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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
少年の夢編
167/206

死んだ森

 パーニズでアランの新たなる武器パワードアームを回収した彼らは、血の色に染まる森の謎を調査すべく、イルアの森の前でペガサスから降りた。ここからの景色は以前とあまり変わらない。


「あの時以来だな、アラン。」

「……そうだな。」


 カルマの声に、アランは生い茂る草木を見つめながらそう返した。カルマは続けて口を開く。


「なんていうか、この場所も一応思い出の地なんだな。」

「…まぁ、一応な。」

「あの時と比べて、俺たち強くなれてっかな。」

「…どうだろうな。熊でも出たらションベンちびって逃げちまうかもな。」

「そりゃ生徒会長さんだろ。」


 2人は微笑した。昨日のレオを見て不安を感じていたアランだったが、こうして旅の1ページを思い出して仲間の頼もしさを改めて感じた。すると、ライラとマリスが2人の横に並び、口を開いた。


「さぁ、行こうか。」

「アラン君、私の自信作が神器に劣らないってトコロ、この目で確かめさせてね!」


 アランは彼女に頷いた。そして4人は真っ直ぐな目で森の中へと入って行った。草や木の枝を揺らす小動物の姿はあるが、襲ってきそうな魔物の気配は感じない。陽の光が遮られた木々の間を静かに進んで行く。


「ここを真っ直ぐ進めば、例の場所に着くはずだ。」


 ライラが背の高い草を掻き分けて口を開いた。彼らはさらに奥へと進んでいった。ここはイルアの森の中。多くの獣系の魔物が生息するため、時期によってはエンペラーグリズリーの時のように警戒が必要だが、それにしては彼らの足取りは順調だった。静かであるのが却って奇妙だ。


「どうしたんだろう?こんなに静かだったっけこの森。やっぱり、森の一部分が赤くなってた事に関係が——」


 マリスがそう口にしたその時、左の木の影から大きな何かが飛び出してきた。


『グォォォォォォォッッッ!!』


 エンペラーグリズリーだ。鋭い爪と牙を剥いて4人の方へ突進してきた。彼らは即座に散開して攻撃を避けると、エンペラーグリズリーはその勢いのまま太い木に体を叩きつけた。


「“リバーブスラッシュ”!!」


 カルマは神々ノ陣の名を持つ薙刀を斜めに振り上げ、斬撃の残像を複数放った。その残像はエンペラーグリズリーの前脚と後ろ脚に複数の傷を刻んだ。


「どぉりゃァァッッ!!」


 アランは地面を強く蹴って高く跳び、重たく巨大なパワードアームをエンペラーグリズリーの背に叩き落とした。骨を砕く大きな打撃音と地面を叩き割る重たい音が森中に響き渡り、胴体を潰されたエンペラーグリズリーは動かなくなった。


「………やり過ぎた……か…?エグい破壊力だな……」


 アランは苦笑いをして、恐る恐るパワードアームを持ち上げた。エンペラーグリズリーの胴体は貫かれ、見るに堪えない有様だった。これにはさすがにアランも可哀想に思った。


「…………ぉっ、ぉぅ…」

「さっすが!やっぱり私達が手を貸さなくても良いくらい十分強くなってるじゃん!」


 マリスは腰に手を置き、アランとカルマに笑顔で言った。それを聞いた2人は顔を見合わせ、再び微笑した。そして4人は武器を収め、再び歩き出したその時、マリスとライラは咄嗟に振り返った。


「“テラインパクト”!!」


 マリスのメイスが叩き飛ばしたのは、胸に穴の空いた大きな獣だった。倒したはずのエンペラーグリズリーが襲い掛かってきたのだ。その巨体は太い木に体を叩きつけ、胴体から赤黒い血を噴き出した。


「どういう事だッ!?HPはもう無いはずッ!!」

「分からない!明らかにおかしいよ!」


 アランの驚く声に、マリスは身の丈ほどあるメイスを構えてそう答えた。するとライラがマインゴーシュの名を持つレイピアを手に取り、穴のあいたエンペラーグリズリーの方へ飛び込んだ。


