黄金
「ここでいいだろう。」
シェウトのその声で、ギルガとアランは足を止めた。そしてシェウトはアランの横に立ち、ギルガは2人の方に振り向く。
「さぁ、いつ始めてもぉ構わん。2人ぃまとめて相手ぇしてやる。」
「随分と舐められたモンだな。まぁ、そうさせてもらうが。」
アランは白い歯を見せるギルガを見つめた。拳の関節を鳴らし、続けて口を開く。
「………なぁ、ギルガさんよぉ。キドゥーさんを殺した時、どんな気持ちだったんだ?……一応聞いておきたくてな。」
「……悲しみ………だろうかぁ……」
ギルガはそう口にすると、上を向いてしばらく黙った。シェウトは彼に問いかける。
「……..............................友を…失ったからか?」
「いぃや。自分がぁ、嘗てのライバルをぉ…こうも簡単にぃ殺める事がぁできるほどぉ……強くなってしまったという……悲しみだぁ。」
「…っ?」
するとギルガは再び白い歯を見せて2人に顔を向けた。
「……いぃや、違う。これはぁ喜びだぁッ。このパワーっ、この筋肉っ、この覇気ッ!あまりの喜びにぃ、感情がぁ混乱したようだァッ。俺ぁ強くなりすぎたァ!喜ばなければァ、我がぁ筋肉にぃ失礼だァッ!悲しみなどぉ…ないわァァ!!」
ギルガは笑った。そしてその笑い声が、1人の男の怒りを奮い立たせた。
「……..................そうかよ……友のために悲しむ事もできねぇ……ただの筋肉馬鹿ってことか……お前はァ゛ァ!!」
「っ!!…シェウトっ!!」
シェウトは床を強く蹴って飛び出した。握り締めた拳を引き、それをギルガの顔面目掛けて力強く放った。
「フンッ。」
ギルガは大きく分厚い右手で、その拳を受け止める。すると、シェウトは空中で体を捻り、左脚をギルガの右頬に叩き込んだ。
「ッ…ふっハハハハハァ!」
ギルガは掴んだ彼の拳を握り締め、逃げられないようにした。その隙に左腕のパワードアームを持ち上げ、先端のクロウをシェウトに向ける。
「良い蹴りだぁッ、だがこれではぁ避けれまいッ!!」
「させるかァッ!!“銀の拳”ッ!!」
アランは左の拳を銀色に染め、ギルガのパワードアームを下から殴って突き上げた。だがその行動はシェウトへの被害を防ぐものであり、その後の動きは想定できていなかった。
「迂闊ッ!!未熟ッ!!」
ギルガはアランの横腹に回転蹴りを放った。その勢いで掴んだシェウトを振り回し、床に叩きつけた。
「ぅがァァッ!!」
「がはァァ!!」
そしてギルガは足元で倒れたシェウトの胴を踏み付け、パワードアームのレバーを引いた。
「ハハハハァァ!!」
「……っ!!“破岩壁”ッ!!」
咄嗟にシェウトは床に踵を落とし、ギルガが立つ床を高く上げた。その瞬間に放たれた雷の波動はシェウトから外れ、床を焦がして削っていく。
「......チィッ。」
「“ヴォルケイノアッパー”ァァ!!」
「フンッ、動きもぉ考えもぉ…単純だなぁ!!」
アランは高所に立つギルガを目掛けて跳び上がり、炎を纏った拳を突き上げた。だが、手応えが無い。加え、ギルガが姿を消した。動揺するアランにシェウトが叫ぶ。
「アランッ!!後ろだぁっ!!避けろぉっ!!」
「何ッ!?」
振り返ると、大男の影が彼を覆っていた。アランは空中にいたため身動きが取れず、後ろから胴体を両腕で締められる。その後、2人は頭を下にして落下し始めた。
「この高さだァ!首の骨ぇイカれるどころかぁ、頭ぁ弾けるかもなァ!!さぁどうするッ!!」
「ぅぐっ!!」
腕の締め付けは、肋骨に響くほどの痛みだ。アランはその痛みを噛み締め、咄嗟に左腕を引いた。そして、床が目の前に差し掛かったその時、彼は左腕に炎の渦を纏わせて床に突き出した。
「“プロミネンスストレート”ぉッ!!」
拳から放たれた熱風が落下する2人を舞上げた。だが安心したのも束の間、ギルガは口角を上げ、アランの胴体をより強く締めた。
「“ボルトボディ”ッ!!」
「がァァァァァア゛ッッ!!」
ギルガは全身に電気を纏い、彼に密着するアランはそれを浴びた。熱く痺れる痛みが体内で枝分かれを繰り返し、無数の針のようになってアランを襲う。
「“疾風蹴り”ッ!!」
竜巻を纏ったシェウトの蹴りがギルガの背に捻じ込まれた。風と雷は対の関係。そのため互いの技は弾かれ合い、勢いでアランはギルガから解放され、シェウトは後ろへ飛ばされた。
「ぅっ!!」
「…シェウトっ!…すまねぇッ!」
アランは床に体を叩きつけたシェウトに口を開いた。だが、その後2人の間に着地したギルガは、背に攻撃を受けたはずなのに表情一つ変えていない。アランは彼の笑った顔を睨みつけた。
「……バケモノがっ……」
「後ろのぉシェウトとかいう男はぁ、動きに考えがぁある。だがぁアラン。お前の動きはぁ、単純っ。本当にぃ、勝てるとぉ思っているのかぁ?」
「っ………」
正直、彼はギルガとの力の差を十分に理解していた。動きも、構えもそうだ。ギルガには無駄も隙も無く、シェウトのように確実に攻撃を与えられる自信は無かった。まだ手足が痺れる。だがその痺れが腕から脳へ、また脳から腕へ伝わった時、アランの中で何かが目覚めた。
