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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
161/206

天へ

 月光の破片を手に入れたレオ達は、要塞都市ローアに帰還した。静かに降る粉雪が高く昇る太陽に照らされ輝く。ペガサスから降り酒場に入ると、奥の方にマリス達の姿があった。みんな飲み物を片手に、大きなテーブルを囲んでいる。レオ達にまず気付いたのはマリスだった。


「あっ、帰ってきた!」


 マリスは立ち上がり、笑顔で手を振る。4人は彼女らが座るテーブル席まで歩き、空いている席に腰をかけた。シルバは口を開く。


「おいおい、俺たちが外出してる間、呑気に茶会やってたってのか?」

「いや、しっかり働いたさ。これを手に入れてちょうど帰って来たところだ。」


 ライラはそう言うとポーチから何かを取り出し、シルバの前まで滑らせるように投げた。シルバはそれを手に取る。指輪だ。ライラは続けて口を開いた。


「夢鬼霊の指輪、秘宝だ。」

「ほぉ……こりゃすごい。ご苦労なこった。」


 シルバは同じように指輪をテーブルの上で滑らせ、ライラに返した。コルトは手に持つ飲み物を一口飲んだ後、レオに問いかけた。


「それで、月光は見つかったの?」

「うん。破片だけだったけどね……」


 レオは少し笑顔を濁した。隣に座るシルバは月光の破片を手に持ち、テーブルの上に左肘を置いて口を開いた。


「これで全て揃った。あとは世界の理を掌る神とやらを呼ぶだけだ。」

「そういえば、ティアステーラとか揃えたのはいいっすけど、どうやって呼ぶんすかね。儀式とか、呪文とか……」

「それなら、リュオンからこんなものを貰ったよ。」


 アランの疑問の声に、ライラはそう答えて1枚の紙をテーブルの中心に置いた。レオ達は身を乗り出すようにしてその紙を見た。シルバは字を目で追う。


「え〜…っと……なになに、むか〜しむかしあるところに——」

「んな事書かれてねぇよ。どこの何物語だ。」


 ライラは正面に座るシルバの髪を掴んだ。


「それにしても、難しそうな文章ですね。読めない字もありますし……」


 ネネカはそう呟いた。すると、ココがテーブルの上に乗り、紙の前で口を開いた。


「まぁ、一部宗教的なドグマ文字があるからなぁ。無理もない。」

「…あぁもう面倒くせぇ。お前やれライラ。」

「ま、そうなるだろうと思ってたよ。」


 ライラはシルバにそう言い、紙を回収した。その後すぐにレオが問いかけた。


「それで、その儀式とかは今からやるんですか?」

「まぁ、そのつもりだ。さっさとこの長ったらしい戦いを終わらせたいからな。」


 シルバは月光の破片に自分の顔を映し、彼に答えた。そして、破片を手の中に入れると同時に立ち上がった。


「んじゃ、行くか。」


 彼に続き、レオ達も席を立った。そして扉へ向かう途中、カウンターでそれぞれ会計を済ませ、人気(ひとけ)のない広場まで歩いた。到着すると、さっそくシルバは広場の中心に月光の破片と帯に縛られた陽光を置き、続けてレオ、アラン、ネネカは各自ポーチからティアステーラを取り出し、陽光と月光の破片の近くに置いた。


「それじゃあ、始めるよ。みんな、目を閉じて。」


 ライラの指示で、彼らはゆっくりと瞼を下ろした。ライラは中心に置かれた物の前で左の膝をつき、両手を強く握り締めた。そして彼は小さく口を開く。


「ミーラス、ミーラス………パルゲーアにて甦りし民らが再臨の鍵を呼び戻し、今ここに参る。幾度の廻廊を渡りて、導きの天光を欲す。刻は来た。今こそ、理を受けし民どもと天を繋ぎたまえ……」







