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告白2

部屋に入るなり、リオンに目を向ける。

彼は、目が零れ落ちるのではないかという程見開いて、こちらを見ていた。

その様子に、思わず小首を傾げる。


何故彼はそんなに驚いたような顔をしているのだろう。『ルティナ』と『ルディ』が同一人物だとわかっているのだから、戸惑うことこそすれ、そこまで驚く必要はないと思うのだが……。

不思議に思うも、次にリオンが口にした言葉で何となく理由がわかった。


「ル、ティナ?その髪……ブロンド?琥珀色じゃなく?……えっ、えっ?ちょっと待ってくれ、今整理するから……」


リオンは私を制止させるようにこちらに左の手のひらを向け、顔を逸らす。それから何かを思案するように視線を一か所に留めて、そのまま暫く動きを止めた。


やがて、「悪い、もう大丈夫だ」と口にしながらこちらに顔を戻したリオン。しかし、まだ正常とまではいかないようで、視線があちこちを彷徨っている。……大丈夫かしら?


とりあえずもう動いてもいいようなので彼の側まで行き、口を開く。


「隣に座っても?」


最初はテーブルを挟んで向かいに座ろうと思ったのだが、そのテーブルがどうしても障害のように思えてならなかった。

先程のように、いざという時に彼を引き止めることができないのが不安で仕方ないのかもしれない。

それゆえ彼の隣に座ることを思い立ち、そう彼に尋ねてみたのだ。


テーブルセットには一人がけ用のソファが四脚あり、テーブルを挟んで二脚ずつ置かれてある。そのためリオンの隣に座っても何ら問題はない。

もし問題があるとすればリオンが挙動不審だということだけだ。

その彼はというと、「あ、ああ」とどもりながら首を縦に小刻みに振っていた。


「ありがとう。それじゃ失礼するわね」


リオンから許可を得たので、ソファをやや彼の方に向けて座る。リオンもこちらに体を向けてくれた。

そうして会話をする体制が整ったところで、覚悟を決めて話を切り出す。


「……さて、まずはあなたが一番気になっていることから話をするわね」


リオンの目を見据えてそう言えば、彼はいつの間にか落ち着きを取り戻していたようで、真剣な表情を湛えて一つ頷いた。

それを見て私もこくりと頷く。


「私の名は、マルティナ・レラ・レーネ。ルディとかルティナとかいろいろ名乗っていたけれど、本当の名前はマルティナよ。今まで黙っていてごめんなさい」


座ったまま深く頭を下げる。

直後、息を吸い込むようなひゅっという音が微かにした。


「マル、ティナ……? もしかしてその髪色はブロンド……じゃなくてプラチナブロンド!?ああ、確かに室内じゃわかりにくいがプラチナだ。な、なら、聖騎士団が捜していた令嬢というのは……」

「私よ。でも、私は見つかるわけにはいかなかったの」

「それってどういう……。と、とりあえず頭を上げてくれ、ルティナ……あ、いや、マ……レーネ嬢」


先程からリオンの声が困惑の色を帯びたままだ。相当混乱しているとみえる。


「ルティナでいいわ。あなたに本名で呼ばれるのは、なんだか他人行儀みたいで嫌よ。敬語もいらないわ。今までみたいに接してもらえると嬉しい。差し障りがないのならルディの時のような対応でも私は一向に構わないのだけれど」


そう言いながら顔を上げると、ほとほと困り果てたというような表情のリオンと目が合った。

だが、それはすぐに何かを決意したかのような力強さを孕んだものに変わる。


「わかった。君……いや、お前がそう望むのなら」

「ありがとう、嬉しいわ」

「っ!」


リオンの言葉に笑みが零れる。

すると、こちらを向いていたリオンの顔が一瞬にして逸らされた。

ん?心なしか彼の耳が赤いような……?


