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12歳-4-

 中央学園。

 正式には『王教立 オルトゥーラ中央学園』。


 文字通り王宮と聖教会が協同で設立した学園で、国の中央にある聖教区に位置している。


 聖教会とは創造神を祀る宗教で、オルトゥーラの国教。

 神や天使の住む天界と連絡手段を持っており、聖女を認定するのもこの組織だ。


 そんな聖教会の方針により、中央学園は貴族と平民が分け隔て無く、同じ教室で授業を受ける。王族も例外ではない。


 けれど、入学に関しては分け隔てがある。

 貴族や王族は1年早い12歳から入学できる『準入学』という制度が用意されていた。

 平民は13歳から入学し、16歳までが在籍期間。


 また、平民は入学試験に合格する必要があるけれど、貴族王族は無条件で入学できる。


 これは学園設立当時、貴族達が平民と同列なことに反発したため、王宮の譲歩でできたものだ。


 こうして貴族側とのバランスを維持しながら、『貴族と平民が共に学ぶ』という方針は変えず、中央学園という場は供給され続けていた。



   †



 そんな準入学の一日目は『準入学測定』を受けることになっている。

 平民が受ける入学試験と、形式はほぼ一緒。

 ただ準入学で不合格はないため、測定と名前を変えているのだ。


 測定項目の一つに、実技がある。

『戦闘』『芸術・音楽』『手技』のいずれかを選択し、自分の得意なものを披露する、というもの。

 前生では『芸術・音楽』でバイオリンを演奏し、可もなく不可もない結果だった。


 が、今生はもちろん『戦闘』一択!


