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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
139/206

毒植壺のピアス

「っ!!しまったっ!!」


 3人を目掛けて数本の蔓が伸びた。咄嗟にネネカは両手を前に伸ばし、魔法を唱えた。


「“ガードファントム”っ!」


 レオ達の前に、小さく透明な防御壁が現れた。蔓が防御壁を勢いよく叩きつける。すると——


「タァッ!!」


 レオは防御壁ごと蔓を蹴り上げ、ププカブラの根に銀色の刃を向けた。アランは突然の出来事に、目が大きく開く。


「マジかよ!?」

「“バードストライク”っ!!」


 熱を帯びて赤く染まった刃は、鋭い視線のレオを連れて物凄い速さで飛び、ププカブラの根に刺さると同時に大爆発を起こした。胴体に殴り掛かるような爆音と爆風が周辺に広がり、3人を囲むように観戦していたジャンビー達を吹き飛ばした。


「っ、俺も行くっ!!」


 アランは両手で防御壁を持ち上げ、黒い煙に包まれたププカブラ目掛けて走り出した。すると、1本の蔓がアランへ素早く伸びた。


「そう来ると思ったぞっ、おぉらぁっ!!」


 アランは防御壁を殴り飛ばし、蔓の先に当てると、怯んだ蔓に向かって跳び、蹴り上げた。


「“ソードテンペスト”っ!!」


 その声の後に、煙を裂くように剣の軌跡が飛んだ。軌跡はアランが蹴り上げた蔓を斬り落とした。地に落ちた蔓はもがき苦しむように動き、しばらくすると動かなくなった。


「“回転斬り”っ!!ハァァァァッ!!」


 レオはププカブラの足元から、真上に飛び上がりながら刃と共に回った。ププカブラの胴体に斬り傷が刻まれていく。そして、ププカブラのハエトリグサのような頭と顔を合わせたその時、ププカブラの複数の蔓がレオとアランに伸びた。


「っ!!くぅっ!!」

「“銀の拳”っ!!」


 レオは咄嗟に剣を前に出して蔓を受け止め、アランは両腕を銀に染めて前で交差した。蔓の勢いに負けた2人は飛ばされ、木に足を付けた後に、地面に着地した。そこにはネネカも居た。


「大丈夫ですかっ?」

「あぁ……ったく、あの蔓……多過ぎてキリがねぇ。弱点もまだ分かってねぇってのによぉ……」


 アランは腕を元に戻し、ププカブラの方へと帰っていく蔓を睨みつけた。レオは自身の握る剣を見て、苦い顔をしていた。


「……刃が欠けてる……やっぱり、このレベルの戦いには耐えられないか……。アラン、ネネカ、注意するべきなのは蔓の葉だ。葉にさえ触れなければ——」

「……おい……レオ……」


 左に居たアランは、ネネカ越しにレオの顔に指をさしていた。その指をよく見ると、さしているのは右頬だ。レオは右頬に手を運び、目の前で手の平を開いた。手は赤い血で染まっていた。


「っ!!」

「レオさんっ!今すぐ回復魔法を——」

「ぁ……ぁぁ……っ!!うわあ゛ぁぁああ゛あぁあ゛あぁああ゛ああ゛ぁあ゛ぁぁっっ!!」


 レオの全身に残酷な過去が刹那的に駆け巡った。それは、自分の脚を自ら斬り落とし、ガラス瓶を噛み砕いて血とガラスを吐き散らす、デルガドと戦った時のものだった。今でもその断末魔を鮮明に覚えていたからか、レオは自身の血を見て、瞳と手足を震わせて狂い始めた。


「レオっ!!どうしたっ!!落ち着けっ!!」

「ア゛ア゛ア゛アアアアッッ!!!」


 レオは剣の柄を震える手で握り締め、ププカブラへと飛び出した。


「なっ!?バカッ、待てっ!!」


 アランはレオに手を伸ばす。しかし、その手は彼を(のが)した。


「あ゛ぁあア゛ァぁあア゛!!」


 レオは走った。弾丸のように飛び掛かる蔓に絶大な恐怖心を震わせながら避け、ププカブラとの距離を縮めた。だが彼は、蔓を十分に避ける事ができておらず、腕や脚に擦ったような傷を刻まれていた。彼は痛みに気付いていない。そして彼は地面を強く蹴って跳び、刃を振り上げた。すると、1本の蔓が横振りでレオに迫る。


