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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
少年の夢編
186/206

パンドラの箱

 波に打たれ、揺れるたびに軋む音を鳴らす海賊船。その中の乗組員は全て生きた屍となっており、明かりのない不気味な空気と相まって、幽霊船という名が相応しく感じられる。レオ達4人は、複数の部屋が並ぶ通路で立ち止まっていた。


「……どうだ?行けそうか?」

「……………マシにはなってきました。」


 シルバの声に、アランは目を凝らしながら答える。暗闇の中で目が慣れ、辺りが少しずつ見えるようになってきた。暗順応だ。しかし、まだはっきり見えるとはいえない。


「んじゃ、とりあえず…ここら辺の部屋全部調べてみますか。…なんてったって海賊船だからなぁ、お宝があるかもよ〜。」

「…中に魔物が居るかもしれません。…皆さん、注意してください……。」


 ネネカの言葉の後に、彼らは各自、左右に並ぶドアを手前から順に開いた。


「ごめんくださ〜い……っと。」


 シルバが入った部屋には、大きな棚が2つあり、巻物のようなものが複数置かれていた。床にも巻物がいくつか落ちている。彼は足元に転がっていた巻物を拾い上げ、静かに見つめた。


「…………ほぉ、スクロールねぇ。……ウェーブスラッシュ……」


 それから、目についたスクロールを全て手に取り、目を凝らしながら見た。


「……スプラッシュショット……メイルストロム……スクインク…………水属性が多めか……どれも微妙だなぁ。」


 そして、ネネカが入った部屋には特に目につくような物は無く、アランも似たような様子だった。そんな中、レオは部屋の隅に置かれた箱を見つけた。彼は箱に近づき、その前で膝をつく。


「……………」


 レオはそっと箱を開けた。先ほどのシルバの言葉が影響して、彼は宝が入っているのを期待した。


「………これは………日記………」


 箱の中にはボロボロの日記帳が1冊だけ入っていた。レオは日記帳を開き、目を凝らして中を見る。


〈——結婚してから初めての航海。こういうのは苦手だが、妻がやれとうるさいから日記をつける事にした。〉


〈——雲ひとつない良い天気だった。見晴らしも良い。このままなら何事もなく目的地に着きそうだ。〉


〈——無事、ドナウの街に着いた。赤い屋根が並ぶ綺麗な街並みだった。賑やかな街にはいつも元気をもらう。だが、宿のベッドは柔らかすぎて眠れそうにない。〉


〈——この街での仕事も片付いた。明日ここを出るが、何やら船長が1人の学者の乗船を許可したらしい。〉


〈——学者は変わり者だった。真剣な顔をして、とにかく水平線の向こうへ行けと指示を出す。目的地も不明だ。あまり仕事を増やさないでもらいたい。妻にはいつ会えるのだろうか。〉


 そして次のページを捲ると、今までの落ち着いていた字とは違う、焦りを感じる走り書きがされていた。


〈——やはりあの学者を乗せるんじゃなかった。  どこへ向かっているのかと思えば、そこに島も無ければ海も無い。海が無いのだ。  前方の海は途切れていて、先は漆黒だ。流れが強いせいで引き返す事もできそうにないらしい。    この先は奈落だろうか。クルーがパニックになる中、大声で笑う学者を俺は思わず殴り飛ばした。   もう妻には会えないのだろうか。   ユリテミア、すまない。俺を許してくれ。愛して——〉


 そこから先のページには何も書かれていなかった。そしてレオは日記を閉じてアイテムポーチに入れると、ゆっくりと立ち上がり部屋を出た。


「そっちどうだった?」

「何も無いっす。」

「こっちも、特に……」


 他の3人が廊下に集まっていた。扉は全て開いている。レオが日記を読んでいる間に、彼らは全ての部屋を調べ終えていたのだ。アランがレオの方に振り向く。


「あ、レオ。何か見つかったか?」

「宝って言えるものは無かったけど、こんな物を見つけたよ。」


 レオはアランの手に日記を置いた。


「……なんだこれ、日記か。」


 アランはそれを開き、読み始めた。シルバとネネカも、彼の背後からその日記を覗く。






 しばらくして3人が読み終えると、彼らは揃って首を傾げていた。恐らくレオも彼らと同じような疑問を抱いている。レオは小さく口を開く。


「……この世界は半球状だっていうのはローアの女王様から聞いた。多分、帰ってこなかった学者の話もこれだよ。でも……」

「………でも………奈落に落ちた船が、今ここに……魔物を乗せて浮かんでいる……」


 アランは腕を組んで、そう呟く。彼らはこの世界の真実をまた1つ掴みそうな気がしていた。変に好奇心が昂る。だが、なぜだろう。その真実を知ってはいけないような気もした。その先を知ってしまえば、この世界の闇が鮮明となり、自分に襲いかかる。彼らは日記を見つめて様々な事を考えたが、あえてそれを口には出さず、日記を閉じると同時にその考え全てを仕舞い込んだ。その瞬間から、彼らにとってその日記はパンドラの箱となった。


