精獣
「我が国は商業が盛んで豊かではあるが、資源に乏しい。それは、お前もよく知っているじゃろう。
…我が国と長らく中立を保っている隣国のディーク王国は、我が国と比べて小規模だが、豊富な資源を有しておる。それを利用したいと、我が国はずっと目を光らせておった。密偵も送っておる。
…ようやく、狙っていた機会が訪れたのじゃ」
父王の目が興奮気味に光る。
「…今なら、ディーク王国を我が国の属国にし、その資源を手に入れることも可能じゃろう」
…戦の可能性があるということか。
私は口を引き結んだ。
「確かに今、我が国はディーク王国とは友好関係にはなく、中立的な立ち位置にありますが、外交手段を駆使して、必要な資源を融通するための条約を結ぶことも可能でしょう。
…開戦となれば、相手国だけでなく、我が国の民にも大きな被害が出かねません。慎重なご判断が必要かと」
父王は少しだけ口角を上げた。
「まあ、お前には事情を説明していなかったから、慎重になるのも無理はない。
ディーク王国は、自然も豊かで資源は豊富じゃが、険しい地形で魔物も多く、精霊への畏敬の念も強い。
そなたは、精獣という存在を知っておるか?」
「言い伝え上の存在としては知っていますが…。実際に存在するのですか?」
精霊の化身と言われる、精獣。獣の姿を取るが、精霊の力を有するため魔力が非常に高く、自然界のバランスを取る役割を果たすと言われる。
「そう考えられる。
ディーク王国が、過度な開発をせず、手付かずの自然を一定程度残しているのも、精獣に配慮しているためと考えられておる。
じゃが。精獣は、100年程で寿命を迎え、代替わりするようじゃ。
…代替わりしたばかりのタイミングでは、精獣の魔力が不安定になり、魔物にも、人間にも、牽制が行き届かなくなるようなのじゃ。
…その、代替わりが起こったと見られる兆候が、ディーク王国に現れた。
魔物が凶暴化し、少数だが精鋭揃いとの呼び声の高い魔術師団や騎士団も、その力を摩耗しているようじゃ。
攻めるなら今。そして、ディーク王国に任せていれば、生態系に配慮して手を出さないだろう資源を手にするためにも、またとないチャンスなのじゃ」
「…」
しばらく私は言葉を失った。
「精獣が実在の存在なら、それはどのような獣の姿をしているのでしょう?」
ふむ、と父は言葉を濁す。
「それはわからぬ。
…代替わりの度に、精霊の化身となる獣の姿も、宿る精霊の種類も変わるようなのじゃ」
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