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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
少年の夢編
185/206

屍を乗せた船

「…………………これは……っ!」


 暗黒に包まれた海に浮かぶ舟の上、シルバはレオ達3人が見つめる方向に振り向いた。シルバが手に持つ松明が照らしたのは、巨大な木の板の壁。上に目をやると、ところどころ破れてはいたが帆が張られていた。船だ。そして破れた巨大な帆に目を凝らすと、髑髏の絵が見えた。


「………これって………」

「…………海賊船……」


 木が軋む音がする。見ると木の板は傷だらけで、沈んでいないのが不思議なくらいの損傷だった。そして、彼らが最も奇妙に思ったのは気配だ。何一つ感じない。アランは腕を組んで呟いた。


「見るからに怪しいな。夜みたいに暗くなるし、急に現れた海賊船からは人の気配が感じ取れない…………って、シルバさん!?」


 船縁から網目状の綱が垂れ下がっており、シルバはそれに手足を掛けて登っていた。左手には松明が握られている。


「ほら、登ってこいよ。置いて行くぞ。」

「いっ、今行きますっ!」


 ネネカはそう言って綱に手をかけた。レオとアランも綱を握り、上を目指した。軋む音が不気味に響く。軽々と登っていくシルバに対し、レオ達3人は暗黒の海に落ちないよう慎重に登っている。ふと下を見ると、先ほどまで乗っていた舟は無かった。アランは上のシルバに問いかける。


「シルバさんっ、舟どっか行っちゃいましたけど、帰りはどうするんすかっ?」

「……あ〜、まぁこの船で良くね?」

「正気っすか!?」


 そう話していると、シルバは砲門を潜って船内へ侵入した。3人も彼と同じように、砲門から中へ入った。中に入っても人の気配が無い。波が打ちつけるたびに軋む音が響き、不安感を募らせる。松明が照らす船内にも複数の損傷が見られた。目の前に置かれていた錆びた大砲も、車輪を失って倒れている。


「……静か……ですね……」

「…だな。それが余計に怪しい。」


 ネネカとアランは辺りを見回しながらそう口を開いた。すると、シルバは下駄を鳴らして歩き始めた。


「ここに居ても仕方ない。いろんな部屋見てまわろう。」

「あぁ…はい。」


 3人は彼の背を追った。並ぶ大砲や木箱の中の球砲弾は全て錆びている。長い間放置されていたことが見て取れる。ここまで手入れのされていない兵器を載せた船が海の真ん中で浮かんでいるというのは不自然だ。するとシルバは立ち止まった。後ろの3人も足を止める。


「…………っ、ちょい待ち。…レオ、これ持っといて。」

「……はい。……どうしたんです……?」


 レオはシルバから松明を受け取った。そしてシルバは胴に掛けていた弓と矢を手に取り、静かに構えた。しかし向く先は壁で、敵の姿はない。突き当たり左に通路がある。そこから来る敵を待ち伏せして討つのだろう。レオ達3人はそう思っていた。


「……“付喪(ツクモ)()”。………試してみるか……」


 矢が暖かい光を纏った。左右に引分けた弓は力強く開いている。するとシルバは弦にかけた矢を捻り、矢を放つ瞬間に弓を斜めに振り下ろした。矢は大きく弧を描いて、左の通路へと飛ぶ。そして、彼は言った。


「……手応えあり。」

「ありえねぇだろ。」


 アランの口から溢れ出る。シルバは再び弓を胴に掛け、3人を連れて矢が飛んだ先に向かった。錆びた大砲が並ぶ一直線の通路、突き当たりを左に曲がった死角、そこに倒れていたのは、肉体が腐敗した死体だった。額には矢が刺さっている。ネネカは一歩下がった。


「ぞっ……ゾンビ……っ!!」

「まぁ、そんなところだな。……どうりで人の気配が無いわけだ。死んでんだもん。動いてたけど。」


 シルバは死体の前でしゃがみ、矢を引き抜いた。矢についた血は墨のように黒く、そして臭う。シルバは死体の汚れた服にそれを拭い、矢筒に戻した。


「つまり……この船はあれだな。幽霊船ってやつだ。…間違いない。ここの大将は秘宝を持ってる。」

「…………幽霊船……っすか…」


 アランは壁にもたれて倒れる死体を見つめて固唾を呑んだ。するとシルバは立ち上がり、レオから松明を受け取って先へ進んだ。ネネカも彼について行く。アランも彼を追おうとしたが、レオはその場で立ち止まっていた。


