vsマロア
『選手の皆さん、予選お疲れ様でした!!準決勝に入る前に休憩時間を挟みたいと思います。休憩時間終了後、予選を突破した4人の選手はリング前の私の所にお集まり下さい!!それではごゆっくり!!』
レオ達はゴンドラから降り、森の中へ走り出した。辺りに目を向けると、体中に傷を負った男達が係員に担架で運ばれているのが見える。夢中で走り、立ち止まった先には、下を向いてぬいぐるみのように座り込むアランが居た。
「アランっ!!大丈夫!?」
「おいアランっ!!」
するとアランはレオ達の顔をゆっくり見上げた。彼の顔は魂が抜かれたようにキョトンとしている。そして小さく開いた口から声を溢した。
「…………おぉ……」
モルカは袋を手に取ってアランの前に立ち、袋の中に手を入れ、取り出した物をアランの開いた口に捻じ込んだ。
「予選突破だよっ!!何座ってんのっ!!喜びなさいよっ!!」
アランの口には、トロンコッカーの骨つき肉が刺さっていた。彼のその顔を見て、息を切らしていたレオ達は笑った。アランは肉の骨の部分を持ってしばらく咀嚼すると、少しずつ笑みを浮かべた。
「……そっか………俺……残ったんだ…」
「おめでとうございます、アランさん。」
「やったなぁっ!!」
レオ達はアランを囲んで笑った。その声は高く伸びる木の先まで届いていたと思う。喜びと同時に、彼らは同じ事を感じた。久々にみんなと笑い合えた、と。
それからしばらくして、彼らは草の上に腰を下ろし、円になって肉に齧り付いた。
「なんかこうして大会観戦してると、部活を思い出すなぁ……」
「…だな。」
一筋の木漏れ日を見つめて口を開くコルトに、オーグルは右腕の義手を撫でて微笑んだ。
「デンテも来れば良かったのにね。」
「まぁな。でも、アイツには料理人としての仕事がある。しょうがねぇよ。」
そう話すレオとアランに、モルカはニヤけて、肉の入った袋に指をさした。
「実はこの骨つき肉、全部デンテが作ったの。ちゃんと応援してるんだから安心しなさい。」
「「へぇ〜。」」
レオとアランは口を揃えて声を漏らした。彼女の声を聞いてからその肉を口に入れると、微かに感じる辛さが心を燃やしてくれるように思える。アランは特にその味を噛み締めた。
『間もなく休憩時間終了となります!!ドレンタ選手、アラン選手、マロア選手、キドゥー選手、リング前にお集まり下さい!!』
「んじゃ、俺行ってくる。」
アランはゆっくりと立ち上がり、リングを真っ直ぐ見た。
「頑張ってね。」
「頑張ってくださいっ。」
レオとネネカも立ち上がると、アランは2人の方を振り向き、肩に手を置いた。
「あぁ。」
アランは再びリングの方を向き、堂々とした足取りで歩き始めた。彼の背中が一段と大きく見える。
「……よし、僕達も移動しよう。」
「だな。」
カルマが頷き立ち上がると、それに続いて4人も立ち上がり、ゴンドラの方へ歩き始めた。
ゴンドラに乗ると、レオは上のハンドルを回し、リング全体が見える場所に止めた。ゴンドラの僅かな揺れが、足の先から緊張感を伝える。レオ達は息を呑んだ。
『さぁ皆さんっ、これより、準決勝を行います!!』
「「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」」
吊るされた複数のゴンドラから、大きな歓声が沸いた。ゴンドラの数は予選の時よりも倍近く多い。
『では早速、準決勝からの対戦形式について説明します!!準決勝からはトーナメント戦、これから行う準決勝は第1回戦と第2回戦に分け、リングの中で1対1で戦ってもらいます!!ルールは簡単。倒れてから10秒動けない状態にさせたら勝ち!!相手を場外に出しても勝ちとなります!!』
すると、周囲の人達は静まり、屋根となっている木々の緑がざわめき始めた。
『それでは第1回戦っ!!アランvsマロア!!』
「「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」」
「やっちまえ!!マロアぁ!!」
「負けんじゃねぇぞぉ!!」
「いきなりアランか…」
沸き上がる歓声の中、コルトは少し苦い顔をした。アランとマロアがロープを潜り、リングに上がった。マロアの姿はがっしりとした体つきで、体中が茶色の毛で覆われている。獣人族だ。
「しかも相手は獣人族…」
「そんなの関係ないよっ!アラぁぁンっ!!頑張ってぇっ!!」
モルカはスフィルに口を開いた後、下に見えるアランに叫んだ。
「……ふぅ…獣人族か……そしてあの肉体……相手として不足はねぇな。」
