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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
少年の夢編
164/206

獅子心のブローチ

——レオ、アレは何!?」


 コルトは城の奥を指さした。巨大な炎の塊が動いている。それは立ち上る火炎というよりは大きな翼のようだった。炎の塊は徐々に形を変え、気付いた時には見たもの誰もが圧倒される姿となっていた。


「あ…あれは……」

「ライ…オン……」


『グオオオオオオオォォォォォォォッッッ!!』


 獄炎で形を成す巨大なライオンは気高い立髪を靡かせ、両翼を大きく広げた。それを目にしたシルバは弓を肩に掛け、銀刄の字が刻まれた刀を鞘から抜いた。


「おっと今度は自慢のペットさんが登場か?」


 ライオンは鋭い目でシルバとココを睨みつけた。獲物を狩る目をしている。


『グルルルッッ………』


 すると炎を纏った女は、彼らの乗るペガサスの方向へ真っ直ぐ右腕を伸ばした。その瞬間、巨大な炎のライオンは雄叫びを上げながら熱風を地面に叩きつけ、勢いよく飛んだ。シルバの方へ一直線だ。


『グォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!』


「奇遇だなぁ、俺も飼ってんだよ。炎のライオンをなぁっ!“炎獅子乱舞”ッ!!」


 巨大な炎の獣と、シルバが刀に宿した炎を纏う獅子が周囲を焼き尽くす熱風を放ってぶつかり合った。ココが生み出した夜空をも燃え盛る火炎の色に変えられたこの景色を見て、レオとコルトは息を呑みながらこう感じた。これこそが地獄の門の先に広がる景色なのだろうと。すると、刀で巨大な炎の塊を受け止めるシルバが口を開いた。


「よぉ、ここで1つクイズを出してやるよ。」


 この状況でも余裕そうな彼に、リュオンの姿をしたココでさえも少し驚いていた。


「卵ってあるだろ。ヒヨコちゃんやらが産まれる殻のアレだ。その卵同士を叩きつけたらどうなると思う?」

『グルルルル!!!』

「…ちょ、待てって。ったく、『テメェなに呑気に話しかけてんだ』って顔だな。俺はこれからどうなるかを教えてやろうとしてんの。良いか、正解は——」


 その瞬間、巨大なライオンの熱風はシルバとは反対の方向に放たれ、炎の形が歪んだ。


「質の良い方は無傷。そして、そうでない方は…綺麗にヒビが入る。」

『グォォォォォォォォッッッ!!』

「“大海無双”ッ!!セァッ!!」


 炎のライオンを受け止めていた刀が、岩をも砕くほどの荒波や水飛沫を纏った。シルバは炎が歪んだ部分から刃を走らせ、斬り刻んだ。


『グォォッ!!グッ………ォォォッ………』


 巨大な炎は火の粉となって散り、無数の船が焼け落ちた海に還った。そしてココはレオ達の位置を把握すると、リュオンの姿から元に戻り、偽りの夜空を本来の空に戻した。火炎を纏った女はここでようやく気が付いた。敵を2人見失っている事を。


「今だっ!!“エアスモーク”!!」


 コルトが魔法を唱えると、空気中を漂っていた全ての黒い煙がレオを隠すように集まった。エアスモークは、以前グレイスと戦った際に使ったアースモークの応用魔法で、地面が無くとも空気がある環境であれば自在に煙幕をつくることができる魔法だ。レオは黒く巨大な煙幕の中でポーチを開いた。取り出したのは海帝鯨に会いに行った時に残っていたオキシケルプだった。


「ネネカから貰っておいて良かった。さて…」


 レオはオキシケルプを口に入れて呼吸を安定させると、テスタメントの名を持つ剣を握り締め、黒煙の中ペガサスを飛ばした。相手の位置は正確には分からない。視界が隠される中自らの予想を信じ、彼はただ真っ直ぐ飛行した。


