表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/119

12歳-1-

 月日が経ち、レナは10歳になった。一応私も12歳になってる。


 10歳になったレナは少し大人の美しさを身に付けつつ、けれどその愛らしさは全く落ちない。むしろさらに可愛くなってきたんじゃ? ってくらい。かわいい。すき。


 私の時と同様、誕生日の翌日から予算を預かり、勉学やダンスの時間も増え。

 王宮魔術師の鑑定を受け、魔法習得の許可を得た。


 ――レナが健やかに、普通の貴族として生きられるなんて、それだけで目頭が熱い。

 回生させてくれた創造神様には、いくら感謝してもし足りない。





 そんなレナの人生初の魔法授業。

 私とセレン先生の授業にレナが混じる形で行うことに。


「レナーラ様、まずはどのような魔法を使ってみたいでしょう?」

 セレン先生が私の時と同じ質問をする。


「治癒魔法を覚えたいです」

 とレナは即答。

「お姉様が治癒魔法に挫折したときから決めてました。お姉様の傷を癒やすのは私だ、って」


 それを聞いて、私は号泣してしまった。

 レナを抱きしめながら、「ありがとう」と。「嬉しい」と。そればっかり言っていたような気がする。


「お姉様、大丈夫ですか? もしかしてあの戦いの後遺症じゃ……?」

 なんて心配されてしまう。


 そういうんじゃない、と訂正。

「ただレナの言葉が嬉しくて、涙が止まらなくなっちゃっただけ」と。


「そういうレベルではなかったかと……」

 セレン先生からツッコまれてしまった。


 ――いやまあ、そう見えるのは仕方ないんだけど……

 でも私からしたら、レナが元気で、笑顔で、私に懐いてくれてるだけで、胸がいっぱい。


 ということを説明して、納得してくれたようだけど……私のシスコン具合に呆れ半分、微笑ましい半分、みたいな顔のセレン先生だった。


 一方、当のレナは嬉しそうに抱きついてきてくれる。


「妹を世界一可愛いと思うのが、姉という生き物なのよ!」

 と過激派思想を説き、ますます微苦笑されるのだった。


「私も、お姉様が世界一好きです!」


 レナがそう言ってくれるから、私は絶対に撤回しない!





 一晩明けて。何を大真面目に言っちゃったんだろう、と若干後悔。

 言った内容自体は本音だけど……。

 前生の記憶のせいで暴走してしまったことは、少し反省だ。



   †



 ある日の昼下がり。勉強や訓練の合間のティータイム。

 いつものようにエルザとフランは退室し、テーブルを挟んで二人でお喋りしてる時だった。



「お姉様。私、今日からお風呂やベッドに一人で入ろうと思います」



 世界が崩れる音がした。

 ……気がするくらいに、我が耳を疑った。


 ――昨夜もショコラが白い目するくらい、二人でいちゃいちゃしてたのに……!?

