悪夢
「……………………ぅ………ぅぅっ……」
レオは重たい瞼をゆっくりと開いた。視界はぼやけている。うつ伏せの状態の彼の右手には、剣がしっかりと握られていた。レオは血の匂いがする左腕で、強く目を擦った。しかし、見える世界はあまり変わらない。
「…………っ……ぅ……くっ……」
「…アラン……?………アランっ………?」
レオは声に反応し、両手を地面に置いて起き上がろうとした。しかし、上手く力が入らない。レオは歯を食いしばり、上半身を起こし、なんとか正座の体勢をとる事ができた。そして、ゆっくりと辺りを見渡した。
「…………僕は………っ…ここは…………」
視界が徐々にはっきりしてきたその時、レオの体に寒気が迸った。地平線まで広がる禍々しい空間。突如頭を過ぎるトラウマ。レオの指は震えた。これは
“恐怖”だ。
「……知ってる………僕は………この空間を………知っている…………ハッ!!アランっ!!ネネカっ!!」
レオは口を震わせながら首を振って叫んだ。右にアラン、背後にはネネカが居た。2人は両手に力を入れて、体を起こした。
「………ぅっ……ぅぅっ……皆さん……大丈夫……ですか…………?」
「……っく、レオ…っ……これは……一体っ………」
3人はおぼつかない両足で立ち、果てまで続く不気味な世界を静かに見た。
「………嘘だ………こんな…………こんなっ………」
「久しいな……人間。」
3人は男の声を聞き、同時に首を左に向けた。そこには、紫色の髪をした、魔法使いのような服を風で揺らす少年が居た。下を向き、目を閉じている。
「っ!?……おぉぃっ……嘘だろ………」
「また会えて嬉しいぞ。」
少年はそう言って腰に掛けた2本の剣に、そっと手を置いた。
「だが今は再会の喜びなど必要無い………今すぐにでも……貴様らを………ズタズタに斬り刻みたい気分だぁっ。」
「デルガドぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」
レオは剣を握りしめ、デルガドに飛び掛かった。開いたデルガドの目は以前とは違う。蛇のような細長い瞳で、不気味に微笑んでいる。デルガドは右手の剣でレオの剣を受け止めた。
「おぅおぅ……死に急ぎは良く無いぜぇ…?カラダのパーツ1つずつ落としてぇ……キモチ良くなろうよぉ?」
「“銀の拳”ぃっ!!」
アランは両腕を銀に染めて、デルガドに向かって走り出すと、デルガドは左手の剣を振り、アランに軌跡を放った。
「“ソードテンペスト”ぉ。」
「っぐ!!がぁぁっ!!」
アランは腕を交差して胴体への直撃を防いだが、銀色の腕は、小さな破片を飛ばして欠けた。同時に、アランは放たれた軌跡の威力に耐えきれず、飛ばされた。
「いいねぇ…前より肉が付いてるよぉ……長く楽しめそうだなぁこりゃぁ。」
「“回転斬り”っ!!」
レオは踏み込み、剣と共に体を回転させた。デルガドは剣先を下に向け、火花を散らして防御した。
「……ハァッ……あの技とぉその技とぉ、もう見飽きたんだよぉっ!!」
デルガドはレオの腹に左足を捻じ込み、禍々しいオーラでレオを包み、動きを止めた。
「“タイフォールド”ぉっ!!」
「んぐぅっ!!」
「ヘェッ!!クドいクドいクドいクドいクドいっ!!」
デルガドは続けて、レオの頬に左足を複数回叩きつけた。
「っ!うっ!うぅっ!うぐっ!うぐぁっ!!」
「つまんねぇんだよぉっ!!」
「ぅぶぉぁああっ!!」
レオの顔面に左足が飛び、オーラが外れたレオは遠くへ飛ばされた。地面に転がると、彼の鼻と口から赤い血が流れ出た。
「レオさんっ!!アランさんっ!!」
