韓紅花
灰色の空に覆われたパーニズの草原は、戦場と化していた。雄叫びを上げ、旗を掲げる兵士達や、オークの大群の足音が地を揺るがし、心臓の鼓動を鳴らす。空にはペガサスや火の玉、氷の矢や雷の弾丸が、皮膚の毛を起こすほどの音を立てて飛んでいる。
「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」」
兵士の剣とオークの斧が火花を散らして交わった。戦線に血潮が吹き飛び、草原を赤く染め始めた。
「うわあぁぁぁっ!!」
「ぅおおりゃああっ!!」
血を流して倒れた肉塊は足場となり、それを踏んだ足から伝わる感触から、戦人達の闘志に恐怖と緊張を与える。
「“ブラッド・ミキサー”。」
エルドは禍々しい色の短剣を握って、獣臭いオークの群れの中に飛び込み、高速で回転した。オーク達は声を上げる事もできないまま、全身を赤く染め、地に体を落とす。すると、オーク達の頭上に複数の2本角の黒いペガサスが、岩のように落ちてきた。
『グォォォォォォッ!!』
『ガアァァァァァッ!!』
「フッ、そうやって優雅に空でも飛んでろ。おまけ付きのハエども。」
タバコを咥えたリュオンが黄金銃で敵のペガサスの脳を貫き、撃ち落としていた。
「ちょっ、ちょっとリュオンっ!!こっちの人達に相手のペガサスが落ちて来たらどうするのっ!?危ないからやめてっ!!」
クレアがリュオンの肩に手を置いてそう言うと、リュオンはクレアの目を見る事なくニヤけて口を開いた。
「考えてやってるから気にすんな。俺の銃捌きに見惚れてないでバフでもかけてろ。」
「見惚れてなんかないしっ!!“クレッシェンド”っ!!」
クレアはギターの弦を鳴らし、兵士達に力の波を響かせた。
「戦線に居る兵士は背を見せずに下がれっ!!第2部隊以降で押し出すぞっ!!シルバとマリスとココが居なくても十分だってトコ見せつけてやれっ!!」
「「了解っ!!」」
『グォォォォォォォォォォォッ!!』
オークに刃を走らせる度に、顔に熱い血飛沫が飛び、視界を曇らせる。そして視界が晴れた先に見えるオークの斧が鎧を叩き割り、自分の腹から噴き出す血潮を見つめて草原に倒れる。兵士達はそんな恐怖を剣の柄と共に握り殺し、ひたすら突き進む。
「“回転斬り”っ!!」
「“銀の拳”ぃっ!!」
レオとアランも最前線に立ってオークを蹴散らしていた。オーク達の悲鳴が鼓膜に残っている。
『グォォォォォッ!!』
「ちぃっ!!キリがねぇっ!!これじゃあSPがいつ尽きてもおかしくねぇぞっ!!」
「うわああぁぁああぁぁぁあっ!!」
すると、アランの隣に居た兵士がオークの斧で頭を割られ、地面に脳を散らして倒れた。アランは咄嗟にそのオークを殴り飛ばした。
「くっ、シルバさんらが居ねぇからか、今回は死者が多いっ……全滅もあり得るぞ……」
「……っ!!アランっ!!危ないっ!!」
レオは叫んだ。アランの視界から外れた所に居たオークが、アランの頭を見て斧を上げた。
「しまっ」
レオはその瞬間、目を閉じた。真っ暗な世界の中、頬に温かい何かが飛び散るのを感じる。レオはゆっくり目を開き、手を震わせた。
「………う……そ………そん……な……」
草原に腰を下ろし、下を見るアラン。流れる血が広がり染まる土。うつ伏せに倒れるオーク。その頭を片手で掴み、地面に押し付ける男。2人は彼の姿を見て、固まった。男は口を開いた。
「パーニズが騒がしいと思ったら……楽しそうなことやってるじゃねぇか。混ぜてくれよ。」
「………シェウト……シェウトなのかっ!?」
アランは立ち上がり、男に口を開いた。男もゆっくりと立ち上がり、アランとレオの顔を見てニヤけた。
「見りゃ分かんだろ。俺だ。」
『グォォォォォォッ!!』
「おっと、今は再会を喜んでる暇が無ぇらしいなぁ……」