 先ほどまでの冷たい風は一瞬にして止んだ。瞳を閉じていても辺りの明るさが見える。身が軽い。レオ達はゆっくりとその目を開いた。


「………おい……嘘だろ……」

「こっ………ここ…は……」


 辺り一面、黄金色の空が広がっていた。足元を見ると、ローアの白い煉瓦ではなく、苔を生やした石煉瓦だった。まるで神殿だ。その床は金色の雲海に包まれていた。


「……いかにも神様が居そうな雰囲気だな……」

「…神々しい……ね……」


 見るもの全てが別次元に思えた。すると、彼らの耳に声が入り込んだ。


「お〜い。こっち見ぃ。聞こえとるじゃろぉ……」


 背後からだ。レオ達はゆっくりと振り向いた。そこには、様々な宝石で装飾された巨大な亀が居た。レオ達はぽかんと口を開けてそれを見つめた。


「………亀……だな……」

「………亀……だね…………しかも……喋っ——」


 アランとレオがそう言うと、巨大な亀はため息を吐き、口を開いた。


「……あのぉ〜、ワシ……亀……だけど……神……なのよぉ。……一応………うん。神………んで……女神……ね。」

「…………カメガミ(・・・)ってわけか。」


 カルマは静かに呟いた。すると巨大な亀は彼の方を見た。


「あぁっ、うっわぁっ、今ワシの事バカにしたじゃろっ。ワシだってなぁ、ワシだってなぁっ、なりたくて亀になったワケじゃ——」

「すまない、亀神さん。さっそく本題に入りたいんだが。」


 シルバがそう口を開くと、巨大な亀は彼の方を見た。


「ちょっおまっ、ワシがぁっ…ワシが話しとる…途中でしょうがぁっ。なんじゃッ。」

「ここに来れば、導きの光がどうとかって聞いたんだが……」

「あぁ〜………誰かと思えば、お前さん、銀刄のぉ……」

「シルバだ。」


 シルバは一歩前に出た。


「おぉ、そうじゃろ、な。それにしても、個性豊かな者どもが勢揃いじゃな。ライトニングにダークネス、それに異界の者ときた。それで?導きの光がどうとか……おそらく神器の事じゃな。ジズ、持って来てくれ。」

「……よろしいのですか。」


 すると、亀神の影に隠れていた鶴の姿の男が口を開いた。シェウトは彼を見て静かに呟く。


「うわっ、今度は鳥かっ。」

「ジズよ、本来神器というのはそう易々と手渡せる物ではない。それはお前も分かっておるはず。しかし、この者どもは鍵を揃えた。つまり、そういう事なのじゃ。悔しい気がするのは気のせいじゃろうが…」


 亀神がそう言うと、ジズは頭を少し下げ、一瞬にして姿を消した。


「……はい、今『うわっ、今度は鳥かっ』とか言ったヤツ手ぇ上げんかいっ。」


 亀神がそう言うと、シェウトは目を逸らし、口笛を吹いた。そんな事をしていると、ジズはすぐに彼らの前に戻って来た。同時に、レオ達の周りに、様々な武器が円を描くように浮かび、ゆっくりと回り始めた。どうやら神器は、武器の種類につき1つずつらしい。


「うぉっ、何だっ!?」

「何って、……神器じゃろがい。ほれ、選ばんか。」


 亀神が言うと、レオは剣を見つけ、ゆっくりと手に取った。すると、ジズが口を開いた。


「それはテスタメント。嘗て世界に邪を振り撒いた存在を断ったセブンソードのひとつ。その後の戦乱をも生き、奉納された剣だ。」


 続いて、ネネカはロザリオを手に取った。ジズは彼女に口を開く。


「それはエンジェルハート。戦乱の世に癒しを与えた神器だ。」


 すると、アランとシェウトが同じガントレットに手を伸ばした。


「あっ……」

「なっ……」

「それは天昇拳ゴッドハンド。嘗て英雄の名を受け——」


 ジズが2人にそう口を開くと、アランとシェウトはじゃんけんを始めた。何度かあいこを繰り返した後、シェウトがパーを出し、勝利した。


「おっしゃぁっ!!」

「クッソっ!!」

「………まさか、神器をそんな手遊びで決められるとはっ……」


 亀神はため息を吐いた。すると、マリスはアランの肩に手を置き、口を開いた。


「ドンマイ。…アラン君へプレゼントするつもりの武器がもうすぐ完成するトコロだから待ってて。」

「………そうでしたね。…あざっす。」


 その後、コルトはアスクレピオスの名を持つ杖を、カルマは神々ノ陣の名を持つ薙刀を、ライラはマインゴーシュの名を持つレイピアを、マリスはメイスの名を持つハンマーを手に取った。


「あれっ………刀が…無いな……」


 シルバは全ての神器を見た後にそう呟いた。そんな彼に亀神は答えた。


「おや、まだ気付いていなかったとは……まぁよい。刀はゆっくりと見つけると良いさ。今回は神々ノ舞の名を持つ扇と、神々ノ殲の名を持つ弓を持っていくと良い。お前なら使えるじゃろう。」

「ほぉ〜…2つも……。随分と信頼されてるようで…」


 シルバは2つの武器を受け取った。亀神はシルバに口を開いた後にココをしばらく見つめ、その後レオ達を見つめた。


「さて、さっそくじゃが、下界ではどうやら良からぬ事が起ころうとしておる。お前たちが神器を手にしたという事は、この世界の存亡を託された事に変わり無い。努努(ゆめゆめ)忘れぬことじゃな。」

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