ドレンタvsキドゥー
リングに立つアランを歓声と拍手が包んだ。アランは観客の視線を後にし、ロープを潜ってリングを降りた。ゴンドラの上のレオ達の胸の鼓動は、前向きな緊張に変わっていた。
「すごい戦いだったね。」
「あぁ。しかし、あの騙し技をよく見破れたな……」
コルトに続いてオーグルが口を開くと、レオは緑色の地面を歩くアランを見つめて呟いた。
「…困難な状況の時こそ冷静に動け……」
「ん?」
オーグルが反応すると、レオは目を輝かせて彼の方を見た。
「エレナス兵長が特訓の時にアランに言った言葉だよ。マロア選手はほとんどの攻撃で特技を放つ。でも急に来た通常攻撃にアランは違和感を感じたんだと思う。困難な状況の中で冷静さを失わなかったから技を見破れたんだよ。」
「なるほど…アランも変わったな。」
『さぁ第2回戦に移りましょう!!ドレンタvsキドゥー!!』
「「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」
歓声に包まれるリングに、体つきの良い男と、黒髪の獣人が上がった。ゴンドラの上のレオ達は獣人に目を奪われた。
「あっ!予選の時の!!」
「キドゥーってのか……見応えがありそうだ。」
モルカは彼に指をさし、カルマは彼を見てにやけた。
「……」
アランはリングの下から、鋭い目で向き合う2人を黙って見ていた。
『第2回戦………始めっ!!』
その声を聞いたドレンタは勢いよくキドゥーに飛び掛かった。しかし、キドゥーは動かない。
「“レインナックル”!!たぁぁぁぁぁっ!!」
ドレンタは握り締めた拳を交互に放った。キドゥーは飛んで来る無数の拳を軽々と避け、床を蹴って少し跳ぶと、ドレンタの胸に足を突き出した。
「“ライドフリクション”。」
「ぐっ…ぁぁああああっ!!」
ドレンタは仰向けに倒れ、それに乗ったキドゥーは、足で床に押さえ付けながら滑り始めた。
『キドゥー選手っ!!楽しそうな技を使っております!!ドレンタ選手は抜け出せるか!?』
ドレンタは背中全体に走る摩擦熱に歯を食いしばり、キドゥーの脚を両手で掴んだ。
「きぃっ…!!うおおおおぉぉっ!!」
「“ムーン・サルト”」
「何っ!!」
キドゥーは宙返りをし、脚を掴んで離さないドレンタの頭を床に叩き付けた。
「いぎぃぃっ!!」
「“疾風蹴り”。」
キドゥーは振り返り、逆さで棒のように立つドレンタの腹部に、竜巻の纏った足を突き出した。
「のわぁぁっ!!」
ドレンタは飛ばされ、ロープに弾かれて倒れた。
「「うおおおおおおおおおっっ!!!」」
『10っ!9っ!8っ!7っ!』
マイクを握ったケリィのカウントが始まると、ドレンタは頭を抱えながらゆっくり立ち上がった。鼻と口から赤い血が流れ落ちている。
「…っ……キッ……まだ…だ……ま…だっ……」
ドレンタは上手く立つことができない中、ぼやける景色の先に立つキドゥーの冷たい視線を睨みつけていた。すると、キドゥーは口を開いた。
「……棄権しろ……死ぬぞ……。」
「……は…?………何っ…だとぉっ!!?」
ドレンタは怒鳴り、視覚を取り戻すと同時に、キドゥーに飛び掛かった。
「“グレネードナックル”っ!!」
ドレンタは熱気を纏い膨らむ拳を伸ばした。
「“ムーン・サルト”。」
キドゥーはその拳が近づくと、宙返りをしてドレンタを上に蹴り飛ばした。
「んぐぅっ…!!がはぁぁぁっ!!」
ドレンタは空中で爆発し、煙幕に包まれた。
『なんとっ!!カウンターで大ダメージっ!!やはりリスクの高い攻撃を使うのは避けるべきかっ!!』