 知らないうちにレナが嫌がることをやっちゃったんだろうか……。


「……どうして?」

 なるべく平静を装うけど、カップを持つ手が尋常じゃなく震えだす。


「去年のあの日から、ずっと考えてたんです。

 菜の花畑に走るお姉様を見送るしかできなかったし、帰ってきたお姉様の治癒もしてあげられなかった。

 私は、いつもお姉様に甘えてるだけで、本当に何もできない人間だな、って」


 あの日というのは、野盗の襲撃があった日のことだろう。


「私に、お姉様の隣に居続ける資格なんかない。

 本当にお姉様の隣に居続けたいなら、今のままじゃダメだと思うんです。

 でも……お姉様と居ると、甘え癖が抜けなくて。いつまでも時間が止まって欲しいと思っちゃうので。

 だから、私は本当の意味で、『自立』したいんです」


 そこでレナが小さく、儚く微笑んだ。


「7歳の時、お姉様が仰ってくれました。

『兄弟姉妹は、協力して家を盛り立てなきゃいけない』

 でも今の私は、お姉様と協力できる人間ではありません。

 ……協力って、お姉様に何かあったとき助けられる、そんな存在のことだと思うんです。

 ショコラさんとか、エルザさんとか」


「そんなこと……私のために治癒魔法を覚えてくれるんでしょ? それは立派な協力じゃない?」


「はい。それはまず第一歩です。

 ……お姉様の役に立つ人間になるための」


 そう言ったレナがどこか寂しそうに見えたのは、勘違いじゃない……と思いたい。


「それに、お姉様はあと二ヶ月で中央学園に行かれます。今のうちに、一人の夜に慣れておかないといけませんので」


 ――冷静になれ、私。

 心と体が成長して『自立したい』と思うのは当たり前の事で。

 それが私は5歳だったし、レナは10歳だった。

 ……ただ、それだけのこと。


 レナの言うとおり、中央学園に行った後のこともある。


 だから姉として、そんなレナを快く送り出すべきで……

 妹の成長を、喜ぶべきで……

 邪魔なんか、しちゃダメで……


「…………」

「……お姉様?」


「……レナは、偉いね。自分で色々考えて。尊敬する」

「そんな、私なんてお姉様に比べたら全然です!」


「レナには嘘つきたくないから、本心で言うわね」

「はい」



「絶対に嫌。『私から離れるのが成長』だなんて、そんなの認めない」



「……えっ?」


 立ち上がって、レナの方に回り込む。


 ――ここ最近、レナは私の膝の上にあんまり乗らなくなった。

 単に体が大きくなって座りづらくなったからかな? って思ってたけど……。実際、座りづらくなったのもあるかもだけど。

 その本当の理由が、やっと理解できた。


「お姉様……?」


 椅子の背もたれ越しに、レナの首元に両腕を回して軽く抱きつく。

 レナの小ぶりな耳たぶに唇を寄せた。


「これからも学園に行くまで、私と一緒に居て」

 囁く。

「学園に行った後は、毎晩私を思って。

 毎晩寂しくなって。

 私が居ないと安眠できない子になって。

 時々私が帰省したときだけ、ぐっすり眠って」


 ショコラは私の専属だから、学園に連れて行くことになる。そうするとレナは、夜一人きりになる。

 そうなったらレナほどの器量よし、周りが放っておかないだろう。


 寂しさに付け入り、『自立』という聞こえのいい言葉で、変な男をお父様が連れて来るかもしれない。

 そんな未来が来るくらいなら……



 一生私に縛られて生きて欲しい。



「私の隣に居る資格なんて、私がいくらでも発行する。

 成長するなら、私の側ですればいい。

 孤独に慣れるんじゃなくて、孤独を乗り越えて成長すればいい。

 だって……嫌なんだもの。レナが私から離れるなんて、耐えられない」


「…………」


 レナは今は、どんな表情をしているだろう?

 ――ドン引き……されてるかもしれない。 


「……でも、レナがたくさん考えた上での結論なんだもんね。

 いきなり言われても受け入れられないのも分かる。

 だから……私のワガママが嫌なら、振りほどいてくれていいから」


 そうは言ったモノの。

 心臓が、死んじゃうんじゃないかってくらい速くなる。


 ――早まったかな……?

 やっぱり「分かった、じゃあ今日から別々で」って答えるべきだった?


(いや、今からでも遅くない、『なーんちゃって』って……)


「嫌なわけ、無いです」

 レナの声は、どこか涙が混じっていた。

 私の右手にレナの右手が触れる。

「10歳にもなって、一人で寝られない自分が嫌いです。いつまでもお姉様にお守りされてるだけの自分が嫌いです……」


 ゆっくり振り返るレナの両目から涙が溢れていた。


「そんな自分を変えたくて……。お姉様の隣に相応しい人間に、なりたくて……」


「レナ。あのね、ちょっと強い言い方すると……『なんで私に相応しいかレナが決めるの?』だよ?

