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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
126/206

屍山

 ネネカ達はペガサスから降り、真夜中の暗い世界を見回した。ここは屍山の麓。5人が足をつけた地は無数の石が転がっており、慎重に歩かなければ足を挫いてしまう。雲から顔を出す月の光のおかげで、辺りは少しだけ確認できる。すると、コルトは長い杖を手に取り、口を開いた。


「“テラカリス”。みんな、焦る気持ちは分かるけど、この先何があるか分からない………慎重に行こう。」

「あぁ。」


 杖の先に埋め込まれた赤い宝石が辺りを照らした。はっきりと見えるようになったアラン達は、真っ直ぐな眼差しで頷いた。5人は杖が放つ光を頼りに、足元に転がる石に気を付けながら、坂を登った。冷たく静寂な風が頬を撫でる。


「………それにしても静かだな。他の奴らはどうなっちまったのかっ……」


 スフィルはそう呟き、手に持ったマシンガンを強く握った。


「さぁな。無事を祈る…それに限るが。」

「………んっ…?おい、あれは何だ。」


 オーグルの声の後に、アランは進行方向に指をさした。その先に見えたのは、暗闇に漂う黒い布のようなものだった。


「…なんでしょう……あれ…………っ!!皆さんっ、こっちに近付いて来てますっ!」

「何っ!?」


 アランとスフィルとオーグルは一斉に武器を構えた。布は髑髏を見せ、骨の両手をこちらに伸ばしている。


「うわぁぁぁぁぁっ!!僕こういうの無理なんだってぇぇっ!!」

「コルトっ!!少し黙っ——」


 その時、漂う布の両手がオーグルの首を強く掴んだ。オーグルはその骨の腕を握るが、髑髏の両手はオーグルの首を離さない。


「オーグルっ!!………っテメェ!!離しやがれっ!!」


 アランが髑髏に殴りかかると、布は手応えを与えることなく避けた。


「なっ!!」

「おらおらおらぁっ!!」


 スフィルが無数の弾丸を髑髏に撃ち込んだ。弾は布を貫くものの、髑髏の顔は動かない。


「っ効かねぇってのかっ!!」

「っ……くっ……!!ぁぁっ………ぅぅっ」


 スフィルは歯を食いしばった。すると、髑髏の口がオーグルの目の前で開き、何かを吸い込み始めた。


「ぅっ…!!なんっ……だ………」




——あぁ……なんだ…この気持ち……なんだか……どうでも……よくなってきた………







——……

——さん…

——グルさん

オーグルさんっ!

「オーグルさんっ!!」

「…っ!!」


 オーグルは目を覚ました。気付けば、転がる無数の石の上で仰向けになっていた。視線の先には、夜空ではなく、光の壁のような物が見える。


「大丈夫っ!?オーグルっ。」

「ったく…焦ったぞ。」


 コルトとスフィルの声が聞こえる。右を見ると、その2人が居た。


「ごめんなさいっ…早くこうしておけば……」

「そう自分を責めるな。こいつも無事だったんだ、コルトとネネカのおかげでな。」


 左を見ると、涙を流すネネカと、その横でネネカに話すアランが居た。オーグルは、その安心感と同時に、5人を囲むドーム状の光の壁を不思議そうに思い、ゆっくり立ち上がった。


「……これは……何だ……?俺は……一体……」

「ウォールファントム。ネネカの魔法だ。まさかこんな魔法を持ってたなんて…大したヤツだ。」


 スフィルは両手をポケットに入れて光の壁を見回した。


「お前、多分あのバケモンに魂吸い取られかけてたぞ。同時に首を絞めるなんて、おっかねぇヤロウだな。コルトが光を近づけたら、どっかに飛んでったんだけどよ。」


 アランが少しだけ笑みを見せてそう言うと、コルトは顔を青くして口を開いた。


「もう僕っ、こんなの懲り懲りだからぁっ!!」

「フッ……まぁ色々助かった。感謝する。」


 オーグルは4人に微笑んだ。


「さぁて、先に進むか。ネネカ、壁は維持してくれ。」

「はいっ。」


 アランの言葉にネネカが頷くと、5人は光の壁に囲まれた状態で坂を登った。辺りを見渡すと、所々で黒い布が漂っているのが分かる。


「…道理で屍山って言われるワケだ。あのバケモンが大量に居るとなりゃぁ普通は生きて帰れねぇぞ。」

「…っ!!みんなっ、あれっ!!」


 スフィルの呟きの後に、コルトが左を指さした。その先にあったのは、どれも首に痣を残した4人の死体だった。その見覚えのある顔は青白く、瞬きすること無く一方向を向いている。