「“ブライト・スラスト”」


 ライラのレイピアは光り出し、血に染まるエンペラーグリズリーを光の速さで複数回突き刺した。


「たァァァァァァァァッッ!!」


 しかし、エンペラーグリズリーはそれに怯む事なく、ライラに両腕を振り下ろした。彼はその鋭い爪を後ろに跳んで避け、レイピアの血を払い落とした。


「全ての急所は突いたはず………っ?この色…この匂い…」


 ライラはエンペラーグリズリーの血を見て何かを感じ取った。すると彼はレイピアを鞘に収め、両手を前に伸ばした。


「当たってくれよッ、俺の勘ッ!」


 彼は再びエンペラーグリズリー目掛けて飛び出し、鋭い爪と牙を避けて、両手で頭部を掴んだ。


「“リフレッシュ”!!」


 彼の両手から緑色の癒しの光が放たれると、エンペラーグリズリーの体は傷が塞がるどころか乾涸びたミミズのようになって倒れた。


「………やっぱりな。」

「ライラ……これ、どういうこと?」


 マリスはライラに問いかけた。彼女の後ろには、まだ驚きを隠せないでいるアランとカルマの姿があった。ライラは彼女に口を開いた。


「アンデッドだ。回復魔法じゃないとトドメを刺せない厄介な相手だよ。…おかしい。明らかにおかしい。ここは本来霊体系の魔物は出ないはずだ。………死んだ森だよ。ここは。」


 アランとカルマは固唾を飲んだ。そして辺りを見回すと、自分たちが今居る場所が生い茂る木々に囲まれており陽の光が届かないほど暗い所にいる事を改めて理解した。草木の影が不気味な暗闇となって彼らの視線を震わせる。そんな彼らにライラは真剣な眼差しを向けた。


「先に言っておくよアランさん、カルマさん。ここから先は地獄だ。正直言って、君達は退いてもいい。」

「……………何言ってんすか。」


 アランは強く拳を握り締めた。


「やれますよ。……今さら、こんなモノを見せられて、退けるワケが無いっすよ。ライラさんとマリスさんが英雄になって俺とカルマは腰抜け?冗談じゃないっすよ。なんてったって、俺の職業は英雄王なんすから。」


 彼の声は少し震えていた。だが、とても誇らしく頼もしい顔をしていた。カルマも彼に続いて口を開いた。


「あぁ、そうだ。この先、どんなヤツが来ようと戦います!俺達は逃げずに戦って生き抜いて来たんですから!」


 彼の顔もまた頼もしかった。そんな彼らにライラとマリスは笑みを浮かべ、深く頷いた。


「分かった。……そうだね、君達はもう十分強い。急に変なこと言ってごめん。」

「でも、もしヤバくなったらすぐ逃げるんだよっ。じゃあ行こっか!」


 4人は再び歩き出した。進んでいく内に辺りは徐々に薄暗さを増していく。彼らは先ほどよりも周囲に警戒し、全身の感覚器官を集中させた。




         ”………………て……“




「っ?」


 アランの耳に何かが入った。しかし、すぐ気のせいだと思い、足を止めなかった。




         “………………して………”




「何だっ!?」


 アランはその場で立ち止まり、右腕のパワードアームに左手を添えた。そしてカルマは彼に問いかけた。


「どうした、アラン。」

「お前、今俺に話しかけたか?」

「………いや。」


 カルマのその言葉で、アランはますます地面を踏み締め、眉間に皺を寄せた。


「じゃあ、何か変な声しなかったか…?」

「………やめろよ、気持ち悪ぃ。」

「ねぇ………アレ…………何………?」


 マリスがゆっくりと上を指さした。他の3人は彼女が指をさす方向にゆっくりと顔を上げた。そこには、様々な形をした赤や桃色の果実、いや、人の臓器のようなものが木の枝から垂れ下がっていた。




           “殺゛して!!!!”

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