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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
147/206

獣の世界へ

 北ラスカンの町に太陽が昇った。レオは目を覚まし、天井を見つめると、すぐに昨夜の事件を思い出した。改めて、この町への恐怖心が湧き上がった。レオは急いでベッドから降り、アランとネネカに口を開いた。


「アランっネネカっ!朝だよ、早くこの町を出ようっ!」


 ネネカは目を擦りながら体を起こした。


「ぁっ……レオさん……おはよう…ございます……」


 一方、アランは布団から出てこない。レオはアランの布団を掴み、強引に引っ張った。するとベッドの上には、嫌そうな細い目でレオを見つめるアランと、しわのあるシーツだけが残った。


「……何だぁっ……?」

「支度してっ。すぐにこの町を出てブランカへ向かう。ほら早くっ!」

「……良いじゃねぇか……もう少し——」


 頭を掻くアラン。レオはアランに彼のポーチを投げた。


「いてっ…」

「昨夜の事覚えてないの!?もしあれが殺人事件だとしたらっ…。あの時はたまたま隣の部屋だったから助かったけど……。そもそもこの町に来た理由は全部アランなんだから、今度はこっちの言う事聞いてもらうよっ!」

「分かったって…言う事聞くから。…な?」


 その後レオ達は宿屋を出て、ペガサスに乗った。3頭のペガサスは大きな翼を広げ、大空へと舞い上がる。行き先はブランカの最深部、獣人族の領域だ。






 太陽の反射で輝きを放つ青い海を越え、荒廃したビルや瓦礫の山が並ぶ南ラスカンのスラム街を通り過ぎると、下に見える大陸の肌は次第に、緑色に生い茂る木々に隠された。ブランカだ。アランは大陸に広がる木々を見つめて口を開いた。


「…さて、ブランカでは毎度お馴染み、着陸地点での困惑…だな。」

「それに今回は最深部が目的地…南東のエリアに森皇獣が居るっていう話だけど、あそこは特に木々が隙間を埋めている……手前に降りるしかないのか……」


 3人は木々の隙間が広い場所を見つけ、ペガサスの高度を慎重に下げた。羽音は大きくなり、木々の葉が揺れる。蹄の音と共に着陸すると、3人はペガサスから降り、辺りを見渡した。やはり、草木が太く大きくあるせいで、見通しが悪い。加えて、空を隠す木々の枝や葉により、辺りは薄暗い。


「……行きましょう。」


 ネネカのその一言で、レオ達は生い茂った草を掻き分けて進み始めた。この森の中では、いつどこから魔物が襲い掛かって来るか分からないという恐怖心が、足元に纏わりついて歩みを遅くする。それを紛らそうとしたのか、アランは少し大きな声で口を開いた。


「…し、森皇獣って、炎王竜と同じく、怖かったりしねぇよなぁっ?」

「……どうだろうね。今回もまた、出会ってすぐに攻撃されたりして……」

「……もしそうなら、海帝鯨は絶対にパスだな。」


 レオの言葉に、アランはそう呟いて苦笑いをした。そんな会話は長くは続かず、すぐに沈黙の中に鳥の薄い鳴き声が響いた。掻き分けられた草が音を立てる。すると、レオの視界に複数の小さな光が入った。


「……っ、何だ?」


 そのギラギラとした光は、太い木々の間から覗ける。レオは不気味に思った。その光は、どれも2つ並んでいるからだ。そして、その光は、奥に進むにつれて増えているようにも感じるからだ。レオがそっと剣を握ろうとしたその時——


『ガルルルルッ!!』

『グォォォォォォッ!!』


「っ!?魔物だっ!!」


 3人を囲むように、複数の獣が飛び掛かった。ギラリと光る目、鋭い牙と爪、雷を纏う毛皮。トロヴァオジャガーだ。レオは咄嗟に剣を抜き、真上に跳んだ。


「“エクスカリバー”っ、“スラッシュサイクロン”っ!!」


 レオは竜巻を纏って回転斬りをし、複数の獣の体に刃を走らせた。トロヴァオジャガーは赤い血を噴き出しながら風に飛ばされ、体を木に叩きつけられた。が、それらはすぐに立ち、再び3人を睨んだ。レオとアランはネネカを隠すように立ち、構えた。互いに鋭い目で見つめる。アランは小さく口を開いた。


「…コイツら全部倒すつもりか?ネネカのウォールファントムで切り抜けるってのもアリなんじゃねぇか?」

「いえ、この魔物はすぐに距離を縮めて来ます。……防御壁は出せませんっ。」


『グルルルッ……ガウッ!!』

『ガウッ!!』

『ガウッ!!』

『ガウッ!!』


 すると、3人を囲むトロヴァオジャガーの群れが一斉に鳴き始めた。毛皮の雷光が増していく。魔物の行動に戸惑っていたその時、レオとアランの体に電気が走った。


「うっ!!あ゛あ゛ああ゛ぁぁあっ!!」

「があ゛あぁあ゛ぁああっ!!」

「っ!!レオさんっ!!アランさんっ!!」


 ネネカは2人に叫んだ。そして、ある事に気が付いた。2人を襲う電気は、先程レオがトロヴァオジャガーを斬った際に飛んだ返り血から生まれている事に。だが、それが分かったところで、彼女にはどうする事もできない。このまま痺れて倒れた2人と共に、獣の餌食になってしまうのか。レオとアランの苦しむ声を聞くたびに、そんな恐怖心が湧き上がって来た。


「っ!!誰かぁっ!!助けて下さぁぁいっ!!」


 ネネカは耳を塞ぎながら、目を強く閉じてそう叫んだ。もう、こうするしか手はない。そう感じた。その時だった。


「“槍脚連撃”っ!!」


 トロヴァオジャガーの群れが真上からの攻撃によって背中を貫かれ、次々と倒れていった。鳴き声が止むと、その攻撃を放った人物が3人の前に着地した。以前武闘大会でアランと闘ったキドゥーだ。


「あ…あなたはっ……」

「アランと、レオだったな?……まだ、戦えるな?」


 キドゥーは地面に手をつく2人に声をかけた。レオとアランはゆっくりと立ち上がり、再び地面を踏み締めて構えた。アランは口を開く。


「まさか、こんなところで会えるとは思ってませんでしたよ、キドゥーさん。助けてくれてっありがとうございますっ。」

「フッ、たまたま近くでトレーニングをしていたのでな。」


『ガルルルル!!』

『グルルルッ!!』


 獣の群れは4人を睨み付け、毛皮に電気を纏った。そして、鋭い爪と牙を剥き出しにして、勢いよく飛び掛かる。


「“バードストライク”っ!!」

「“プロミネンスストレート”ぉっ!!」

「“シコーチカポエイラ”っ。」


 レオの光の刃が1頭のトロヴァオジャガーに刺さり、大爆破を起こした。そして、アランの右腕に、その爆発で生まれた炎が纏い、獣の群れを殴り焼いた。火だるまになって踠き苦しむトロヴァオジャガーの群れ、キドゥーは不思議な体の動かし方で素早く接近し、脚を鞭のようにして叩き付けた。群れは全て倒れた。


「“フレッシュ”。」


 ネネカはレオとアランに回復魔法を唱え、傷を癒した。そして、レオが剣を鞘に納めると、キドゥーは3人に口を開いた。


「それにしても、なぜお前達がこんな森の奥に?」

「…僕達は、森皇獣に会いに来ました。」


 レオは真っ直ぐな眼差しで答えた。

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