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ティア・イリュージョン  作者: おおまめ だいず
幻想の星編
108/206

小さな火種

 武闘大会前日、レオとアランは一昨日と昨日と同じようにギルド小屋の前にいた。違うところを挙げるとするなら緊張感だろうか。明日の事を思うと、胸の鼓動が早くなり、居ても立っても居られなくなる。そんな2人の前に、黒く大きい鎧に身を包んだエレナスが仁王立ちした。


「レオ、いや、特にアラン。いよいよ明日は大会本番だ。今日は今まで行ってきた特訓を活かし、合成技を仕上げる。」

「…合成技……?」

「あぁ、特訓初日に2人が放った技は覚えているだろう?炎を纏ったあれだ。」


 2人の視線はより鋭くなった。風ひとつ吹かない草原の上で、レオとアランは頬が痛むほどこの静かな空気を噛み締めた。


「技の名前は考えておいた。この先使い続けると思うから、カッコいいのが良いだろうと思ってな。」


 エレナスはそう言うと、竜の印が付いた大きな盾を構えた。その姿はまるで岩、いや、鉄塊のようだった。


「今から交互に技を放ってもらう。それも俺に、だ。安心しろ。しっかり受け止める。まずはレオ、前に出ろ。」

「はい。」


 レオは2歩進んで木の剣を構えた。剣先はエレナスの方を向いている。


「お前の技はバードストライク。炎を纏った素早い動きで一直線に目標に飛び、命中後に大爆発を起こす。もし衝撃に耐えられなかったら、お前自身も爆発に呑まれることになる。」

「……」


 レオは息を呑んだ。前方に構える黒く大きい盾を見つめ、剣を強く握った。地面を踏み締め、草の匂いをゆっくり感じ取る。


「準備はいいなっ、さぁ来いっ!!」

「…!!“バードストライク”っ!!」


 その途端、剣の先からレオのつま先までに火が渦巻き、地を強く蹴ると、目にも留まらぬ速さでエレナスの盾に飛び、大爆発を起こした。辺りに爆音と爆風が響き渡り、黒い煙でレオとエレナスを隠した。


「ゲッホッゲッホッ……っ、なんだこりゃぁ……」


 アランは思わず腕で顔を隠した。すると、少しずつ煙が晴れ、先が見通せるようになると、黒い鉄塊とその前で膝を付くレオがいた。2人の周りの草は静かに燃え、下の土を見せていた。


「…ふぅ………なかなかの勢いだ。だが、まだ多少の躊躇を感じる。敵を前にしたら情けは無用だ。今は俺を敵と思え。…さぁ、さっきの位置につけ。次っ、アランっ!!」

「……行くか…」


 アランは先程のレオのように2歩進み、右の拳を固めて構えた。


「お前の技はプロミネンスストレート。炎の渦を拳に纏わせ、熱く重い拳を目標にぶつける。だがこの技は、高火力なだけあって負荷が大きい。使いどころには注意しろ。」

「……ふぅ………っ」


 アランはぎらりとした目をエレナスに向け、拳を握り締めた。


「よしっ、来いっ!!」

「…っ!!“プロミネンスストレート”ぉっ!!ぅぉおらあぁっ!!」


 アランの右腕に炎が渦巻き、強く歯を食いしばった状態でエレナスの大きい盾に拳を放った。盾は大きい音を立てて熱風を弾き、アランをレオの前に飛ばした。


「ぉあぁっ!!……っ」

「なるほどな。威力は大したものだ。しかし、1発1発に力を込め過ぎると、その後の動きに支障が出るから注意しろ。そしてお前は怒りに呑まれやすいタイプだ。困難な状況の時こそ冷静に動け。」


 エレナスの声を聞くと、アランは立ち上がり、大きく息を吐いてエレナスを見た。その目には怒りの色は無く、真っ直ぐな気持ちが感じ取れる。


「よし、今度はレオだ。さっきのような躊躇は要らないからな。」

「は、はいっ。お願いします。」


 レオは再び剣を構え、エレナスの真剣な顔に鋭い視線を送った。


「“バードストライク”っ!!はぁぁっ!!」




 それからしばらくして、3人は休憩に入った。清々しい青空の下で草原に腰を下ろし、頬を撫でる数滴の汗の冷たさと体の熱さをゆっくりと感じていた。そんな時、3人のもとに誰かが近付いてくる気配がしたので、レオとアランはその方向を見た。


「よっ、レオ。アラン。」

「久しぶりだね。」


 そこにはカルマとコルト、その後ろにオーグルとスフィルとモルカが居た。それに対してアランは軽く片手を挙げ、レオは口を開いた。


「久しぶり。みんな元気そうだね。」

「まぁな。んで、兵長さんと何してんだ?」


 日光で義手を光らせたオーグルが、2人の疲れた表情を覗くように見て問いかけた。


「あぁ。俺、明日ブランカのWHDBっていう武闘大会に出るんだ。それの練習も兼ねた特訓だ。」

「武闘大会ねぇ……あ、私達も見に行くのはどう?」

「は、はぁ…?」


 モルカの言葉にアランは少し動揺した。しかし彼らはアランの表情を気にすることなく顔を合わせ、賛成の意見を挙げた。レオはアランの口角のしわを気にして見ていた。


「ちょ、待てよ。見せもんじゃねぇって。これは俺の腕試しみたいなもんで…」

「またまたそんなこと言っちゃってぇ。安心しろ、この優しいカルマちゃんが応援してあげるっつ〜の。」


 カルマはアランの肩を軽く叩いた。レオはそんなアランの姿を見て、小さく開いた口から声がこぼれた。


「………アラン…?」

「ま、楽しませてもらうぞ。じゃあな。」


 スフィルが言うと、5人は何事も無かったかのようにこの場を去っていった。静かな風が吹き始めると、エレナスは立ち上がり、アランの前に片膝をついた。


「よかったじゃねぇか。応援してくれる人が居ることは良い事だ。」

「……ま、まぁ。」


 アランは曇った表情でエレナスに生返事を流した。さすがにアランの心情が気になったレオは小さく口を開いた。


「…アラン、どうしたの?」

「………なぁレオ。大会って…明日…なんだよな…」


 アランの弱々しい声にレオは驚いた。先程まで生き生きとしていた目は、彼からは面影ひとつなく消えていた。


「………何言ってるの…?そうだよ。明日だよ。急にどうしたの?」

「……いや、いざ大会を前にすると……緊張っつうか……上手くいくか怖くなってきた……」


 アランの唇に潤いはなく、震えていた。そして彼は自分の両手の平を見つめ、首を下ろしていた。


「おいアラン。」

「…っ。」


 そんな彼にエレナスは口を開いた。特訓の時のような真面目な表情だ。アランは何を言われるか大体分かった気がして息を呑んだ。


「…少なくとも俺は、お前が明日の大会で恥をかかねぇくらい教えたつもりだ。自信を持て。」


 アランはゆっくり顔を上げ、エレナスをじっと見た。するとエレナスの眉間のしわが緩み、優しい声をアランに与えた。


「相手がどんなヤツであろうと、それを怖がるな。真剣に向き合って強くなった自分を怖がれ。そうだ、お前は強くなった。俺が保証する。」

「…兵長…………っ!!」


 アランは勢いよく立ち上がり、両腕の拳を固めた。エレナスは彼の顔を見上げ、2人口角を上げて向き合った。


「最後の仕上げ、頼みますっ!!」

「あぁ。ドンと掛かって来いっ!!」


 レオは目を輝かせるアランに微笑んだ。草原を流れる優しい風が、3人の髪を靡かせた。

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