熱の霧
メルビアの白い大地の真ん中に、赤く大きな口を開ける洞窟がある。その入り口の前に立つレオは、固唾を呑み、洞窟へ1歩足を踏み入れた。すると、つま先から痺れるような熱気が胸へと上がってきた。
「っ!!…入り口から暑いなんてっ……。アラン、ネネカ。早速だけど、クールライチを使おう。」
「…そんなに暑いのですか……?」
ネネカがレオを心配する顔で言葉を吐いたすぐに、3人の緊張感はさらに高まった。もし、深層でクールライチの体温冷却効果が切れたら——
3人はポーチからクールライチを取り出し、皮を剥いて口に入れた。まるでライチ風味の丸いアイスキャンディーのようなそれは口の中で転がり、噛んで飲み込んだ途端に、全身が氷のように冷たくなった。
「よし……行こう。」
「あぁ。」
レオの真っ直ぐな眼差しにアランは頷き、レオを先頭に3人は洞窟へと入って行った。入り口から早速、熱気による息苦しい空気が漂い、緩やかな下り坂が奥へと誘う。進む先は橙色で隠されているため、壁や天井が広いとはいえ、視界が悪い。アランは険しい顔で口を開いた。
「…こりゃぁクールライチ無しじゃあ進めなかっただろうな。……周り見るだけで暑苦しい。」
「……っ!!来るっ!!“エクスカリバー”っ!!」
レオは光の剣を抜いて構えると、3人の方へ火の玉が飛んできた。レオはそれを斬り払い、慎重な歩みで剣を再び構えた。
「っ……どこだっ!!」
「これじゃあ敵がどこに居るか分かりづれぇっ!!」
アランもレオの左に立ち、拳を構えた。視界が悪い中、飛んでくる火の玉に対応するのは、奥に進むにつれて困難になる。すると前方から3つの火の玉が飛んできた。
「っ!!フッ!!」
「おらぁっ!!」
レオは光の刃でそれを2つ斬り払い、アランは殴って掻き消した。
「クソッ…どっから飛んで来るんだっ!!」
「今のも先程のも、私達の方へ飛んで来ました。……恐らく魔物は、熱気に紛れて私達を狙っています。」
ネネカが小さい口を開いて言うと、レオは、より視線を鋭くした。
「つまり、僕達は不利だ。……せめて、火の玉がどこから飛んで来るのかさえ分かれば、場合によっては安心できるけど……」
レオがそう口を開いていると、また火の玉が1つ飛んで来た。アランは再び拳を構える。
「っ、またかよっ!!」
「僕にやらせてっ!!“バードストライク”っ!!」
レオは光の剣に熱気を纏わせ、剣の先を火の玉に向けて真っ直ぐ飛び込んだ。剣は火の玉を貫き、手応えとともに天井に刺さった。
「——っ、これはっ…」
剣が貫いたのは、火を纏ったコウモリだった。フラマーバットだ。そして、剣が爆発する直前にレオは左右に目をやると、そこには、天井を埋め尽くすほどのフラマーバットがぶら下がっていた。
「っ!!」
剣が爆発を引き起こすと、レオはアランとネネカの前に着地し、大きく口を開いた。
「天井に大量のコウモリみたいな魔物が居たっ!!走るよっ!!」
「っ…キリがねぇほど居んのかっ!?」
「行きましょうっ!!」
3人は下り坂を走り出した。すると、それに合わせるように無数のフラマーバットが蜂起し、翼を動かして飛んで来た。
『キーーーーッ!!』
『キーーッキーーッ!!』
背後からフラマーバットの群れが、壁となって迫り来る。同時に、無数の火の玉が飛んで来た。
「どうすんだよっ!!アイツら容赦ねぇぞ!!火の玉がっ——」
「あの数は対応できないっ!!とにかく走るんだっ!!」
下り坂のため、脚の回転が早くなる。迫り来る無数の羽音と火の壁。それらが見通しの悪い通路の中を駆ける3人の思考を妨げる。
『キーーッキーーッキーーーーッ!!』
『キーーーーッキーーーーッ!!』
「はぁっ…はぁっ…!レオさんっ!……どこまで走ればっ!?」
「分からないっ!!っ……どこまで続くんだっ、この下り坂はっ!!」
3人はとにかく全力で腕を振って走った。熱気を纏った赤い霧が、顔の毛穴を刺激する。眼球が痛い。
「おいっ!!広い空間に出れるぞっ!!」
アランは大きく口を開いた。3人の進む先には、アランが言ったとおり、広い空間のようなものが見える。レオ達はそこへ向かって、全力で走り抜けた。熱気の霧が晴れたその時、3人は強く地面を踏み締めて立ち止まった。
「っ!!危ねぇっ!!」
その先に地面は無く、下を覗くとそこには熱気を漂わす赤い海が広がっていた。溶岩だ。そして、レオは背後から迫り来る火の壁を思い出し、後ろを振り返った。
「ネネカっ!!」
「っ!はいっ!!“ウォールファントム”っ!!」
ネネカも振り返り、透明な防御壁を出して火の壁を防いだ。アランは額の汗を腕で拭き、息を切らしながら口を開いた。
「フゥっ………。あっぶねぇ……ガチ死ぬトコだった……。」
3人の心臓の鼓動はしばらく走り続けた。ネネカが防御壁を消すと、そこにフラマーバットの群れは居なかった。追いかけるのを諦めたのだろう。レオは一息吐き、辺りを見渡した。
「……凄い所に来たね………。」
右を見ると、階段のようなものが見えた。階段を辿るようにして再び下を見ると、階段は底の溶岩を中心に、螺旋状に並んでいることが分かった。魔物の気配は無い。ネネカはレオの左に立って下を覗き、小さく口を開いた。
「階段があるということは、ここから先は人の手が加えられている……。炎王竜の所に近いかもしれません。」
「んじゃあ、この階段降りたら会えるってわけだ。……いよいよだな。」
アランもレオの右に立って下を覗いた。視線の先から、地の底の溶岩が放つ熱を感じる。レオは真っ直ぐな眼差しを底の溶岩に向け、口を開いた。
「行こう。アラン、ネネカ。」