「どうしたぁ?立てぇ。降参はぁ許さんぞぉ。」
「……降参はしねぇ。もちろん、最後まで戦うさ。……ちょうど今、お前に一発ブチ込む方法を思い付いたんでなァ!!」
アランは一直線でギルガへ飛び掛かった。やはり彼の動きは単純。ギルガは一瞬呆れた顔をして構えた。
「“サンダーボルトストライク”ッ!!さぁこのままぁ真っ直ぐ向かってみろぉッ!!今度こそぉ頭が弾け飛ぶぞぉッ!!」
ギルガは右腕に激しい雷を纏った。これはキドゥーの左手を一瞬にして消し飛ばした技だ。アランがまともに喰らえば致命傷は確実だ。ここは退いてギルガの技の不発を狙うしかない。だが、彼は止まることなくギルガの方へ向かって来ていた。倒れるシェウトが首を上げて彼に叫ぶ。
「やめろアランッ!!死ぬぞぉッ!!」
「フンッ!気合いはぁ十分ッ!!…だがぁっ………」
そしてギルガは爆発音を響かせた拳を、稲妻を落とすようにアランに放った。
「やっぱりぃお前はぁ……キレてねぇんだよォォォッ!!」
「アラぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁンッッ!!」
雷を纏った拳がアランの頬に捻じ込まれ、爆発音と黒煙を上げた。アランが散った。シェウトの目に映ったその光景が、絶望となって彼に襲いかかる。また仲間を1人失った。気が狂いそうだった。ギルガの大きな背、その奥で立ちのぼる黒煙。しばらく、静寂が続いた。だが、違和感がある。ギルガの先に立つアランが倒れていない。床に血も落ちていない。その異変を最も感じていたのはギルガだ。その拳に手応えはあった。だが、頭部は飛ばされることも怯むこともなく、密着したままなのだ。そしてその頬は、金属のように硬かった。
「……...............まッ............まさかぁッ!!」
その瞬間、黒煙の中から拳が現れ、ギルガの腹に殴り込まれた。
「ぅぐッゴがァァッ!?」
黒煙が晴れ、ギルガの拳の先が見えた。そこには、左頬を金色に染めたアランの顔があった。その目は獣のように鋭い。そして、ギルガが次に注目したのは、彼の攻撃とは思えないほどの威力をもつ拳だ。
「金のぉ……拳ぃ……だとッ……!?」
「俺はシェウトみたいに回りくどい考えをするのが下手だ。だから、殴りたいヤツには真っ直ぐ殴りに行く。……んで、ようやくその方法が見つかったってトコロだ。」
すると、ギルガは左脚をアランの横腹に放った。だが彼は怯まない。見ると、彼の横腹は銀色に染まっていた。再びこの防御方法だ。相手の攻撃を瞬時に予測し、その部位を銅、銀、金に変化させる。並外れた判断力と集中力が必要とされる高度な技術だ。そして彼はそれを成し遂げた。
「“シルバーボディ”。相手の技の強度とその狙いに合わせて防御すれば確実に敵に近づける。あと——」
アランは金に染まった左の拳を、ギルガの腹により深く捻じ込んだ。
「ぅっぐァァッ…!!」
「キドゥーさんが目の前で殺されたんだ……俺は最高に……………ッ!!ブチギレてんだよぉッ!!“ヴォルケイノアッパー”ァァッ!!」
アランは金色の拳を炎の渦を纏った拳に変え、腹部から顎に向かって勢いよく突き上げた。
「ぐガァァァァッ!!」
ギルガは怯み、一歩退いた。だが、彼の防御力も並外れたものだ。すぐに体勢を立て直し、アランに拳を放つ。
「ハァッ!!」
重く素早い拳だ。だが、当たったのは銀色に染まったアランの顔面。すぐさま、左腕のパワードアームを伸ばしたがアランも右腕のパワードアームを伸ばし、互いに鉄塊を掴み合った。そして、アランの拳が飛んでくる。
「“金の拳”ぃッ!!」
「フンッ!金はぁ銀よりも重いッ!!遅くなってはぁ簡単に避け——」
アランの黄金に輝く左腕が、ギルガの顔面に捻じ込まれた。
「——ッぅゴァァッ!?」
「重いから遅くなる?逆だろ。重いからこそ速さに変わり、それが攻撃力になるんだろうがッ!!」
その勢いで、アランはギルガを殴り飛ばした。ギルガは床に体を叩きつけた後、手をついて着地した。
「……ヘッ……ヘヘッ……うれしいぜぇ……まさか、この俺にぃ、手をつかせるとはぁなぁ……だがッ!!」
ギルガはパワードアームのレバーを引き、アランに向けた。
「これの破壊力にはぁシルバーボディだろうがぁゴールドボディだろうがぁ耐えれまいッ!!」
「っ…くそッ……!……脚がッ……!」
アランは射線から離れようとした。しかし、先ほど受けた攻撃のせいで脚に麻痺が起こり、思うように動かなくなっていた。
「……まずいなっ……あれ喰らったら絶対死んじまう…………喰らわせたのは……2発かっ……俺にしちゃぁ上出来だろ。…………クソッ……ここまでかっ……悔しいなッ………」
「チリとなれェ゛ェ゛ェェェぃッッ!!」
アランは死を覚悟し、目を閉じた。瞼で覆ったはずの世界は明るかった。恐らく、ギルガの放つ光束が原因だろう。激しい爆発音が鼓膜を揺らした。




