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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
140/206

琥珀色の壁内

 毒植壺のピアスを手に入れたレオ達は、高く分厚い壁に囲まれたローアの町に戻った。日は西側の壁に沈んでおり、純白だったはずの町並みは、夕陽の赤と影の黒で染まっている。壁内は昼と比べ、より一層静けさを感じる。アランは両腕を広げて背伸びをした。


「んぉぉっ……っ…疲れたなぁっ。…今からどうするよ?レオ。」


 アランはレオの顔を見た。夕陽を浴びる彼の顔は、優しく微笑んでいた。


「もうすぐ夜だから、城に行くのは明日にしよう。……よし、夕ごはんだ。」

「そうですね、そうしましょう。」


 レオ言葉にネネカは頷き、3人は酒場へ向かった。建物が囲む大きな噴水は琥珀色に輝いており、息を呑むほど美しかった。その噴水を中心にして回り、見えてきた酒場の入り口を潜った。


「いらっしゃいませ〜。」


 カウンターの奥に立つ受付嬢や、落ち着いた制服を着たウェイター達が3人に口を開いた。食堂を覗くと、数席空いているのが確認できる。兵士や旅人が大勢座って賑わっているものの、やはり昼と同様、パーニズとは違って落ち着いている。3人は奥のテーブルに座った。窓の奥に映る景色が綺麗だ。アランはメニューが書かれた紙を手に取った。


「ほぉ〜…料理もパーニズとは違うなぁ。シャレた名前ばっかりだ。…じゃあ俺は〜………ベヒモストロガノフだな。」


 アランがメニュー表をテーブルの上に置くと、レオとネネカはそれを上から覗き込んだ。


「ん〜…僕もアランと同じやつにしようかな。ネネカは?」


 レオはネネカの顔を見た。彼女は苦い顔をしてメニュー表と向き合っている。


「………」

「……ネネカ?」

「あっ、えっ、あぁっ……そ、そうですね………では……これを……」


 ネネカは残念そうな顔をして、ゆっくりと人差し指を置いた。レオはそれに数回瞬きをし、ネネカに口を開いた。


「……ハートビーツのボルシチ…これで良いの?」

「は…はい。お願いします。」(………ハンバーグ……無かったなぁ……)


 ネネカは手をそっと腿の上に置いた。レオは彼女の表情に疑問を抱いたが、口には出さず、近くのウェイターに声をかけた。


「すみませ〜ん、こっち、良いですか?」

「ご注文ですね?承ります。」


 そう言って振り返ったのは、髪が整えられた若い男性ウェイターだ。首元の蝶ネクタイがとても似合っている。


「ベヒモストロガノフを2つと、ハートビーツのボルシチを1つお願いします。」

「かしこまりました、少々お待ちください。」


 ウェイターは頭を下げ、厨房へと歩いて行った。するとアランは、また体を伸ばし、口を開いた。


「っ…くっ……。にしてもここはパーニズと違って静かだなぁ、眠たくなってくる。…なぁ?レオ。」

「…うん、だね。確かに静かだけど、僕はこっちの方が好きかな。落ち着くし。」


 レオはふと窓の外を見た。空は紫色の星空に覆われており、吸い込まれてしまいそうに思うほど、とても美しかった。


「…そうか?……気に入ってたんだけどなぁ…あの騒がしさ。あ〜ぁ…急に恋しくなってきた……。」

「アラン、まだローア生活初日だよ……?」


 レオはアランに苦笑いを見せ、星空から目を離した。そしてネネカの方を見ると、彼女はまた、考え込むような顔をしていた。レオは声をかけた。


「どうしたの、ネネカ…?メニュー見てる時も同じ顔してたけど…」

「…あ、いえ……それとはまた別です。……レオさん……ププカブラと戦っていた時、……急に大声出して走って行きましたよね…。あの時……何か……あったのですか……?」

「——っ!」


 レオは目を大きく開いて止まった。彼女の言葉を聞いたアランも、テーブルの上に右肘を置き、レオの顔を覗いた。


「そういえばそうだったな。なぁレオ、あの時何があった?」

「……思い出したんだ、僕が死ぬ直前の記憶を。」

「っ!!」


 急に鋭い目をしたレオに、アランは息を呑んだ。そして、再び彼に問いかけた。


「……それって……デルガド…の…?」


 レオは小さく頷いた。ネネカは彼の真剣な眼差しを見つめ、再び思い出した。自分はレオに命を救われて、今ここに居るということを。


「……レオさん…ごめんなさい……私——」

「良いんだ。過去は消せない。でも確実に言える事はある、ネネカ…君は悪くない。」

「……レオ……さん……」


 レオを見つめるネネカの目は潤い始めた。そんな彼女の顔を見て、アランはため息を吐き、頭を掻いた。


「あぁもう、いっつもコレだっ。いいかネネカ、お前は自分のせいにし過ぎだ。あとレオ、今お前は生きてる。そんな過去は忘れちまえ。その方がよっぽど生きやすい。」

「……うん……だね。」


 すると、先程声をかけたウェイターが3枚の器を持って歩いて来た。


「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ。」


 ウェイターが頭を下げて方向を変えた時、テーブルに並べられた料理の美味しそうな匂いが広がった。彼が静かに去って行くと、早速アランは料理に手をつけ、レオに口を開いた。


「おら、ずっと過去を引き摺ってると、美味い飯も冷めちまう。」

「…うん。」





 厚く高い壁に囲まれたローアの夜はとても静かだった。ランプの火が人々を見つめるように照らし、優しく揺れている。


 こんなに落ち着いた時間がいつまでも続けば良いのに——


 レオはゆっくりと目を閉じ、そう思った。






「おぉ!!来たかぁっ、昨日の旅人よぉっ!!」


 日が昇り、レオ達は城へと繋がる長い橋の前に立っていた。城の前に立つ兵士が大きな口を開けて、彼らにそう言うと、レオは毒植壺のピアスを掲げ、大きい声で返した。


「はいっ!!秘宝を持って来ましたっ!!これで良いですかぁっ!?」

「ああ!!これできっと女王様からもお許し頂けるだろうっ!!今から女王様と話をつけて来るからぁ少し待ってろぉっ!!」

「はいっ!!お願いしますっ!!」





 そして、玉座の間では——


「女王陛下、昨日(さくじつ)来られました冒険者3名が、陛下にお会いすべく秘宝を持って参りました。いかがなさいましょう?」


 華美なシャンデリアの下で、唇に塗られた口紅を輝かせるドレス姿の女性が、口を開いた。


「そうか、通せ。」

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