「……やられたのか……俺と同じように……っ!!」


 オーグルは歩みを止めずに死体を見つめ、拳を強く握った。同情心と怒りが混じり合い、熱いものが胸から込み上げてくる。


「皆さん……あっちにも……」


 ネネカが指をさした先にも、同級生の死体が3つ転がっていた。片付けをされずに放っておかれた人形のようなそれらは、見ていると寂しい気持ちになり、目を逸らしたくなるほど残酷で静寂だ。


「……まさか……これが原因で生徒の大半が死ぬとか……ねぇよな………」

「だとしたら残酷過ぎるよ……誰かを生き返らせたいっていう優しさが(あだ)になって死ぬなんて……」


 アランとコルトがそう話していると、後ろからスフィルが鼻で笑った。


「フッ…何か勘違いしてねぇか?コルト。この行動に優しさなんてありゃしねぇのさ。全部自分勝手、生き返らせるってなりゃぁ、またこの地獄みてぇな世界に戻されるってこった。誰かが生き返ったところで『ありがとう』は簡単に出ねぇだろ。」


 その言葉を聞き、ネネカは下を向いた。レオを生き返らせるという思いの中に、自分勝手が混ざっているということを、胸の奥で痛感したのだ。すると、オーグルは真っ直ぐな眼差しで口を開いた。


「だが、俺たちの行動は自分勝手じゃねぇ。レオの存在は、みんなのためになるはずだ。」

「……あぁ、だな。」


 アランはそう言葉を溢した。その時、背後から足音が聞こえ、5人は振り返った。そこには、6人の生徒の姿があった。モルカ、デニー、レヴェン、セドル、ニヴェル、マーベックだ。


「待ってくれぇっ!!お前らぁっ!!」

「その中に入れてぇっ!!」


「なっ!?何だあいつらっ!!」

「おい、あのクソ女も居るぞ。…っておい、アイツらの後ろに居るのって……」


 アランは目を大きく開いた。視線の先に見えたのは、3体の黒い布の髑髏だった。


「マジかよっアイツ…。大人数に話バラして、ペガサスを横取りして…ついには『助けて』だ…腹が立ってしょうがねぇ。」

「どうする!?みんなっ!?」


 コルトの声は焦っていた。彼の中には何かしらの葛藤があったのだろう。するとネネカが足を止め、口を開いた。


「皆さん、止まってください。」

「っ!?」

「なっ!?」


 アランとスフィルは、その一言に驚きを隠せなかった。すると、ネネカは光の壁を消し、こちらに走ってくる6人に叫んだ。


「早く来て下さいっ!!」


 髑髏が伸ばす骨の手はすぐそこまで迫って来ている。6人がネネカ達の所に飛び込むと、ネネカは両腕を広げて目を閉じ、魔法を唱えた。


「“ウォールファントム”っ!」


 その途端に彼女らを光の壁が包み、3つの黒い布を弾き返した。


「はぁっ…はぁっ……はぁっ……」

「っ…たっ…助かったぁっ……」

「テメェ!!何が『助かった』だこのクソ野郎!!」


 アランは四つん這いのモルカの胸倉を掴み、怒鳴った。


「それより先に感謝ってのを言うべきなんじゃねぇのかぁっ!?あ゛あ゛っ!?もしあの時、パーニズにネネカみてぇな優しいヤツを置いてったら、お前の…いや、お前ら全員の命は無かっただろうよぉっ!!」

「アランさん、もう充分です。……ありがとうございます……。……皆さん、この壁は外からの侵入は防げますが、簡単に出られるようになってます。どうか、遅れないように。」


 アランはモルカを手から離し、舌打ちをした。スフィルも、彼女らを睨んだ。そして彼らは、光の壁に囲まれながら、屍山を登って行った。暗い、空の下を…

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