 私の隣に居て良い人間なんて、私が決める。

 で、レナはなんて言われても離さない」


「……いいんですか? 私、これからも、お姉様と一緒で」

「当たり前よ。レナに嫌がられたって、離さないんだから」

「私だって。もう、離れて、って言われても聞きませんから!」


 レナが振り返って。

 椅子が倒れる音。

 勢い良く、私の胸の中に飛び込んできた。


 その暖かい涙ごと、強く……二度と離さない気持ちで、抱き留める。



   †



 そうして黙ったまま、少しの時間が経った。


(……私、なんかとんでもないこと言わなかった……?)

 少し冷静になって、いまさらながら気付く。


「いつも思いますけど、お姉様、凄いです」

 妙に楽しそうに、レナは少しだけ体を離した。私の背中に手を回しながら。

「自分でも気付かないうちに引っかかってたことを、全部解決してくれちゃうんですもん」


「……解決、したの……?」

「? なんですかその反応?」

「いやだって……レナの考えを、私のワガママで無理矢理ねじ曲げた感が凄いよ……?」


「考えてたつもりでしたけど……でも、『こんなに凄いお姉様の側に居続けたい』が一番の理由ですから。

 言われて、考えが変わりました!

 なんで資格がないと思い込んでたか、今では不思議なくらいです。

 お姉様から離れないまま、お姉様に相応しくなるよう頑張ります!」


 ――まあ、そうやって笑ってくれるなら良いんだけど……。


「その……、本当にいいの? 自立したかったんじゃないの?」


「……冗談だったんですか?」

 レナが頬を膨らませる。かわいい。すき。


「まさか! 本気よ。本気だからこそ……我ながら、姉として最低だな、って」

「そうですかね? 私にとっては、最高のお姉様ですけど」

「もう! かわいい! 最高の妹!」


 また強く、抱きしめる。

 えへへ、とレナの笑う声が耳を打った。


 ――自分で言っておいて、本当にいいのかな、と不安になるけれど……

(なんかレナは幸せそうだから、まあいっか!)


 レナの笑顔に勝る理屈など、この世に存在しないのだ。


「お姉様。あの、私もワガママ言っていいですか?」

「断るわけない、って分かってるでしょ」


「ふふっ。ありがとうございます」

「それで、なあに?」

「その……キス、して欲しいです」

「キス?」


 聞き返すと、僅かに上気して瞳を潤わせるレナ。


「……だめ、ですか?」


 ――本当にもう、分かってるくせに。


「断るわけないってば」


 顔を近付ける。

 レナが目を閉じた。


 私は少し屈んで、レナの横髪を右手でかき分け。

 そして優しく、キスをした。



 柔らかくて暖かい、ほっぺに。



「ふふっ、甘えんぼなんだから」

 口を離して笑う。


 レナは嬉しそう……にはあんまり見えず。なんだか、少し不服そうだった。


「懐かしいわね。私もお母様によくされたわ。それを思い出しちゃったんでしょう?」

「……えっと……」

「…………?」

「…………」


 …………

 ……


「……どうかした?」

 尋ねると、レナはどこか恥ずかしそうに目を伏せた。


「いえ、なにも……」

「そう? 私たちの間で隠し事とかなしだからね?」

「え、ええ、そりゃもう……」

「ならいいんだけど」


「……次は、また心の準備ができた時にします」

「まだ何かして欲しいことあるの? いいよ、いつでも言ってね」


 レナはしばらく、どこか引きつったような顔だったけれど……  その後、『まあ、いっか!』と吹っ切ったように、清々しく笑ってくれた。さすが姉妹。





 それからティータイムが終わるまで、レナは自然に、私の膝の上で過ごしてくれた。かわいい。ほんとだいすき。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

もし「面白い」、「続きを読みたい」などと思っていただけましたら、

↓にある星の評価とブックマークをポチッとしてください。

執筆・更新を続ける力になります。

何卒よろしくお願いいたします。

「もうしてるよ!」なんて方は同じく、いいね、感想、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