『第1回戦………始めっ!!』
「“タイフーン・ストレート”っ!!」
「“銀の拳”っ。」
マロアが大きな腕を突き出し、アランに暴風を放つと、アランは右腕を銀色に染め、暴風の渦に拳を突き出して弾いた。
『なんとっ!!いきなり放たれた大技を銀の拳で掻き消しましたっ!!』
「「おおぉぉぉぉぉっ!!」」
「ふっ!!」
「…っ!!」
2人は一定の間合いを保ったままリングを走って回り、一斉に床を強く蹴って飛び出した。
「“ボーンブレイク”っ!!」
マロアがアランの顔面に肘を向けると、アランはそれを睨みつけ、真下に足を伸ばした。
「“メガ・クラッシャー”っ。」
「なっ…」
「“ライジングアッパー”ぁっ!!」
アランはマロアの肘を下に避けて着地したすぐに、床を強く蹴って、硬い拳を真上のマロアの胸部に捻じ込んだ。
「ぅぶっ!!がはぁっ!!」
「はぁぁっ!!」
アランは空中で体勢を横に変え、脚をマロアの背に振り下ろし、床に叩き付けた。
『アラン選手っ、カウンターと同時にコンボが炸裂っ!!』
「何だあの動きはっ!!」
「いいぞアランっ!!」
レオ達の乗るゴンドラが歓声で揺れた。
「チィッ!!」
マロアは腕の力で、うつ伏せの状態から上に飛び、真上からアランに足を突き出した。
「はぁぁっ!!」
「“銀の拳”っ!!」
アランは右腕を銀色に染め、マロアの足に力強く突き出した。しかし、手応えがない。
「っ……?」
「“シャドーフェイント”っ!!」
アランの背後から足を突き出したマロアが現れ、アランをロープまで飛ばした。
「ぅおぁっ!!」
『ここでマロア選手っ!!奇妙な動きで背後からの攻撃っ!!これは痛いぞっ!!』
「何だあの技っ!!」
「やはり、予選を突破した選手は手強いですね…」
カルマが口を開けて固まり、ネネカは両手を重ねて握るようにして、ゆっくり立ち上がるアランを見つめた。
「「マ!ロ!アっ!!マ!ロ!アっ!!」」
「……くっそ…今の技を使い回されたらマズい……何か弱点を見つけねぇと……」
「“タイフーン・ストレート”ぉっ!!」
マロアは床を踏み締め、突き出した拳から暴風を放った。
「チッ…“ライジングアッパー”っ!!」
アランは拳を上に突き出して飛び、暴風を回避した。すると、マロアも下からアランを見つめて飛び、拳を構えた。それを見たアランは、腕を交差して攻撃を受け止めようとした。
『“シャドーフェイント”っ!!』
「なっ…ぅがぁっ!!」
アランは背中に拳を喰らい、床に叩き付けられた。
「うっ!!……っっ……ぅ……」
『マロア選手っ!!またしてもシャドーフェイントの騙し技っ!!』
「“ボーンブレイク”っ!!」
マロアは真下でうつ伏せに倒れるアランに、肘を向けて落ちた。アランは気配に気付き、転がるように攻撃を避けた。
「……ぁっぶねぇ…」
「…チッ……」
「はぁぁっ!!」
2人はお互い向かい合って飛び出し、拳を交互に突き出し始めた。拳と拳が合うたびに、激しい打撃音が森中に響き渡る。
『ここで接近戦に入りました!!両者共に勝利を譲りませんっ!!』
「ふっ!!ふんっ!!ふんっ!!」
「くっ!!っ!!っ!!」(何とか状況を固めた……さぁ…どうする…!!)
「“タイフーン・ストレート”っ!!」
「“銀の拳”っ!!」
マロアが放った暴風をアランは重い拳で掻き消した。マロアは自らが放った暴風の反動で後ろに下がり、ロープに弾かれると同時にアランに飛び出した。
「これで終わらせるっ!!」
「っ…!!」
「アラぁぁぁぁンっ!!」
アランはマロアを睨み付けたまま、構えて止まっていた。そして、
「“シャドーフェイント”っ!!」
「“銀の拳”ぃっ!!」
アランは振り返り、目の前に現れたマロアの腹部に銀色の拳を捻じ込んだ。
「ぅぐぅっ!!ゔぉあぁっ!!」
「もうその技は見飽きたんだよぉっ!!ぶっ飛べぇっ!!“プロミネンスストレート”ぉっ!!」
アランはマロアの腹に食い込んだ拳に炎の渦を纏わせ、歯を食い縛って床を踏み締め、力強く拳を突き出した。マロアは白目を見せ、場外へと飛び、地面に体を叩き付けた。
『試合終了っ!!勝者っ!!アラぁぁぁンっ!!』
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」
「やったぁぁぁっ!!」
「勝ったっ!!アランが勝ったよっ!!」
「……よっしゃぁ……っ!!よっしゃぁぁぁぁっ!!」
アランは歓声を浴びながら両腕を上げ、勝利の喜びを叫んだ。リングの外では、仰向けで倒れたマロアの腹から一筋の煙が上がっていた。