「……どうした?レオ。」

「…………おかしい………」

「……何が。」

「…………声だよ。死人の声が…聞こえない。」


 その言葉を聞いて、アランは目を大きく開いた。確かにそうだ。今、自分はカイルの人体実験によって生み出された強い力をもつ魔物の討伐のためにここにいる。死を経験したレオとアランは、遭遇する敵から死人の声を聞くはずだ。


「………どういう…ことだ……」

「お〜いっ!置いて行くぞ〜っ!」


 振り返るシルバのその声で、レオとアランは一度考えるのをやめ、彼の方へ向かった。少し歩くと、下へ続く階段が左に見えた。しかし、通路は前方にも続いている。ネネカはシルバに問いかけた。


「……どうしましょう…?」

「…ん〜、左じゃね?多分この先進んでも、さっきみたいな砲門の部屋だろうし。」

「…そうですね。では、こっちに…」


 4人は階段を下り、左右に部屋が並ぶ長い通路に出た。松明では奥まで照らせない。アランは口を開いた。


「……結構大きいんだな、この船。」


 すると、松明の火が次第に小さくなり、辺りは少しずつ暗黒に包まれていった。


「……あ〜、しまった。松明これ1本なんだよなぁ……」

「そうなんですか…」


 視界は完全に黒に染まった。この暗闇に目が慣れるまでは時間がかかりそうだ。シルバは火の消えた松明を前方に投げ捨てた。その時だった。


『……ゥゥ……』


 声がした。何かいる。4人は武器を構えた。しかし、辺りは暗くてよく見えない。


「くっそ……こんな時にゾンビかっ!!」

「シルバさんっ!!どうしましょうっ!?」

「………」


 アランとネネカは身構えた。ネネカの声に、シルバの反応がない。すると、暗闇の中で床を強く蹴る音がした。誰かが飛び出したのだ。敵か、味方の誰かか。この視界では何も分からなかった。


「——っ!!あ゛ぁっ!!」

「何っ!?」


 誰かが攻撃を受けた。この声はシルバだった。3人はその声に衝撃を受けた。脳裏に浮かんだのはハクヤとの戦いだ。まさかあのシルバに再び危機が迫るとは思ってもいなかった。


「…っ…油断したぁッ……!……ネネカぁッ!!…回復をぉっ!!」

「…どっ、どこですかっ!?すぐ行きますっ!!」

「……こっちだぁっ……早くっ……」


 声のする方へネネカは走る。急がなければ、シルバが死ぬ。必死の思いでネネカは走った。


「……ここだっ……ネネカぁっ……!」

「はっ、はい!“リフレッシュ”っ!」


 暗闇で分からなかったが、ネネカは声のする方に手を伸ばし、癒しの光を当てた。しかし、どこか違和感があった。


『ウウアァ゛ァァ゛ァァ゛ア゛ッッ!!』

「えっ………」

「………………いやぁ、悪い悪い。1体逃してたわ。」


 ネネカが治癒魔法の光で包んだのは、1体のゾンビだった。


「キャァッ!!」

「おっと、そのまま。怖くないよ〜…治癒魔法ならす〜ぐ成仏しちゃうんだから。……ほら。」


 すると、ネネカの前に立っていたゾンビが倒れた。ネネカは突然でかつ予想外の出来事に腰を抜かした。


「……ど……どういう………こと……」

「うっす、お手伝いご苦労っ!」


 2人の元にレオとアランも駆けつけた。目を凝らすと、ネネカの前に1体、シルバの背後に4体のゾンビが倒れていた。


「……これは……」

「………なるほど…な……」


 レオは剣を鞘に入れ、ネネカの手を引いて立ち上がらせた。パワードアームを背負ったアランは腕を組んでその光景を見つめる。そしてシルバは静かに納刀し、ネネカに説明した。


「アンデッドは回復魔法で仕留められるけど、ネネカはこういう魔物嫌いそうだったし、暗闇なら見ずに倒せると思ったから——」

「確かに嫌いですけどっ……そこまでしなくても協力しましたッ!!」

「っ!」


 ネネカは怒った。シルバから目を逸らし、頬を膨らませている。そんな彼女にシルバは驚き、アランは苦笑いをした。


「……あ〜ぁ、シルバさん、ネネカに嫌われた。……なぁレオ、シルバさんってモテる割には女の扱いヘタクソだよな。」

「……男女関係なくでしょ。」

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