10歳-エピローグ-
ラスボスであるお父様との話し合いの末(想像の100倍怒られた……)、海の向こうからローディ様の後押しもあって、最終的にはショコラが私の専属になることが認められた。
もちろん、みんな――お父様も含めて――驚いたのは言うまでもない。
ので、ショコラに問うと、私やレナと寝るようになった頃から家族と手紙でやりとりしていたと白状。
私やレナ、それにトルスギット家であったことを伝えて。
決戦の結構前から『勝ったらルナリアの専属奴隷になりたい』と書いていたとのこと。
その手紙を読んだローディ様が、お父様に遠隔通話魔法でお願いしてくれたのだ。
気まずそうに……恥ずかしそうに視線を逸らしながら白状するショコラが可愛かった。
そんなことがあってから1週間ほどが経った、今日。
ローディ様が海を越えて、トルスギット家までわざわざいらっしゃる。
「はっはっは! いやあ、ルナリアちゃんに惚れまくりじゃねえかか!」
あらためてショコラから話を聞いたローディ様が、そう豪快に笑いのけた。
2メートル50センチを超える巨体が揺れて、客間を軽い地震が襲う。
「惚れた……まあ、広く言えばそうかもな。
人生は捨てたもんじゃねえ、って気付かされたけど。
その頭に『コイツの隣なら』が付くから、否定できねえや」
――聞いてるこっちが恥ずかしい。
そういうこと真顔で言えるのが、ショコラである。
「……いい顔になったじゃねえか。こっちに送り込む前と大違いだ」
ローディ様は目を細めてショコラを見る。
「自分じゃよく分からねえけど……まあ、良い社会経験になったことは礼を言うぜ」
「かっかっかっ、本当にあのショコラと思えねえ。……変わったんだなあ」
そこで、次にローディ様は私を見た。
席を立ち、不意に膝を付いたと思ったら――
両手を地面に付けて、頭を下げた。
「このたびは、娘が大変お世話になりました。御礼の言、この舌で述べるに足らぬほどでございます。
どうか、貴女の専属奴隷として置いてやってください。そして願わくば、友として、仲良くしていただければと存じます」
「ローディ様!? そんな、お顔をお上げください!」
慌ててローディ様の肩を持ち上げようとする。
が、補助魔法のない私じゃビクともしない。
――補助魔法あっても無理そうだけど。
「……本当に、本当に、ありがとうございます……!」
その声は少しだけ、涙で滲んでいる。
流石にショコラもお父様も驚いていた。
――しばし、なんとも言えない沈黙。
……私が何か言わないと収まらないのだろう。
「……お礼を言うのは、こちらの方です」
私も膝を付いて答える。
宰相という立場にもかかわらず、ここまでしてくれたローディ様。
これ以上謙遜するのは違う、と思った。
……そして、色々考えた結果……
「どうか、娘さんを私にくださいませ」
あらゆる感情や思いを込めて、そう伝えた。
ローディ様がゆっくりと顔を上げる。
そして、わずかに潤んだ目尻を下げ、
「もちろんです。不束者ですが、どうか末永くよろしくお願いします」
なんて言ってくれた。
「ありがとうございます」
私も笑い返して、今度はこちらが礼を返す。
と、そこで頭が、コツン、と叩かれた。
「……なに言ってやがんだ、この野郎」
見上げると、拳を握ったショコラの顔が赤い。
「お前の書いてたとおり、面白い子だな」
ローディ様が笑い、ショコラが照れてる(多分?)中、お父様はどこか表情を作るのに困ってるようだった。
――そんなに変な言葉選びだったかな?
だって、一生奴隷になるって、もらうようなものだし……
その後、客間にレナやエルザもやってくる。
先日届いた新しい奴隷首輪をエルザから受け取った。
ちなみに、契約書は先日交わし終えている。
私を主とした、無期限の奴隷契約書を。
みんなが見守る中、まずショコラの首輪を外す。
私は初めて、ショコラのまっさらな首を見た。
「……ごめんね。こんな物が無くても堂々と居られる国になれば良いんだけど」
「そうかね? 昔は見た目で迫害されてたから、それから守る目印として首輪が発明された……、って教えてくれたのはアンタだろ」
「まあ、歴史の教科書にはそう書いてあるけど」
「他の奴隷はどうか知らねえが、無駄なトラブルも減らせて、アンタとの関係も示せるなら、便利なもんだと思うけどな」
「そう言ってくれると気も楽になるよ」
言いながら、パチン、と新しい首輪の留め具を外す。
そして正面からショコラの首に首輪を掛け、カチッ、とロックした。
と、そこで拍手をしたのは、レナだ。
次にエルザやフランも同様に。
段々と、拍手が伝播していく。
――お父様だけはやっぱり微妙な表情で、おざなりな拍手だったけど。
「……これで、俺はアンタのモノか」
首輪を触りながらショコラが呟く。
「さっきローディ様に言ったのは言葉の綾よ。別に『私のモノ』だなんて思ってないわ」
「そりゃ無責任すぎねえか?」
「? どういうこと?」
「……本気で気付いてねえのか……。将来とんでもねえ悪女になりそうだな」
「???」
「いやあ、娘を手放すってのは、こういう気持ちなんだな……ポルトー」
ローディ様が隣のお父様に言う。ポルトーはお父様の名前だ。
「……お前は一度手放しただろ」
お父様が横目で言う。
「9ヶ月前は戻ってくる前提だったからよ。……まさか、こんな早く嫁いでいくとはな」
「……でけー声でうるせえぞ、外野」
「ふふ、ローディ様の喩え独特ね。嫁ぐだなんて……」
「あー……、まあ、いいや。そういうことにしとくわ」
――なんか、さっきから空気が妙だ。
やっぱり、私なんかマズいこと言っちゃったのかな……?
『娘さんをください』
男性が女性を娶る時、女性側の両親に言う言葉だと知ったのは、それから数年後の話である。
――いやだって、普通の結婚とか知らないんだもん! しょうがないじゃん!
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