「ぁぁあ゛ああ゛アアア゛ア゛!!」

「…っ!!レオさぁぁぁぁんっっ!!!」

「っ!?」


 ネネカは強く目を閉じて、悲鳴をあげるように叫んだ。その声はレオの鼓膜を震わせて胸を打ち、レオに意識を戻らせた。蔓がレオに襲い掛かる。


「くっ!!ぅぅっ!!」


 レオは腕と脚に刻まれた傷の痛みを歯で噛み殺しながら、咄嗟に剣を前に出して蔓を受け止めた。…が——




 バキンッ——




「っ!!」


 鉄の剣は2つに折れ、刃は宙を舞った。その一瞬の出来事は、3人の目にゆっくりと映された。


 ——剣が折れた。レオは戦えない。蔓はレオを叩き付けようとしている。レオは——





 その時だった。


「っ!!“エクスカリバー”ぁっ!!」


 レオは蔓を斬り落として着地した。折れたはずの剣は、先程まで握っていた剣よりも長い刃をもっており、光り輝いている。その剣を見て、アランとネネカはすぐに同じものを思い出した。


「あの光っ…あの剣はっ…!!」

「間違いないです……あれはっ、デルガドを倒した時の剣ですっ……!」


「………っ。」


 レオは自身が持つ光り輝く剣を見つめた。すると、剣が勝手に動いたかのように刃が上を向き、手応えの後に何かを足元に落とした。石だ。レオは無意識のうちに真上のジャンビーから投げられた石を斬ったのだ。


『キキィィィィィィィっ!!』

「…………剣が…生きているみたいだ……。……っ?」


 レオは目の前にププカブラが居るのにも拘わらず、ゆっくりと目を閉じた。ププカブラはそんな彼に容赦なく複数本の蔓を振り下ろした。


「……………」

「何やってんだレオぉっ!!」


 アランが叫ぶと、レオは目を開き、剣を頭上で振った。輝く長い刃は襲い掛かる蔓を全て切断した。蔓が大きな音を立てて地面に落ちると、レオは地面を強く蹴ってププカブラとの距離を広げた。そして、アランの方を向き、大きく口を開いた。


「アランっ!!弱点が分かった!!僕の合図でヤツの頭を上に向けてっ!!」

「っ!?んな無茶なっ!!」


 レオはアランの反応を待つ事なく、再びププカブラ目掛けて飛び出した。ププカブラは残り数本の蔓をレオとアランに伸ばした。


「“連続斬り”っ!!」


 レオは襲い掛かる蔓を次々と斬り刻みながら走った。ふとアランの方に目をやると、蔓を避けながら走る彼の姿があった。


「っ!!“銀の拳”ぃっ!!」


 アランは真っ直ぐ伸びてきた蔓を銀色に染めた拳で殴り飛ばした。しかし、1本1本への対応が間に合わない。


「まずいっ!!」

「“ソードテンペスト”っ!!走ってアランっ!!」


 レオはアラン目掛けて伸びる蔓に剣の軌跡を放ち、斬り落とした。そしてレオは刃をププカブラに向け、鋭い視線を送った。


「“バードストライク”っ!!」


 レオの俊敏性は上がり、刃は熱を帯びて赤く染まる。彼は跳び、蔓を次々と蹴るようにしてププカブラに近付いた。するとププカブラは、胴体についた壺から複数の液状の塊を飛ばした。毒だ。レオとアランは空から落ちてくるそれらを避けて進む。


「っ!!っ!!フッ!!」


 レオがププカブラとの距離を縮めると、ププカブラはハエトリグサのような頭をレオに向け、大きく口を開いた。そして——


「アランっ!!今だぁっ!!」

「“ライジングアッパー”ぁぁっ!!」


 アランは地面を強く蹴って跳び、ププカブラの顎に拳を捻じ込んだ。ププカブラが上を向くと、レオはその顎に足を置き、赤い刃と体を、真下の壺の中に向けた。


「っ!?レオっ!!弱点ってまさかっ!?」

「そこだぁぁぁっ!!!」


 レオはププカブラの顎を強く蹴って、壺の中へ一直線に飛び込んだ。


「レオぉぉぉっ!!ぅわぁぁぁっ!!」


 アランが叫んだその時、ププカブラは胴体を中心に大爆発を起こした。周囲に爆音が響き渡る。爆風でアランは吹き飛ばされ、ネネカの前に着地した。


「っ!!あいつ、正気かよっ!?」


 黒い煙が広がり、ププカブラの残骸が飛び散っては地面に落ちて燃え尽きる。煙が晴れると、仰向けで倒れるレオが見えた。アランとネネカはすぐに彼の方へ走り出した。


「レオさんっ!!大丈夫ですかっ!?」

「レオぉっ!!」


 2人はレオの前に立ち、顔を覗いた。レオは顔色を悪くしながら微笑んだ。


「………へへっ…………やったよ…。」

「うるせぇっ!!そんな事より解毒剤だっ!!」


 レオの手には、ウツボカズラの形をした、毒植壺のピアス が握られていた。

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