「そうだったなぁ忘れてたぜぇ……お前らには立派な花が居たなぁ……俺ぁ赤い花が大好きなのさぁあ!!」
「“銀の拳”っ!!でぇぇぇりゃぁぁぁっ!!」
ネネカの方へ飛び出したデルガドに、両腕を銀に染めたアランが飛び込んだ。アランの放った重い拳は、デルガドの2本の剣で受け止められた。
「さっきからうるせぇんだよっ…テメェ…イメチェンのつもりかっ……?」
「ハッハァッ!!口が達者ってのは良いこったぁっ!!俺ぁそういうヤツがぁ…大っ嫌いなんだよぉっ!!“ヘルインデッド・スパーク”ぁっ!!」
デルガドの剣から紫色の雷が放たれ、銀の腕を伝い、アランの全身を包んだ。
「があああぁぁあぁあぁああぁあぁっっ!!」
「そうだぁっ!!もっとキモチ良くなろうぜぇっ!!」
「……っ!!キィッ!!“プロミネンスストレート”ぉぉぉっ!!」
アランは歯を食いしばって体の痺れに耐え、右腕に炎の渦を纏わせてデルガドに放った。デルガドの腹部に、燃え上がる拳が捻じ込まれた。
「ぅぅっ!!………かぁっ……」
「っ……どうだ俺の拳はぁ?言葉では表せねぇだろぅ?」
デルガドは下を向き、動かなくなった。アランは余裕の表情を見せ、拳から炎を消した。その時だった。
「なんてなぁっ!!」
「っ!?んぐぅぅぅぁっ!!」
デルガドは不気味な笑みで顔を上げ、宙返りをしてアランの顎を蹴り飛ばした。アランの口からは、小さな赤い雫が無数に飛び出した。
「“バードストライク”っ!!」
口から血を流すレオが、剣先をデルガドに向け、一直線に飛び出した。それを横から見た彼は、ニヤけた。
「“グレヌ・バースト”ぉ!!」
「うっ!!」
デルガドは体から強い熱風を放出した。レオは熱風に弾かれ、右腕を地面に強く打って転がった。
「レオさんっ!!ハッ……腕が……っ」
「ぅぅっ………ぁああぁあああぁあああっ!!」
レオの右腕は、明後日の方向に曲がっていた。肘から先に走る激痛に、レオは大声で叫んだ。
「おっと、残念だなぁ。でもその腕、タコみたいで面白いよぉ?ハァッハッハッハッハァァッ!!」
「レオぉぉっ!!…っ!!テェメェェェッ!!」
アランは地面に手を置いて、デルガドの脚に向かって回し蹴りをした。しかし、デルガドはそれを宙返りで避け、空中で互いの目が合ったその時、アランに左手の剣先を向けて口を開いた。
「“エレクトロン・レイン”っ!!」
「っ!!」
仰向けのアランに雷の雨が降り注ぎ、身体の芯までを迸る激しい痺れと痛みで彼を襲った。
「があああぁああぁあぁぁあああぁぁあっっ!!!」
「良いよ良いよその顔だぁっ!!俺が見たくてウズウズしてたのはぁっ!!麻痺で動けなくなったらゆ〜っくりバラバラにしてあげるからぁ……楽゛しみ゛に゛しててね゛ぇ゛っ!!……ん?」
アランの上で浮くデルガドは何かに気付き、ふと遠くを見つめた。そこには、もがき苦しむレオに向かって走るネネカが居た。
「ハッハァッ!!ダメじゃないかぁっ!!じっとしてなきゃぁっ!!」
「ネネカぁっ!!…っきっ…来ちゃダメだぁっ…!!」
レオは涙でぼやける目でネネカに向かって飛び込むデルガドを見ると、歯を食いしばって痛みを抑えながらそう言った。しかし、その声は届かず、ネネカはデルガドに、右腕で首を絞めるように捕らえられた。
「つっかまぁえたぁっ!!ハッハッハァッ!!」
すると、デルガドは左手でネネカの胸を鷲掴みにし、大声で笑った。
「うぅっ!!」
「キィッ!!……デルガ…ドぉっ!!」
「おっと待ったぁっ。」
レオが表情を怒り一色に染めて立ち上がろうとすると、デルガドは再び左手に剣を握り、刃をネネカの首に向けた。
「少し話をしようじゃねぇか。あ゛?レオ・ディグランス・ストレンジャー……」




