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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
154/206

海帝鯨

 ケルピーに乗るレオ達はディプリューンについて行った。色とりどりの魚や巨大な巻き貝の家々、この虹色の海を優雅に泳ぐ魚人族がすれ違う。しかし、それらの魚人達の大半は警戒しているような目をレオ達に向けている。


「あの、ディプリューンさん。なぜここは深海なのに明るいんですか?」


 レオはふと気になり、彼の大きな背を見て問いかけた。


「ふむ…我々魚人族が住むここはユーデューシェルという巨大な貝の中でな、中心部にある真珠が放つ光によって明るくなっているんだ。我々はこのユーデューシェルの成長と共に生活の範囲を広げていった。……あの方が心を塞いでからだが。」

「……海帝鯨…ですか?」

「……あぁ。」


 ディプリューンは背後から聞こえたネネカの声に頷いた。


「あの方は鮮麗を掌る海の王だ。かつての魚人族は太陽の光が届く美しい海で暮らしていた。だがある日、あの方は自らが思う最も鮮麗なモノを穢され、自身の心と同族を海の底へと沈めた。上の界との関係を絶ったのだ。……しかし、あの方から“人”の話を聞いたのは一度きりでな。これを機にもう一度話を聞きたいと思ったのだ。」

「……はぁ……?……情報量がすごくて頭がついてこねぇ……」


 アランは難しい顔をして頭を掻いた。それに対してディプリューンは、長く伸びた髭を撫でながら少しだけ笑みを浮かべる。


「君達にとっては異族の話だ。無理もない。」


 そう話しながら先へ進むにつれて、周囲にあったはずの巻き貝の家は徐々にその数を減らしていき、気がつくと辺りは静かになっていた。ただ広がる虹色の水の世界。泳ぎ回る色とりどりの小魚達。


「もうすぐだ。」


 ディプリューンが口を開いた。3人は固唾を飲み、前を見つめる。進むごとに周囲の魚の数が増えているように感じる。すると、進む先にあった小魚の群れが散開し、4人の前に巨大な陰が現れた。


「っ!!」

「で……でけぇっ……!!」


 現れたのは、頭に珊瑚の冠を乗せ、体中に生えた海藻を揺らす巨大な鯨。海帝鯨だった。ディプリューンは右手に持つ三叉槍を立て、左の拳を右の横腹にあてて頭を下げた。敬礼だろうか。彼は頭を下げながら口を開く。


「海帝鯨よ。この謁見に感謝の意を表する。」

『………ディプリューン。…よい。』


 海帝鯨は彼に口を開いた。その口は大きく、周囲を泳ぎ回る魚を吸い込んでしまいそうなほどだった。海帝鯨は続けて話す。


『…おや……人の子かい。……もう見ないはずだったんだがねぇ。』


 送られた視線が圧力となってレオ達に襲い掛かる。レオはその圧力に逆らい、海帝鯨に真っ直ぐな視線を向けて口を開いた。


「僕はレオ・ディグランス・ストレンジャーと言いますっ!後ろにいる彼がガルア・ラウンで、彼女がクナシア・ネネカですっ!僕達はティアステーラが欲しくてここに来ましたっ!」

『……ふん…ティアステーラねぇ……。そうかいそうかい。まだ人は(わらわ)のモノが足りんと言うのかい?』


 海帝鯨の表情が変わった。怒りだ。心の奥から湧き上がる憎悪のようなものを感じる。周囲にいた魚達は次々と姿を消した。すると、ディプリューンは顔を上げ、口を開いた。


「海帝鯨よ。確かに彼らは人の子だ。だが人間という異族であり、奴らとは無関係だ。どうか気を鎮めて欲しい。」

『……人間……、ふん、これは驚いたぁ。妾の知らん種族が居たとは。ディプリューンよ、無関係とは言ったが…それは本当なんだろうねぇ?』

「うむ…全て誠。」


 ディプリューンは頷いた。しかし海帝鯨はその表情を変えない。


『とは言ってもだディプリューン。妾は後ろの者どもを見て腹が立った。鮮麗を穢した奴らと、まるで似ておるではないか。ディプリューンよ。妾はお前の優しさを好んでおるが、こうとなれば話は別だ。まさか、人をこの海に入れるとはねぇ。』


