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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
109/206

火蓋

 ワールド・ヒーロー・ディシィジョン・バトル。通称WHDB。ブランカの深部の町で行われる武闘大会だ。世界中の武闘家、ボクサー、レスラー、ファイターが集い、優勝を争う。優勝者には特別許可職の英雄王になる権利が与えられる、世界で最も注目の集まる大会だ。




「あっ、いたいた。お〜いっ!!」


 背の高い木々が生い茂る緑の地に人々が集う。レオとアランとネネカが声の方に振り向くと、そこには昨日声をかけてきた5人が明るい表情で歩いて来るのが見えた。コルトが笑顔でこちらに手を振っている。


「よ。お前ら。なんかすまねぇな。こんな遠いトコまで来てもらって。」

「何言ってんのアラン。期待してるよ。」


 アランのはっきりしない表情に向けて、モルカは微笑んだ。その後ろにいるカルマは、ずっと辺りを見渡していて落ち着いていない様子だ。レオは彼に声をかけた。


「…どうしたの?」

「ん、あ、いや、さっきケモ耳のお姉さんが居たんだけど、どこ行ったんだろうな〜って見てたら、ここらへんケモ耳の男が多いな〜って思ってよ。…この世界の種族って、ライトニングとダークネスだけじゃねぇのか?」


 すると、首を傾げる彼にスフィルが小さく口を開いた。


「聞いた事がある。ライトニングとダークネスの2つは大きな括りのようなモノで、その中に人や獣人族、魚人族、竜人族が居るらしい。この他種族は人とはあまり関わらない生活をしているから、初見ってのも無理はねぇ。」

「なるほどな…ところで、もう受付は行って来たのか?」


 オーグルとスフィルだけは真剣な眼差しを送っている。義手に巻き付けられた鎖と槍を見ながら、ネネカは小さな声を返した。


「はい。エルドさんが参加者資料を事前に出してくれたので、すぐに済みました。」


 すると、町の中心の方からマイクを通して大きな声が聞こえた。


『Ladies and Gentlemen!!深緑なるブランカの奥地にようこそ!!ワールド・ヒーロー・ディシィジョン・バトルに参加する選手達、また観戦するお客様は、リングの周りにお集まり下さい!!』


「行こう、皆。」


 レオの声で8人は歩き出した。辺りで密集していた人々も私語をやめ、ゆっくりと歩き始めた。家と家の間を通り抜けると、大きなリングが見えた。リングの真ん中には、蝶ネクタイを付けた笑みで溢れる男が、マイクを持って立っていた。


『こんにちは、今日の大会の司会、解説、実況を務めさせていただきます、ケリィです!!この大会では、選手にとって戦いやすいフィールドは勿論、観戦者さまも楽しめるゴンドラ式手動観戦席を用意しております!!皆様最後まで楽しんでいただけると幸いです!!』


 すると、リングを囲むように集まった人々が大きな拍手をした。レオ達もその勢いに流され、笑みを浮かべて拍手をした。


『上をご覧ください!!木々に複数本のワイヤーが張り巡らされておりますが、あれが観戦席の移動通路となります!!ゴンドラは1台10人までとさせていただきま〜す。さぁお待ちかねっ、大会のルールについて説明させていただきます!!』


 盛り上がりを見せる人混みの中、アランは息を呑み、リングの上に立つ彼の煌めく目を、じっと見ていた。


『ルールは簡単、戦闘不能になったら負け!!させたら勝ち!!毎年多くの死傷者を出しておりますが、ルール上相手を戦闘不能状態にさせたら勝利となりますので、自分の命の危険を感じた時は、是非とも棄権するようお願いします!!なお、武器の使用ですが、手甲の使用のみ許可します!!』


「……死傷者……この大会って、かなり激しいのですね……」


 ネネカは肌寒い恐怖心を感じた。恐らく彼女だけではない。しかしその恐怖心を乗り越える事で、この大会に勝つ事ができるのだと、アランは真剣な眼差しで噛み締めていた。


『今回エントリーしてくれた選手は全部で58人!!しかしこの人数の中から2人ずつリングに出て戦うと日が暮れてしまう…。そこで……』


 彼は腕を大きく開き、マイクを強く握った。


『予選は、ブランカの森をフィールドとして、残り人数が4人になるまで戦ってもらいますっ!!』


「「おおおおおおおおおおおおっ!!!」」


「おいおいマジかよ、こんな森の中じゃ、背後からの不意打ちもおかしくねぇぞ。」


 鼓膜を揺らす歓声の中、カルマは辺りの木々を見渡して心配そうな顔をした。レオはアランの真っ直ぐな視線を見つめて口を開いた。


「アラン、一点に集中しないように気を付けて。」

「…あぁ。」


『それでは観戦者の皆様はゴンドラに乗って下さい!!』


「じゃあアラン。頑張れよ。」

「しっかりね。」

「行ってこい。」

「健闘を祈る。」


 それらの声にアランは微笑み、親指を立てた。


「あぁ。全員ぶっ飛ばしてくる。」


 レオ達7人はゴンドラに乗り、上のハンドルを回して地上から離れた。高い所から見えるアランは、小さくは見えなかった。


『これから1分の移動時間を与えますので、それまでは攻撃はせず、この森を自由に動き回ってください!!それでは、どうぞっ!!』


 彼の声で、58人の選手らは木々の中へと走り出した。アランはなるべく相手との間隔を気にして、空いた場所を探るように見渡しながら腕を振って走っていた。レオはそれを追いかけるようにハンドルを回し、ゴンドラを動かす。


「こっちも緊張してきた……皆強そうな体してたけど、アラン大丈夫かな……」

「大丈夫だよコルト。アランは特訓で強くなった。そう簡単にやられることはないよ。」


 心配そうな顔で真下のアランを見つめるコルトに、レオはそう口を開いた。そして小さな声で、頑張れと呟いた。すると、アランは足を止め、その場に片膝をついた。それを確認したレオはハンドルから手を離し、アランをじっと見た。


「良い場所に着いたな。比較的多くの草木が生い茂っている。ここなら敵に見つかりづらく、様子を見ながら不意打ちを掛ける事もできる。」


 背の高い草の中で体勢を低くするアランを、オーグルは腕を組んで見ていた。アランは勿論、上のレオ達の胸の鼓動が、喉を打つように走り出す。


『…1分が経過しましたっ!!予選っ開始ですっ!!』

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