「そ、それよりも、さっきの話は一体どういう意味なんだ?」


リオンが勢いよくこちらに顔を戻したかと思うと、再びどもりながら尋ねてきた。その挙動は些か怪しいものの、さらりと流して答える。


「ああ、そうね。順を追って話すわね」


そうして私は、現在に至るまでの話を一から十までリオンにした。




やがて私の長い話が終わると、リオンが無言のままふぅ、と深くため息を吐いた。それから彼は噤んでいた口をゆっくりと開く。


「そういうことか……。だから誰にも告げることができなかったんだな」

「ええ。ごめんなさい」

「仕方ないさ。だが、やっぱり俺にだけは言ってもらいたかった……ああ、いや、それすら難しかったのはわかるが……」


そう言ってリオンが百面相をする。

その姿を目にしながら、彼の言うようにできたならどれだけよかったかと内心苦笑した。

尤も、早々に言ったら言ったでまた別の問題が浮上していただろうが。


「それにしても愚かだな、あの王子。お前の本当の姿を隠して『月の妖精』に貶めた。それだけだって酷い話なのに、貶めたままその過ちに気付くことなく今日まできたとは、ほんと愚かだよ。だが、そのおかげで俺がここにいられるのだからあの王子には感謝しかないがな」

「おろ……リディ、ここは聖騎士団本部よ?王城よ?誰が聞いているかわからないわ」


リオンの突然の不敬発言に驚きつつも、即座に窘める言葉を紡ぐ。


一般的に騎士は国(王家)に忠誠を誓うものとされているので、彼の発言は非常に具合が悪い。

けれどリオンは『そんなものどこ吹く風だ』と言わんばかりの涼しい顔をしてさらりと話を続ける。


「構いはしないさ。俺はちゃんと国と国王陛下に忠誠を誓っている。それに、ここは滅多に人が来ないから誰かに聞かれる心配もない」

「そういう問題じゃないわ。次代に対して不敬だと言っているの」

「ああ、そうだな。わかっていて言っている。だが、事実だ。だってお前が『月の妖精』のわけないだろ?どう見たってお前は『月の女神』だ。華やかで美しい。だというのに、むこうは長年一緒にいてもその美しさの片鱗にさえ気付けていない。これはもうそう(・・)言われても仕方がないと思わないか?」

「……え?」


リオンが真顔で言ってのけたので一瞬何を言っているのか理解できなかったが、直後に彼がふっと微笑んだため、それが私への褒め言葉も兼ねたものだと気付いた。

途端に嬉しさが込み上げ、思わず笑みが零れる。

どうしよう、注意しなくてはと思うのに、にまにまが止まらない。心臓もうるさいくらいに鳴り響いている。


……ああ、いけない。動揺しているわ。落ち着かなきゃ……。まずは止まっている息をゆっくり吐きだすことから……。


そうしてなんとか心を落ち着け、リオンにそっと手を伸ば……そうとして、ふと思いとどまった。婚約者でもないのに軽々しく異性に触れることは淑女としてあるまじき行為だからだ。

まあ、既に手遅れかもしれないけれども、体裁は繕っておくに限る。

こんな時でも冷静に判断できる自分が少し恨めしいが、多少は落ち着いてきた証拠かもしれない。


そんなことを考えながら、先程とは違う柔らかな笑みを浮かべる彼の目を無言で見つめる。

するとそれに気付いたらしいリオンが「どうした?」と尋ねてきた。よって、即座に頭を左右に振って何でもないのだと伝える。

何かが言いたいとか思うところがあるとかそんなものではなくて、今はただ彼の目を見つめていたい。それだけだ。


とは言え、その思いを口にしたわけではないので、私の望みがリオンに伝わるべくもない。

それでも彼は、恥ずかしそうにしながらも私を見つめ返してくれた。そのきらりと輝く(ぎょく)が私の心を更に惹きつける。


ああ、本当に美しい、黄水晶(シトリン)のような黄色い瞳。虹彩は更に濃く、さながらイエローダイアモンドのよう。

まるで陽だまりにいるかのような、陽光に包まれているかのような、そんな温かくて優しくて……とにかく、とても大好きな色。


いよいよ彼への想いが湧き上がり、早鐘のように鼓動が高まる。

そして気付いた時には、口からぽろりと本音が漏れていた。


「ふふ、『月は太陽に恋い焦がれる』とはよく言ったものよね。本当にそう思うわ。だってその燃えるような赤い髪も、陽だまりにいるかのような温かい瞳も、月が恋い焦がれてやまない太陽のようで眩、し……っ!?」


――は?