「……まぁ考えても仕方がない。先に進もう。」


 シルバはそう口を開いて歩き出した。疑問を残したままではあったが、レオ達3人はその後考えるのを止めて彼の背を追った。しばらく歩くと、上へ続く階段に差し掛かった。その先も暗い。彼らは一段一段確実に、慎重に上って行った。階段を踏み締めるたび、軋む音が船内に響く。


「……おっ、見ろ。扉だ。」


 階段を上り終えた先に、大きな扉があった。左右にも通路はあったが、その先の扉からは外が見える。そのため、この大きな扉の先に何があるのか、4人はすぐに予想できた。彼らは扉の前で武器を構え、顔を見合わせる。


「良いか?俺の合図で飛び込め。レオは右、アランは左だ。」

「はいっ。」

「了解っす。」


 レオは剣を握り締め、アランはパワードアームのレバーを全て引いた。シルバはドアノブを静かに下げて口を開く。


「そんじゃぁ……………3………2………1………行くぞっ!!」


 シルバが扉を強く蹴って開いた瞬間、レオは右、アランは左、そしてシルバは真っ直ぐ部屋の奥へ飛び込んだ。前方には海賊帽とマントをつけた男の陰。シルバは刀を抜き、勢いよく振り下ろした。


「せァッ!!」


 すると陰は振り返り、シルバの刀をサーベルで受け止めた。刃と刃が交わる音が、部屋中に響き渡る。


「おぉ、さすが船長さん。やるねぇ。」


 シルバは下駄でサーベルを蹴り、後ろへ飛んだ。そして隙を空けることなく、レオが飛び込んだ。


「“インフィニティスラッシュ”ッ!!」


 レオは素早く剣を振り回したが、敵も一回一回の攻撃を確実に受け止めるようにサーベルを振り回した。交わる刃の音が何度も響き、火花を散らす。


「灰になれェッ!!」


 アランはパワードアームの手を広げ、敵に大きなエネルギー弾を放った。すると敵はレオを蹴り飛ばし、アランに銃を向けて放った。その弾丸はエネルギー弾を掻き消し、アランの方へ飛ぶ。その一瞬を見逃さなかった彼は、咄嗟にパワードアームの手を閉じ、弾丸を受け止めた。しかし弾丸は重く、アランは勢いで後ろへ飛び、着地した。


「……っ、危ねぇッ…」

「“狐火”!」


 シルバは緑の炎の面を顔に被り、敵の方へ飛び込んだ。壁や天井を蹴りながら、彼は目にも止まらぬ速さで何度も敵に斬り掛かる。敵は次々とその刃を受け止めていったが、ついにシルバの速さが勝り、その体に複数の傷を与えた。だが、敵はまるで無傷かのようにサーベルを振り続ける。


「やっぱりお前もアンデッド?どうりで臭いわけだッ!!“付喪ノ——」


 その時、船が大きく揺れ、レオとアランとネネカは体勢を崩し、シルバは蹴ろうとした壁を踏み外した。


「おっとぉっ…!」


 しかし敵は揺れに影響されずに立っている。そして敵は宙を舞うシルバに刃を光らせ、力強く振り上げた。


「”陽炎“っ…」


 敵の振った刃はシルバの形をした霧を斬り払った。敵だけでなく、レオ達の視界からもシルバの姿は消えた。


「…っ!このっ!!」

「であァァァァァッ!!」


 体勢を立て直したレオとアランは一斉に敵に飛び掛かった。敵はサーベルをレオに、銃をアランに向ける。その時だった。


「”剣扇舞-朧月-“。」


 敵の背後に突然現れたシルバが、神々ノ舞の名をもつ扇で敵の両腕を斬り落とした。そして、レオが握るテスタメントの刃が敵の胸を貫き、アランのパワードアームが敵の頭を掴んだ。


「“付喪ノ癒”っ。」


 シルバが口を開いた後、レオとアランの武器が癒しの光に包まれ、敵の腐敗した肉体を浄化した。そして、敵は大きな音を立てて倒れた。


「“レッシュ”。」


 ネネカはレオに歩み寄り、彼の傷を癒した。


「…ありがとう。」


 すると損傷の激しかった船が、まるで魔法をかけられたかのように少しずつ修復されていった。部屋や廊下に掛けられたランプには火が灯り、軋む音も聞こえない。シルバは扇を懐に入れながら口を開いた。


「なるほど、この船が秘宝ってわけね。」


 この船の船長と思える魔物は倒した。だが、レオとアランの耳には死人の声が入らなかった。そしてシルバが居るという事とは関係なく、手応えがあまり無い。


「………皆さん……外を……」


 ネネカは窓を指さした。その方向に視線を向けた時、彼らはようやく1番の違和感に気がついた。


「……まだ…」

「…………暗い………」


 その時、船は何かを強く打ち付けたような大きな音を立てて激しく揺れ、レオとネネカを転倒させた。


「うわぁっ!?」

「キャァッ!!」

「なんだッ!?」


 船に打ち付けられたのは波ではない。シルバは咄嗟に部屋を出て、外へ向かった。そして、偽りの夜空の下に立ち、シルバは目を大きく開いた。


「………まずいな……こりゃぁ……」

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