 ――『戦闘』では担当官と模擬戦がある。

 そこで今年のアナライズがまだだったことに気付いた。早速見てみよう。


=============

【ルナリア・ゼー・トルスギット】

・HP 88/88

・MP 3661/3661

・持久 48

・膂力 17

・技術 104

・魔技 112


・右手装備 なし

・左手装備 なし

・防具   貴族の服

・装飾1  貴族のブローチ

・装飾2  なし


・物理攻撃力 22

・物理防御力 35

・魔法攻撃力 64

・魔法防御力 57


・魔力神経強度 中

・魔力神経負荷 0%

=============


 相変わらず異様な伸び方をしてるMP以外は、まあ順当かな。

 魔力神経強度が中になったのは嬉しい! 前より魔法を使っても体が痛くなりづらいだろう。


 これなら実技で多少の無理をしても大丈夫そうね。



   †



 トルスギット領から馬車で2時間。

 聖教区の中央学園前で馬車を降りる。


 目の前には荘厳な園門。

 門の向こう側は、宮殿と見紛わんばかりに豪奢で広大な建造物。


「すごい……」

 思わずそんな声が零れた。

 前生で何度も見たから、精神的には初見ではないけど……。

 物理的には初見な今生の体が、反射的に感動しちゃってた。


 エルザに手を取ってもらいながら、馬車を降りる。


「子供が勉強する場所にしちゃ不釣り合いだな」

 先に外に出てたショコラが見上げていた。


「最初は質素だったけど、教育の結果が認められて寄付も集まりだしてから、段々豪華にしてきたんだって。歴史の先生が言ってた」


 今生でも聞いてるので嘘ではない。前生から知ってたのは知ってたけど。


「へえ~」

 適当な相づちを打ちながら、巨大な学園を見渡すショコラ。


 ショコラのメイド服は最初こそ見慣れなかったけど、今は普通に可愛い。ちなみに顔の傷跡は包帯と絆創膏で隠している。

 尻尾を出すと盛大にスカートがめくれるので、丸めて入れてもらっている。首輪はどうしようもないのでそのままだけど。


 私は似合っていると思うけど、本人はスカートが心地悪いとのこと。


「ではルナリア様、我々は荷物を寮まで運んでおきますので」

 と、イズファンさんが御者席から言ってきた。


 女子寮はエントランス以外男子禁制だから、二人が運んだ後は寮の人が部屋に入れてくれる手筈になっている。


「ありがとうございます。お願いします。テンディエットさんも」

「「いってらっしゃいませ、ルナリア様」」

 息がぴったりな執事二人。

「はい、いってきます」


 男性二人と別れて、女子三人で園門をくぐる。


 園庭もまた広く、気を抜くと一瞬で迷子になりそう。……と前生は思った記憶。

 他の子と、その従者らしき姿がちらほら見える。私と同じ準入学生だろう。


 エルザの持つ準入学案内資料と、各所に立てられている案内板に従って園庭を進んだ。

 ――もちろん学園の構造は全部知ってるけど、知らないフリで。


 しばらく歩くと、『準入学生入学式会場』の看板が立てられた講堂に到着。

 入り口付近に準入学生達が数人見える。


「……やっぱり、うちのお嬢様だけ異質だな」


 ショコラの言いたいことは……、まあ分かる。

 貴族の子は皆、外行きの正装。

 私も()()(ぶん)に漏れず、肩を出した薄桃色のドレス。靴はヒール低め。動きやすさ重視だけど、ちゃんとした正装だ。


 他の子との唯一の違いは、右肩から左脇にかけたベルトと、背中に背負ったガンガルフォン。鞘とベルトをパルアスに作ってもらったのだ。

 まあ、それでも一人じゃ重くて持ち運べないから、補助魔法で支えてるんだけど。


 ショコラの言葉を証明するように、周りの人がチラチラとこちらを窺っている。


「男子なら武器を持ち込んでいる方も珍しくありませんが……、女子で、この大きさですからね」

「そりゃ、二度見くらいされるわな」


 ――以前お父様の言ったとおり、奇異の目は仕方ない。

 ショコラを――首輪をかけた獣人を――連れているのも、そんな視線に拍車をかけているかも。


「別に減るモノでもないし。見たければどうぞ見ていただきましょう」


 受付の職員にも物珍しそうな視線を向けられつつ、身元確認をクリア。講堂の中に案内された。





 講堂の中は半すり鉢状になっていて、全生徒およそ千人を収容できる。

 が、今は中央の列に数人座っている程度。

 前の方に子供達、後ろ方に使用人達と別れている。


 係の人に案内されて、私は前から二列目の席へ。エルザとショコラは五列ほど離れた後ろの使用人席へ、それぞれ座った。


「初めまして。ご入学おめでとうございます」


 ガンガルフォンを外したところで、隣の子に話しかけられた。


 緑色の髪を二つ結びにしているのが印象的。

 ベージュを基調としたドレスは、ネイビーやピンクの差し色が装飾され、シックにまとまっている。


 ――見覚えがある。前生で。

 私を裏切った取り巻きの筆頭だ。真っ先に私に近づいてきて、真っ先に私を告発した。


 もちろん動揺はおくびにも出さず、微笑んで見せる。


「ご丁寧にありがとうございます。えっと……」

「アーレスト侯爵家の次女、ゼルカと申します。お見知りおきを」

「トルスギット公爵家の長女、ルナリアと申します。ゼルカ様もご入学、おめでとうございます」


 右手を差し出した。


「まあ、トルスギット家の! よろしくお願いいたします!」

 ゼルカ様の声がワントーン上がり、淑女同士のゆったりとした握手をし合う。


 ――そうだ。身分を知られただけで態度を変えられるのが、気持ち悪かったんだっけ。

 ゼルカ様だけでなく、取り巻きだった全員とも。

 だから彼女らへの態度は悪かったし、そのせいであっさり裏切られた。


 王太子の婚約者候補に取り入ろうとする人が多いなんて、当たり前なんだけどね。


「大きな剣でございますね」

 私が下ろした剣を見てゼルカ様が言う。


「初めて握ったとき、妙にしっくりきまして……変だと分かっているんですけど」

「確かに珍しいですが……なぜでしょう。ルナリア様にはお似合いだと感じますわ」


 絶対お世辞だと分かっているけれど、「ありがとうございます」と笑顔で返事をしておいた。


「ルナリア様、その……お気を悪くされたら申し訳ありませんが……アルビノでいらっしゃいますか?」

 アルビノとは色素欠乏した生物のことだ。


「ええ、お目汚しであれば申し訳ありません」

「そんなまさか。アルビノは神の使いという伝承もあります。そう卑下されず、神秘的でお美しいです」

「ふふっ、お気遣いありがとうございます。ゼルカ様はとてもお優しい方なのですね」

「いえ、そんな……。普通ですよ」


 すぅ、と小さく息を吸う。

 ――いずれにしても、今生ではきちんと仲良くならないと!

 すべては死刑の未来を避けるために。


「今年の準一年生は1クラスのみですし、同窓生ですね。ぜひとも仲良くしてくださいませ」

 とびきりの笑顔で、そう言った。


「はい! こちらこそ、よろしくお願いします」

 ゼルカ様も満面の笑みで返してくれた。


 年相応の、可愛いらしい笑顔。

 ……まあ、打算は混ざってるのかもしれない。

 でも……


 ――こんな笑顔ができる子に、前生の私は裏切らせたのね。


 次こそは、間違えない。

 ゼルカ様とも、身分を超えた本当の友達になりたいから。


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