 すると、ディプリューンの後ろに居たネネカが思い切って口を開いた。


「あのっ、海帝鯨様っ!話していただけませんかっ!?あなたと“人”の間に何があったのかっ、聞かせてくださいっ!!」

『何っ…!』


 海帝鯨はその顔に驚きを見せた。彼女に続いてアランも口を開く。


「あぁそうだっ!!さっきから気になってしょうがねぇ!!」

『っ…!!妾にっ…思い出せと言うのかい!!』


 アランの怒鳴り声に海帝鯨はわずかに後ろに下がった。続いてレオも口を開く。


「僕らは違う世界から来たんですっ!この世界について無知過ぎるんですっ!!聞かせてくださいっ!!」

『なっ…何を言うっ!!違う世界など訳の分からん事をっ!!……人もっ…お前たち人間もっ…姿は似ておるではないかっ!!同じだっ!!妾の過去を笑うのだろうっ!?穢すのだろうっ!?』


 海帝鯨は怒りに震え上がった。その姿に鮮麗という言葉はとても似合わない。虹色の海にその声が響き渡ったその時、ディプリューンは大きく口を開いた。


「海帝鯨よっ!!」

『っ!!』


 海帝鯨は口を閉じた。彼は一息ついて話し始めた。


「私からも……どうか、再びあの話をっ……」

『……ディプリューン………』


 しばらく海帝鯨は黙り込んだ。よほどその過去を話したくないのだろう。虹色の海が静けさを取り戻した時、周囲に再び小魚の群れが姿を現した。そして、ゆっくりと海帝鯨の口が開く。


『…これは何十年も前の話だ。……妾と、1人の少女の話さ。』









 空一面を覆う灰色の雲、波に揺れる船。海賊のような複数の乗組員が、剣や斧を持って船を歩き回る。


「31から40、異常無しだ。」


 聞こえるのは男たちの酒焼け声、打ち付ける波の音、乗組員の足音、曇り空の向こうでかすかに聞こえる雷の音、そして鎖の音だ。


「あ〜、11から20の担当なんだが、14が所々腐っちまってる。ありゃもう売りモンになんねぇぞ。」

「へっ…そうか。んじゃ、海にでも捨てちまえ。」

「あいよぉ御頭ァ。」


 斧を持った男はその14の前に立ち、それに繋がれた鎖を斧で叩き切った。


「オラ立てよぉ!!」


 男はゴツゴツした手で、ハエが集る裸の少年の細い腕を掴み、無理矢理引っ張った。少年の右腕には14の字の焼き印がある。


「………ぁ………ぁァ……」

「立てっツってんだろ隷人形がァっ!!」


 男は少年の頬に平手打ちをした。すると、首の骨が折れる音と同時に少年のやせ細った顔は逆を向いた。そして膝から崩れ落ち、動かなくなった。


「っ!…いけねぇっ!!……まぁいい、売りモンにならねぇ事には変わりなかったんだ。」


 男はそう口から吐き出し、細い体の少年を海に放り投げた。


「おいベルモ、今回は許すが商品はもっと丁寧に扱え。」


 剣を持った細い男が彼に近寄る。


「丁寧にって…お前こそ女の隷人形を毎晩部屋にブチ込んで遊んでるじゃねぇか。こんなガキどもに欲情するなんてイカれてやがるぜ。」

「フン、悪いな。こういう女性にしか興味が無いんでね。」


 船の上にずらりと並ぶ裸の子ども達。それらのやせ細った手足は鎖で繋がれており、右腕には数字の焼き印がある。船の行く先、自身の定め。鎖に繋がれた彼らの中には、誰一人とそれらを知る者は居なかった。

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