火蓋
ワールド・ヒーロー・ディシィジョン・バトル。通称WHDB。ブランカの深部の町で行われる武闘大会だ。世界中の武闘家、ボクサー、レスラー、ファイターが集い、優勝を争う。優勝者には特別許可職の英雄王になる権利が与えられる、世界で最も注目の集まる大会だ。
「あっ、いたいた。お〜いっ!!」
背の高い木々が生い茂る緑の地に人々が集う。レオとアランとネネカが声の方に振り向くと、そこには昨日声をかけてきた5人が明るい表情で歩いて来るのが見えた。コルトが笑顔でこちらに手を振っている。
「よ。お前ら。なんかすまねぇな。こんな遠いトコまで来てもらって。」
「何言ってんのアラン。期待してるよ。」
アランのはっきりしない表情に向けて、モルカは微笑んだ。その後ろにいるカルマは、ずっと辺りを見渡していて落ち着いていない様子だ。レオは彼に声をかけた。
「…どうしたの?」
「ん、あ、いや、さっきケモ耳のお姉さんが居たんだけど、どこ行ったんだろうな〜って見てたら、ここらへんケモ耳の男が多いな〜って思ってよ。…この世界の種族って、ライトニングとダークネスだけじゃねぇのか?」
すると、首を傾げる彼にスフィルが小さく口を開いた。
「聞いた事がある。ライトニングとダークネスの2つは大きな括りのようなモノで、その中に人や獣人族、魚人族、竜人族が居るらしい。この他種族は人とはあまり関わらない生活をしているから、初見ってのも無理はねぇ。」
「なるほどな…ところで、もう受付は行って来たのか?」
オーグルとスフィルだけは真剣な眼差しを送っている。義手に巻き付けられた鎖と槍を見ながら、ネネカは小さな声を返した。
「はい。エルドさんが参加者資料を事前に出してくれたので、すぐに済みました。」
すると、町の中心の方からマイクを通して大きな声が聞こえた。
『Ladies and Gentlemen!!深緑なるブランカの奥地にようこそ!!ワールド・ヒーロー・ディシィジョン・バトルに参加する選手達、また観戦するお客様は、リングの周りにお集まり下さい!!』
「行こう、皆。」
レオの声で8人は歩き出した。辺りで密集していた人々も私語をやめ、ゆっくりと歩き始めた。家と家の間を通り抜けると、大きなリングが見えた。リングの真ん中には、蝶ネクタイを付けた笑みで溢れる男が、マイクを持って立っていた。
『こんにちは、今日の大会の司会、解説、実況を務めさせていただきます、ケリィです!!この大会では、選手にとって戦いやすいフィールドは勿論、観戦者さまも楽しめるゴンドラ式手動観戦席を用意しております!!皆様最後まで楽しんでいただけると幸いです!!』
すると、リングを囲むように集まった人々が大きな拍手をした。レオ達もその勢いに流され、笑みを浮かべて拍手をした。
『上をご覧ください!!木々に複数本のワイヤーが張り巡らされておりますが、あれが観戦席の移動通路となります!!ゴンドラは1台10人までとさせていただきま〜す。さぁお待ちかねっ、大会のルールについて説明させていただきます!!』
盛り上がりを見せる人混みの中、アランは息を呑み、リングの上に立つ彼の煌めく目を、じっと見ていた。
『ルールは簡単、戦闘不能になったら負け!!させたら勝ち!!毎年多くの死傷者を出しておりますが、ルール上相手を戦闘不能状態にさせたら勝利となりますので、自分の命の危険を感じた時は、是非とも棄権するようお願いします!!なお、武器の使用ですが、手甲の使用のみ許可します!!』
「……死傷者……この大会って、かなり激しいのですね……」
ネネカは肌寒い恐怖心を感じた。恐らく彼女だけではない。しかしその恐怖心を乗り越える事で、この大会に勝つ事ができるのだと、アランは真剣な眼差しで噛み締めていた。
『今回エントリーしてくれた選手は全部で58人!!しかしこの人数の中から2人ずつリングに出て戦うと日が暮れてしまう…。そこで……』
彼は腕を大きく開き、マイクを強く握った。
『予選は、ブランカの森をフィールドとして、残り人数が4人になるまで戦ってもらいますっ!!』
「「おおおおおおおおおおおおっ!!!」」
「おいおいマジかよ、こんな森の中じゃ、背後からの不意打ちもおかしくねぇぞ。」
鼓膜を揺らす歓声の中、カルマは辺りの木々を見渡して心配そうな顔をした。レオはアランの真っ直ぐな視線を見つめて口を開いた。
「アラン、一点に集中しないように気を付けて。」
「…あぁ。」
『それでは観戦者の皆様はゴンドラに乗って下さい!!』
「じゃあアラン。頑張れよ。」
「しっかりね。」
「行ってこい。」
「健闘を祈る。」
それらの声にアランは微笑み、親指を立てた。
「あぁ。全員ぶっ飛ばしてくる。」
レオ達7人はゴンドラに乗り、上のハンドルを回して地上から離れた。高い所から見えるアランは、小さくは見えなかった。
『これから1分の移動時間を与えますので、それまでは攻撃はせず、この森を自由に動き回ってください!!それでは、どうぞっ!!』
彼の声で、58人の選手らは木々の中へと走り出した。アランはなるべく相手との間隔を気にして、空いた場所を探るように見渡しながら腕を振って走っていた。レオはそれを追いかけるようにハンドルを回し、ゴンドラを動かす。
「こっちも緊張してきた……皆強そうな体してたけど、アラン大丈夫かな……」
「大丈夫だよコルト。アランは特訓で強くなった。そう簡単にやられることはないよ。」
心配そうな顔で真下のアランを見つめるコルトに、レオはそう口を開いた。そして小さな声で、頑張れと呟いた。すると、アランは足を止め、その場に片膝をついた。それを確認したレオはハンドルから手を離し、アランをじっと見た。
「良い場所に着いたな。比較的多くの草木が生い茂っている。ここなら敵に見つかりづらく、様子を見ながら不意打ちを掛ける事もできる。」
背の高い草の中で体勢を低くするアランを、オーグルは腕を組んで見ていた。アランは勿論、上のレオ達の胸の鼓動が、喉を打つように走り出す。
『…1分が経過しましたっ!!予選っ開始ですっ!!』




