雪が隠す火の世界へ
メルビア——
北ラスカンと中央の海に囲まれた国で、雪の積もる大地には所々亀裂があり、覗けば溶岩が見える。
レオ達3人はペガサスに乗り、海を越えてメルビアに向かおうとしていた。下に広がる海に3つの影が映る。すると、ローアの城を出てから肩を落としているアランが口を開いた。
「あ〜ぁ……結局、理想の女王様じゃなかったなぁ………若くて綺麗だったけど…」
「失礼だよアラン。…もしそれを本人の前で言ったら——」
「やめてくれぇぇ……完っ全に打首だぁぁっ……」
アランは頭を抱え込んだ。風を切るペガサスの羽音が、青く広い大空に響く。すると、レオ達の視線の先にある水平線から、大陸が顔を出した。
「レオさん、アランさん。見えてきました。」
「よし、一応確認しておくけど、メルビアは地上と地下の温度差が激しい。ヒートペッパーとクールライチの使用には気をつけて。」
ネネカの言葉の後に、レオは2人に呼びかけた。ネネカは頷いたが、アランは頭を抱えたままだ。レオはそれにため息を吐き、アランに口を開いた。
「アラン、……ツンデレって知ってる?」
「——絶っ対ェにありえねぇ。」
レオ達はメルビアの地に降りた。雪はちらつき、大地を徐々に隠してゆく。指先から冷える。ネネカは両手を擦り、小さい口から息を吐いた。吐き出した息は白くなって広がる。
「寒いですね……」
「…だね。早速だけど、ヒートペッパーを食べよう。」
レオが言うと、3人はポーチからヒートペッパーを取り出し、一息呑んで口に入れた。辛い液体が口に広がり、口内から胴体へと刺激と熱を与える。あまりの辛さに、アランは口を開いた。
「っく、辛ェっ…!!やっぱり慣れねぇなぁっ……」
「アランっ…我慢だよっ……。さて、溶岩洞の入り口を探そう。西側にあるって聞いたから、ここの辺りのはずだけど……」
3人は辺りを見渡した。暗い雪雲に覆われた空が地平線まで続いている。すると、ネネカはあるものを見つけ、小さく口を開いた。
「……可愛い…」
「…どうしたの?ネネカ。」
レオはネネカの視線を辿り、その先を見た。3匹の小さな白いイタチが戯れあっている。ユキイタチだ。
「……へぇ〜…あんな魔物もいるんだ……」
「おい…なんだありゃぁ………っ」
アランは2人とは真逆の方向に指をさして口を開いた。レオとネネカは振り返ってそれを見ると、目を大きく開いた。舞い上がる雪が壁のように立ち上がり、多くの足音と共にこちらに向かって来る。
「っ!!アランっネネカっ!!構えてっ!!」
「はぁっ!?正気かよっ!!」
レオの言葉に、アランは大声で返した。こちらに向かって来るのは、ツノが氷柱でできた白く大きな獣、アイシクルバッファローの群れだった。
「レオさんっ、あれ全部と戦うのですかっ!?」
「最悪の場合はね。でも今は、僕らに突進する敵だけを倒せばいいっ!!」
レオはネネカにそう答えると、腰から折れた剣を抜き、構えた。
「“エクスカリバー”。」
レオが口を開くと、彼の握る剣から、光の刃が伸びた。そして目を鋭くして光らせ、アイシクルバッファローの群れに勢いよく飛び込んだ。
『ボォォォォォッ!!!』
「“フレアホイール”っ!!」
光の剣が炎を纏うと、レオは車輪のように回転して斬りかかった。
「っ!!また1人で飛び出しやがってっ!!“プロミネンスストレート”ぉっ!!」
アランは右腕に炎の渦を纏わせ、こちらに向かって来るアイシクルバッファローに拳を突き出した。
『ボォォォォッ!!ボォォォォォ!!』
身を焼かれる獣の鳴き声が白い息と共に広がり、アランの前に居た複数のアイシクルバッファローが飛ばされた。しかし、群れは次々とこちらに向かって来る。
「っ!!まずいっ!!」
「“ウォールファントム”っ!」
アランの背後に居たネネカは、彼の前に透明な壁を出し、群れの突進を食い止めた。群れの突進は勢いが凄く、油断をすれば壁ごと押し潰されそうだ。ネネカは歯を食い縛り、アランに口を開いた。
「アランさんっ、もう一度今の技をっ!…今のうちにっ!」
「あぁっ、すまねぇっ!!…“プロミネンスっっストレート”ォッ!!」
アランは再び右腕に炎の渦を纏わせ、ネネカが出した防御壁が消えた瞬間に、拳を前に突き出した。
『ボグォォォォゥッ!!』
『ボォォォォォッ!!』
「どぉりゃぁぁぁぁぁっ!!」
アランの燃え盛る拳は、多くのアイシクルバッファローを火だるまにして飛ばしていく。そして、最後の1頭がアランに突進して来た。アランは右足を前に出して地面を踏み締め、体を低くして構える。
「“ライジングアッパー”ぁぁぁっ!!」
アランは左の拳をアイシクルバッファローの顎に捻じ込み、高く真上に跳びながら突き上げた。しかし、獣は白い息を鼻から勢いよく吹き出した。
「ボォゥッ!!」
「っく!!」
アイシクルバッファローは後ろ足でアランの腹を蹴り、氷柱のような角を彼に伸ばした。
「アランさんっ!!」
「しまっ——」
その時、白い地面に赤い血が降り注ぎ、アランとアイシクルバッファローが地面に落ちた。
「アランさんっ!大丈夫ですかっ?」
「っ…何がっ……」
アイシクルバッファローは倒れたまま動かない。その背には、光の剣が刺さっている。遠くを見ると、静かにアランとネネカの方を向いて立つレオの姿があった。
「っ……たく、急に飛び出すわ美味しいとこ持っていくわで……世話の焼けるリーダーになったなぁ。」
アランはため息を吐き、立ち上がった。そしてアイシクルバッファローの背から剣を抜き、レオの方に歩いて、剣を彼に渡した。レオは剣を受け取ると、群れが現れた方向を向いた。
「予想通りだ。群れは、あるものから逃げていたんだよ。」
「…あるもの……?」
アランは首を傾げた。しかしレオは振り向かない。そして彼はアランに口を開いた。
「熱だよ。この先に、溶岩洞の入り口がある。…ほら、あそこ。」
レオは指をさした。後から歩いてきたネネカとアランがその先を見ると、そこには赤く大きな口を開けた洞窟があった。先ほどまでは感じなかった熱気が、レオ達を地下へと誘う。