「「うおおおおおおおっ!!」」
キドゥーは煙幕を見つめると、床を強く蹴り、煙幕に右足を伸ばして飛んだ。
「“天貫槍蹴り”。」
キドゥーは煙幕を貫くと、その足にはドレンタの背中があった。右腕が焦げている。
「ぅわああぁぁぁぁっ!!」
「“鼠返し”。」
キドゥーは縦に回転し、ドレンタの脳天に踵を落として、真下のリングに叩き付けた。
「っ!!ぐふぅぅぁぁっ!!」
「……“テラ・クラッシャー”。」
真下で倒れるドレンタに、キドゥーは空中から左足を伸ばし、ドレンタの腹へ一直線に落ちた。
「ぅぶぅっ!!がはあぁぁぁっ!!」
『キドゥー選手の容赦ない連続攻撃っ!!このまま手も足も出ずに終わってしまうのかっ!!』
宙返りをして着地したキドゥーは、ドレンタの苦しそうな顔を冷たい目で見つめ、口を開いた。
「……棄権しろ……死ぬぞ。」
「………ぅ……ぅぅ……っ…ぐぅ……っ」
ドレンタは上半身を起こし、痛みを噛み締めてキドゥーを見た。
「……やろぅ……ナメやがってぇぇぇぇっっ!!!」
「っ。」
ドレンタは口が裂けるほど叫び、キドゥーに拳を伸ばして飛び掛かった。
「俺は優勝してっ!!英雄王になってぇっ!!家族の仇をぉっ…ぅ!!」
「“疾風蹴り”。」
キドゥーは右脚に竜巻を纏わせ、ドレンタの腹部に突き出した。ドレンタの瞳は黒を失い、リングの外へと飛んでいった。
『……っ!!決まったぁぁぁぁぁぁっ!!!勝者っ!!キドゥーーーーっっ!!!』
「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」」
リングの上のキドゥーは歓声を浴びた。しかし、ゴンドラの上のレオ達とリング下のアランは、彼に真剣な眼差しを送っていた。
「……すごい脚技ね…」
「それに一撃も受けてません……強いですね……」
モルカとネネカはそう口を開いた。するとリングの上にマイクを握ったケリィが現れた。
『準決勝が終了しましたっ!!見事勝ち残ったのはアラン選手とキドゥー選手っ!!決勝戦も見応えがありそうですっ!!最後まで目が離せませんっ!!っとここで休憩時間を挟みます、準備が整うまでしばらくお待ち下さいっ!!』
その声の後にキドゥーはロープを潜り、リングから降りてアランを見た。そして、小さく口を開いた。
「………アラン…だな?」
「…ぇ…あ、まぁ…」
「決勝戦、共に悔いの無いよう戦おう。」
「…は…はぁ……」
キドゥーはそんな言葉を残し、アランから離れて行った。アランは急に声を掛けられたからか、まともな返事ができなかったというのは自覚していた。しかし、足の先から胸の奥へ向かって、名のわからない緊張が上ってきた。
「……キドゥー……か……おもしれぇ。悔いの無よう戦ってやるさ。」
アランはそう呟いてにやけた。真上のゴンドラのレオ達は、そんな彼の顔を覗いて眉間にしわを寄せていた。
「……余裕なツラしてんな…」
「決勝戦はキドゥー選手と…か……。勝てるかな……予選の時みたいにならなければ良いけど……」
スフィルとコルトがそう口を開く。するとレオは、止まらない緊張感を胸に呟いた。
「分からないよ……結果は………誰にもね。」
リングの外では、ドレンタが担架で運ばれている。それがアランの真横を通過すると、アランは彼の白目を見つめ、言葉を溢した。
「…家族の仇をって言ったな……すまねぇ、俺にも討ちてぇ仇があんだ……あんたの思いは俺もキドゥーも忘れねぇよ。」
アランは両腕の拳を握り締めた。