『……………』


 炎を纏った女は突如周囲に現れた黒煙の塊を睨みつけていた。コルトがつくった巨大な黒煙は徐々に城に近付く。この中に見失った2人が隠れている。女はそう確信し、煙幕に向かって無数の火の玉を放った。しかし、この行動が勝敗を確実に分けた。


「“バードストライク”!!そこだァァァァァァッ!!」

『っ!!!』


 城のすぐそばまで迫っていた黒い煙から剣を真っ直ぐ突きつけるレオが突然現れた。レオは女が放った火の玉を頼りに、相手の位置を分析したのだ。バードストライクは速度も高ければ威力も高い。刃が急所に刺さり爆発すれば敵を一撃で仕留める事もできる。そしてその刃は今、女の喉を捉えていた。




      “レオ君………私を殺すの……………”




「っ!?」


 レオは思わず剣を狙いから逸らしてしまった。声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。死を覚悟し震える声。学校では誰とでも話していたレオにとって、その声が誰なのかがすぐに分かった。屍山で命を落としたニヴェルだ。アランからは確かに死んだと聞いていた。が、これは確かに彼女の声だ。


「どう…して……」


 訳が分からなくなり気味の悪い汗が流れた。呼吸が乱れ、剣を持つ手が震える。その後レオは彼女の強い熱風を正面から浴び、黒煙の中へ飛ばされた。


「…っあァ!!」


 レオは黒い煙に包まれて落下していった。放心状態のレオをペガサスが運良く背で受け止めたため彼は無事だったが、彼は瞳を震わせて動かない。この時レオは、思い出すべきだが思い出したくない記憶とこの状況をリンクさせていた。


「こっちだァ!!“大海無双”ッ!!」

『っ!!!』


 女の背後をとったシルバが、荒波を纏った刃で女の首を刎ねた。



     “イヤ!!死にたくない!!死にた———”




「ニ………ヴェ……ル…………っぁぁ………あぁぁっ………」










 しばらくするとイリーグ周辺を包んでいた炎は消え、空も海も元の色を取り戻した。城のバルコニーに立つコルトとシルバとココは、膝をつき顔を上げないレオを見つめている。シルバの手には秘宝、獅子心のブローチが握られていた。


「危なかったな。みんな大した傷はなくて良かった。それより…」


 シルバはそう口を開き、レオの前で片膝をついた。


「レオ、何があった。お前はヤツを倒せたはずだ。ココが強風で俺を向かわせていなかったら、今頃どうなっていたか…」

「………ない………………信じたく………なぃ………誰が……誰がッ…………信じるもんかッ……」


 レオはゆっくりと両手を頭の上に置き、髪をグシャグシャにした。シルバは震える彼の肩に手を伸ばした。


「どうしたんだ。話してくれないか——」

「コルトぉっ!!!!」


 レオは突然頭を上げ、コルトの顔を見た。彼は顔中に皺をつくり、歯をガタガタと震わせている。こんなレオは、いや、こんなにも絶望に満ち溢れた顔をした人を今まで見た事がない。コルトは恐る恐る口を開いた。


「な……何…………?」

「屍山でだッ…………アランからも聞いたけど………僕らの同級生が多く死んだそうだね…」

「…………何で急に……そ、そうだよ……ほんとに…あの時は——」

「ニヴェルもか…」

「っ!?」


 コルトにとって、今の彼からその名前が出るのは予想もしていなかった。彼の言葉1つ1つが緊張感となって重く伸し掛かる。


「………そう……だけど……」

「……そうだよね。……あぁ…そうだ……アランから聞いているとも…………じゃあ、………その遺体は。」

「い……遺体……っ?…………分からないよッ…回収されたかも何も……ごめん、僕は何も知ら——」

「うわあ゛ああ゛あ゛あぁああ゛あぁあぁああ゛ぁああ゛あぁぁぁああ゛あぁああぁあぁあ゛あぁあぁぁぁぁぁあ゛ぁああっっ!!!」


 レオがニヴェルの死とリンクさせていたのは、カイルの人体実験だった。

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