シェウトはそう言って足元のオークの死体の頭を捥ぎ取り、襲い掛かって来たオークの顔面を目掛けて、サッカーボールのように生首を蹴り飛ばした。
「おぉらよぉっ!!」
『グォ…!!』
オークの顔面は生首と共に吹き飛び、首から血を噴き出して倒れた。
「……マジかよ……」
「フゥッ……それにしても呆れたな。まさか、生徒会長さんも参加してるとはな。」
「えっ!?バルゼフがっ!?」
シェウトの言葉にレオが目を大きく開くと、シェウトは遠くに指をさした。レオとアランがシェウトの指の先を見ると、そこには1体のオークを前に鉄の斧を振るバルゼフが居た。
「くっ来るなっ!!来るなぁっ!!」
『…グォ…?グォォォォォォォォッ!!』
「うわああああああああっ!!」
その時、バルゼフの目の前のオークの動きが止まり、仰向けに倒れた。頭には矢が1本刺さっている。すると、兵士達とオーク達が手を止め、ギルド小屋の方を見た。鉄と鉄が交わる音の止んだ戦場に風が吹き、小屋の屋根の上に立つ1人の人物の髪を揺らした。
「………あれは………」
「…おいおいおいおい……この展開はついてけねぇぞ……」
揺れる金の髪。腹に巻かれた包帯に、胸の切り傷。帯に縛られた2本の刀。その弓を構える韓紅花の衣を着た男を見つめる人々の心は震え上がった。
「シルバさんだっ!!シルバさんが立っているぞぉっ!!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」」
兵士達はシルバを見て大声を上げた。そんな中、マリスとココがエレナスの元へと走って来ていた。
「マスター、遅くなってごめん。」
「マリス、ココ…これは一体……」
エレナスが動揺し口を開くと、ココがエレナスに笑顔を見せて言った。
「マリスが治したんだっ!急にマリスの背中からデカい腕が出てきて、気付いたらシルバが立ってたんだよっ!!」
「でもマスター、シルバの傷は一時的にしか治らなくて、動き過ぎたらまた傷が開くかもしれないの。無理はさせないで…」
マリスが息を切らしてそう言うと、エレナスはマリスの肩に両手を置き、微笑んだ。
「マリス…ありがとう。お前がギルドに居てくれて、本っ当に良かった。」
すると、バルゼフが辺りを見渡しながらゆっくり立ち上がった。
「……な…なんだ?……俺……生きてるぞ?……まぁいい、お前らぁっ!!敵が止まっているぞぉ!!チャンスを逃すなぁ!!俺に続けぇぇぇぇぇあ゛あ゛ぁっ!!」
バルゼフが斧を握り、オークを目掛けて走り出すと、オークは軽く斧を振り、バルゼフを上半身と下半身に分けた。戦場は再び静まり返った。そしてシルバは弓を肩に掛け、刀を抜いて前に出し、口を開いた。
「攻撃開始っ!!」
「「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」」
兵士達は雄叫びを上げるとともに走り出し、再びオークに攻撃を始めた。オークも雄叫びを上げ、兵士の群れへと走り始めた。戦線から血飛沫が飛ぶ。シルバは屋根を強く蹴って飛び、ライラの横に着地した。
「おかえり、シルバ。」
「あぁ。寝過ぎて暴れたい気分だ。行くぞ!!」
シルバとライラはオークの群れに飛び飛んだ。2人の姿を前に、斧を手から落とすオークも居た。
「“狐火”っ!!“炎獅子乱舞”っ!!」
「“ブライト・スラスト”っ!!」
2人の攻撃はオーク達に大量の血を噴かせ、多くの赤い残骸を地面に落とした。シルバとライラの口角は上を向いていた。
「レオさんっ!アランさんっ!下がって回復しましょうっ!」
「うん。ありがとうネネカ。」
オークの数も減り、奥の景色が見えるようになってきた頃、オーク達の群れの後方に居た人物が小さく口を開いた。
「見つけた。」