今、私、何を言った!?全然落ち着いていなかったし動揺しまくりではないか。

羞恥でかぁっ、と顔が火照るのが嫌でもわかる。おそらく耳まで真っ赤になっているだろう。


その気恥ずかしさから慌てて目を逸らすも、さりとて反応は気になるというもの。

恐る恐る視線を戻してリオンの様子を窺えば、彼はこれでもかというくらい目を見開いてこちらを見ていた。きっとその瞳には狼狽えている私が映っていることだろう。


……ああやってしまった。


あまりの居たたまれなさに、両手で頬を覆いながら顔を背けて目を閉じる。

もうどうしたらよいのかわからない。だってリオンは何も言ってくれないし、私だって何を言ったらよいのかわからないのだもの。


「く……」


――!?


私の動揺をよそにくぐもった笑い声が耳に届く。

ああもう、思う存分笑うといいわ。きっと意地悪な顔をして私をからかうつもりであろうことは容易に想像できるもの。


「くっくく……そうか、そうか。月は太陽に恋い焦がれているんだな?」

「そ、そうよ!悪い!?」


確認なんてしないでほしい。つい、ぽろっと告白紛いなことを言ってしまった自覚はあるのだ。

その所為で現在どこかに隠れてしまいたい気分だが、生憎と私は彼に全て(・・)を告げると決めている。それまでは、たとえ馬鹿にされたとしても、ここを離れるつもりは絶対にない。


……からかいたければからかえばいいわ。必死に耐えてみせるから!


そう意気込み、顔を上げてきっと睨むように彼を見る。だが――


「あー、いや?実は太陽も月に激しく恋い焦がれている」

「…………へ?」


リオンから発せられた言葉は、私の予想とは違うものだった。

そのため、気付けばぽかんと口を開けて間の抜けた声を発していた。『え』が『へ』になってしまったけれど不可抗力だ。だってからかわれると思ったのだもの。


それよりもリオンはなんて言った?

考え込むように(うつむ)き、視線を左下に落とす。テーブルを見ながら彼の言葉を反芻し、やがてその意味に気付くと再び混乱が私を襲った。


……え、自意識過剰じゃなければ今の言葉って……うそ?本当に?


ばっと勢いよく顔を上げてリオンを見る。すると、彼がにっと笑った。


……あ、本当なんだ。


そう思った瞬間、やにわに顔が火照り全身までもが熱を帯びて、熱くて熱くて堪らなくなった。

何か言おうと思うのにうまく言葉にできない。魚が酸素を取り込むように、ただぱくぱくと口を動かすだけ。それがもどかしくてじわりと目に涙が浮かんでくる。


「月と太陽は互いに焦がれるものなんだろう?」

「……惹かれ合うものよ」


声が掠れたうえに上ずってしまい、羞恥で更に顔が熱くなる。

でもリオンはそれを気にするふうでもなく、私の頬に片手を添えて嬉しそうに目を細めた。

それを見てどきりとする。


あぁ、どうしよう。狂おしいくらいに彼が好き。

辛うじて目に留まっていた涙が一つ零れたけれど、それを無視して心のままに微笑む。


リオンはそんな私の頬に手を添えたまま、親指の腹で頬に伝う涙をそっと拭ってくれた。その手つきは壊れ物を扱うかの如くにとても優しい。

それが少しこそばゆくて恥ずかしげに微笑むと、彼がすっと顔を近づけてきた。

そして――

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