表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/119

14歳-8-

 結論から言うと、果物を取った意味はほぼなかった。

 

 なにせ少し歩けば、なにかしらの木の実や果物がそこかしこに成っている。天然でここまで見事な栽培環境が整うなんて奇跡だろう。

 

 水場も多く、動物も魚もちらほら居るし、鳥だって飛んでる。その気になればタンパク質だって事欠かない。調理の問題はあるけど。

 水や食料が豊富なのは、先の見えない私達にとっては良いことだ。

 

 が、それ以上の問題がある。

 こちらを襲ってくるモンスターの多さだ。

 

 日差しがオレンジ色になるまで歩いて、戦闘回数を覚えてられないほどの会敵。

 その都度殿下には護法剣の中で待機いただいている。

 

 授業や本では見たことも聞いたこともないモンスターばっかりで、大小様々。

 アナライズがなかったら……そして弱点属性を突ける魔法剣の才能がなかったら、絶対にここまで進めなかっただろう。

 

 人型の上半身と花の下半身をしたモンスター、意思を持ち柔軟に変形するツタのモンスター、全長五メートルは超える鷹か鷲みたいなモンスター、空を駆ける馬みたいなモンスター、怒ると炎を纏う猪みたいなモンスター……

 

 動植物系だけかと思いきや、毛が生えていない猿みたいな小型のモンスター、牛っぽい頭を持った小巨人(ギガース)のようなモンスター、ガーゴイルに似ているけど腕が三本あるモンスターなど、二足歩行系も存在してた。

 

 一メートルくらいある大量の蜂のモンスター相手には、強さより生理的嫌悪感で苦戦した。

 ……とりあえず虫系のモンスターは、ここのダンジョンのみならず一生戦いたくないくらいには軽くトラウマだ。




   †



 そうして、もうすぐ日が沈む頃。

 人間大で二足歩行系のトカゲみたいなモンスター群、その最後の一匹を斬り裂いた。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ……」

 ……上がった息が戻らない。

 全身の魔力神経が悲鳴のような痛みを訴えてくる。

 

 とにかく、ここのモンスターが強い。一撃一撃に神経がすり減る。

 戦闘時間だけでいえば毎日の訓練の二倍程度なのに……体感の疲労度は、二倍どころじゃない。

 あらためて、本当の命をかけた実戦経験の少なさを思い知った。

 

「……大丈夫か?」

 護法剣を解くや否や、殿下が私の肩に触れる。

「ここ、切れているな。手当て……しようにも、する物がないんだが……」

 

「だい、じょうぶです……。かすり傷、です」

「今日は、どこかで休もう。そろそろ日も暮れる」

「……はい……」

 

 少し前に、丁度良さそうな洞穴を見つけている。

 二人でそこに戻り、入り口に大きな護法剣を突き立てた。

 

 ……そこで、膝から力が抜けてしまう。

 

「ルナリア!?」

 慌てたように殿下が近づく。

 

「だ、大丈夫です。ちょっと、ふらついただけで……」

「それは大丈夫とは言わんよ。少し横になるといい。が、岩の上に直接寝るのもなんだな」

 

 殿下はロングコートを脱いで、私の下に敷く。

 

「殿下、コート……汚れて、しまいます」

「気にする必要ない。まだ固いだろうが……」

「いえ、ありがとう、ございます……」

「……そんなの、こちらこそだ。喋らなくて良いから、ゆっくり休んでくれ」

 

 朦朧としているのかまどろんでいるのか、良く分からない時間がしばらく続いて……

 気を失ったのか眠ったのか、良く分からないまま意識を失った。



   †



 翌日は、朝からとにかく戦闘続きで。

 他のモンスター達から情報共有でもあったのか、昨日を遙かに超える頻度でモンスターが襲いかかってきた。

 

 まだ空が暗いうちから、入り口の護法剣をノック……というには激しすぎるノックで叩き起こされ、撃退。

 

 二人で寝不足の目をこすって進もうものなら、三歩と待たずに別のモンスター。

 

 太陽が真上に来る頃まで、ほとんど休む間もなく剣を振り続けることになった。

 

 お昼になったら少しマシになって、私達はやっと歩みを進められる。

 

 殿下は私を心配して休憩を提案するけれど、留まっていたら休憩が休憩になるか怪しい。

 歩いている方が精神的にも良いので、と強行することにした。

 

 太陽の位置が少し傾いた頃、鳥型のモンスターの襲撃を皮切りに、再び怒濤の襲撃が始まる。……まるで昼休みでもしていたかのように。

 

 ――このペースでは、いつまで経っても出入り口には着けない……

 

 かといって、殿下の護法剣を解く隙なんかあるわけない。

 そんな焦燥感に駆られつつ、合間に適当にもぎ取った果物で補給をしながら、剣を振るい続ける。

 

 二度目のラッシュが終わったのは、空がオレンジになる頃。

 今のうちに、と私は少し焦る気持ちで、渋る殿下の手を引いて前へ進む。

 

 ――息が、苦しい。

 ――脚が、体が、重い。

 

 生まれてこの方、こんなに長い時間戦ったこと無かった。

 昨日は精神の方がきつかったけれど……

 今日は単純に、肉体と魔力神経の方が厳しい。いくら補助魔法があっても、動いてるのは結局私の体だ。

 

 ――そういう意味では、心の方はもう適応できた気もする。

 命のやりとりも、これだけ強行軍させられれば慣れるというものだ。

 

 ズキズキと痛む魔力神経に、負荷を見るためアナライズをしようとして……やめた。見たって良いことはなさそうだし、あんまり意味もない。

 

「ルナリア、これ以上は危険だ。暗くなるし、なにより君が……」

 と、そこで殿下が強い口調で言ってきた。

 

「……私は、大丈夫です。それより、今日は全然進めなかったんですから。殿下が大丈夫そうなら、進んでおかないと……」

「私は見てるだけだしなんともない。だが、君が倒れでもしたら全滅してしまう。なんなら、明日は丸一日休んでも……」

「……安心して休める場所があるなら、それでもいいですが……曲がりなりにもここはダンジョン。そんな場所、あるとは思えません……」

「……それは、そう、なんだが……」

「大丈夫です、殿下」

 

 私は努めて、笑って見せた。上手く笑えたかは自信がない。

 

「殿下は必ず、私が地上に帰します。信じて、ください」

「……ルナリア……」

 

 笑顔の自信がないから、私はすぐに殿下から目を逸らして、また前に向き直ってしまう。

 

 ――本当だったら、今日から私達は新しい人生が始まっていたのだ。

 こんなところで……前生と僅か数日違いで……死んでなんて、いられないんだから。





 その夜。見つけた大きな木の根元で寄り添い、殿下のコートを二人の掛け布団代わりにして眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