの姿があった。


「……あの魔王………約束は守るんだな。………お前らぁっ!!魔王を倒したぞッ!!」

「カルマぁぁぁぁッ!!」


 シェウトとコルトは、仲間たちの方へ走り出した。これで、彼らと魔王との戦いは幕を閉じたのだ。彼らは大いに喜んだ。


 それからの数日は目まぐるしいものだった。レオたち冒険者を讃えるパーティー、シルバとマリスの結婚。先日の戦いでパーニズ王が謎の失踪を遂げ、それを機に銀刄シルバがパーニズまたライトニングを統べる王として即位。そのパーティーも大袈裟なほどに開かれた。


 そして、別れの時。以前、光の階段があった崖に光の渦が現れた。これまで鎧やローブに身を包んでいた彼らは皆、エルドが預かっていた学生服に着替え、その渦の前に立った。シルバがレオに口を開く。


「もう行っちまうのか。」

「はい…僕たちにも、帰る場所があるので……」

「…そうか。なんだか、寂しくなるな。…結構楽しかったぜ。お前らが来てからの日々は。」

「僕もです。」


 そう言って2人は強く手を握り合った。


「あっちの世界でも、元気でな。」

「はいッ!今まで、ありがとうございましたッ!シルバさんも、皆さんも、お元気でッ!」


 その後、レオたちは光の渦へと歩み、この世界を出た。長かった。だが、決して無駄ではなかった。世界は違えど、彼らは確実に成長していたのだ。シルバたちとの別れは惜しいが、彼らはこうして、ようやく目的を果たす事ができた。















『あのアルタフルス中学校で起きた卒業生監禁事件から1年。事件によって一時閉鎖された現場では未だ尚、保護者たちの泊まり込みによる———』


 薄暗い体育館、静かに流れるラジオ。毛布に身を包み、子どもの帰りを待ち続ける家族。彼らの精神状態は限界だった。


『———学校長であり、自ら作成したプログラムによって生徒たちを監禁したヒディル・シュウン容疑者は無期懲役を言い渡され———』


「…………お願い………帰って来て………」


 その時だった、ステージ前に置かれたパソコンの画面が強い光を放ち、体育館全体を照らした。そして——


「…………やった………本当に……帰って………来れた………」

「レオぉッ!!」

「ガルア!!」

「ネネカぁ!!」


 皆、我が子が帰って来た事で、周囲は喜びの声と涙で包まれた。あれから1年。ひと回り逞しくなった彼らも、両親の胸の中で再会を喜んだ。


「………うん……ただいま。」


 それからの彼らは、国からの援助と支援もあり、なんとか日常に戻ることができた。彼らはそれぞれの道を歩み始める。そこでは新たな出会いもあれば、喜びや困難もあった。もうあの世界に居た時のように武器を振る事も、命の危険を感じる事もない。だが、あの世界から持って帰る事ができたものもある。それは勇気だ。彼らは、身につけたその勇気で、これからを生きる。この先どんな困難が待ち受けていようが、あの日々を思い出せば胸を張って立ち向かえる。彼らには共通の(まじな)いがあった。このひろい大空に向かって“ティア・イリュージョン”、そう口にするのだ。それが彼らの勇気の秘訣だった。
































 レオのティア・イリュージョン、失念。最後に彼らが失った記憶とは———

 第1話の投稿から8年が経ち、ようやく一区切りつきました。ここまで頑張れたのも、応援してくださった読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございました。

 引き続き、ティア・イリュージョンをお楽しみください。

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