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公爵令嬢と聖騎士団1

翌日。私は案内係である見習い騎士に連れられて、湾曲する廊下を歩いていた。

この湾曲した廊下は円状になっており、突き当たることもないため、歩いていれば必ず元の場所に戻って来られるようになっている。

加えて、どの階も同じような造りなので、一度来ただけでは構造を把握できずに大抵の者は迷子になってしまう。新人泣かせと言われる所以だ。



軍本部は、城の一部である東の大塔を何度も増改築し、かなりの大きさを誇る建物となっている。

城の一部ということもあって無骨ではなく、かと言って華美過ぎるというわけでもない。雄大で且つ気品溢れた外観である。

また、内装も城と変わらないので、初めて訪れた他国の為政者たちは、ここがグレンディア国軍の中枢だとはまず気付かない。


塔は東西南北と中央の五つの区画に分かれていて、南から時計回りに近衛騎士団、聖騎士団、傭兵師団、魔法師団、といったように各団に一つずつ区画が割り当てられている。

残った中央区画は内務担当の役人が働くところだ。

四階には会議室があり、どの区画からでも行けるようになっている。仕事の効率化を考えれば自然とそうなるのだろう。


中央以外の各区画の一階には訓練場があり、そこではそれぞれの団が別々に訓練できるようになっている。特に東の訓練場は壁が頑丈になっていて、結界魔法が幾重にも張り巡らされているらしい。魔法師団ならではの訓練場だ。

昨日団長から、魔法が使いたいのならそこで魔術師と一緒に訓練するといい、とのお言葉をもらった。但し爆撃魔法はやめてくれ、とも。ほかの魔法なら放っても構わないみたい。

ただ、リオンだけはその話の最中ずっと渋い顔をしていた。その後内務のお手伝いをしていた時に、命が惜しくば魔法師団の区画には行くな、と言われたのである。

何で命の話になるのかさっぱりわからなかったけれど、リオンは確信をもって言っていたのでやはり何かあるのだろう。お兄様に見つかる可能性もあるし、命は惜しいので魔法師団には極力行かないことにする。




さて、ここで働くに当たって、グレンディア国軍について知っていることを簡単におさらいしてみよう。

グレンディア国の軍は大きく四つの団に別れており、それぞれに役割が与えられている。


まずは王家を守る騎士。近衛と呼ばれる者たちだ。

正式名称は『近衛騎士団(ケーニヒリッター)』で、近衛騎士団の長を『近衛長』そして次位を『近衛副長』と呼んでいる。

師団は存在せず、第一から第三の三つの部隊に分かれているだけだ。

彼らはその名の通り王族しか守らない。戦争になっても遠征する必要はないのである。


次に、国や民を守る騎士。一般的に騎士と称される者たち。

正式名称は『聖騎士団(ハイリヒリッター)』で、聖騎士団の長を『団長』次位を『副団長』と呼ぶ。

全部で十三の師団に分かれており、第一から第十一までの各師団は更に三つの部隊に細分される。なお、第十二師団と第十三師団は少し特殊なのでその限りではない。

王都の警邏から、国境やダンジョンの警備など、その任務は多岐にわたる。


そして魔法を放つ者。国に忠誠を誓った魔術師たちのことだ。

正式名称は『魔法師団(ツァオベラー)』で、魔法師団の長を『師団長』と呼び、次位は『副師団長』と呼んでいる。

魔法師団は五つの師団に分かれており、第四師団までは先に同じく三つの部隊に分かれているが、第五師団は戦闘しないので部隊は存在しない。

因みに、第四師団は先日出会ったヴェローニカが纏める魔法騎士隊で、第五師団はお兄様が所属する魔術研究・開発部門だ。第四と第五は師団区分とされているものの師団とは呼ばれておらず、それぞれ『魔法騎士隊』『魔術機関』と呼ばれている。


最後に、国に雇われた傭兵たち。

正式名称は『傭兵師団(ゼルトナー)』だ。傭兵師団の長を『傭兵長』と呼び、次位を『副兵長』と呼ぶ。

第一から第五の師団に分かれており、部隊は存在しない。

彼らは基本自由だ。戦争の際には臨機応変に行動して武勲をあげてもらうのみ。


そして、各団の上には将軍と呼ばれる統率役が存在している。将軍は各団を指揮するのが務めだ。とは言え、将軍からの指示が絶対に必要というわけでもない。

いざという時は各団のトップと、状況次第では次位が己の采配を揮っても良いとされている。そうでないと被害が拡大してしまう場合もあるからだ。

言ってしまえば『臨機応変に対応を』ということである。そのため今回のグランデダンジョンの件では一概にリオンが悪いとも言い切れないのだ。

ただ、彼が上の命令に背いたのは事実である。そしてそれに対する処罰は既に科せられたため、これ以上は誰もとやかく言うことはできない。




見習い騎士の「着きました」との声で我に返る。そこは、一階にある聖騎士団の訓練場だった。

中に入ると既に騎士たちが整列しており、見覚えのある顔がそこかしこに見受けられた。

騎士たちは私の姿を見るなりどよめきだす。どうやら何も知らされていなかったようだ。


リオンに手招きされて彼の隣に立つ。今日のリオンは昨日とは打って変わって簡素な制服である。

昨日は夜に慰労だか祝賀だか、とにかく即席のパーティーが催されたらしい。そこに陛下と殿下が参加するとお達しがあったため正装になったのだそうだ。

リオンが『お前も来るか?』と気を遣って言ってくれたのだけれど、首をぶんぶんと振って断った。この姿を陛下や殿下に見破られたら今度こそ逃げ切れないだろう。やはりここで働くのは軽率だったかしら……。


「皆聞いてくれ!彼は一昨日のグランデダンジョンで魔法支援をしてくれていた冒険者のルディだ。今日から俺の補佐に回ってくれることになった。よくしてやってくれ」

『はい!』


リオンの声に威勢の良い返事が返される。

そう、私は臨時の事務員として今日からここで働くのだ。

それが決まったのが昨日の午前中のこと。

午後になって、ギルドに顔を出していなかったのを思い出した私は、すぐさまリオンの許可をもらい、急いで任務完了の手続きをしにギルドへ行った。

手続きは拍子抜けする程あっさりと終わり、その帰りに今後必要な物を買い揃えることができたので、発端はどうであれ結果的に満足している。


今回城に滞在するにあたり生活必需品をどうするかが悩みの種だった。いくら同性とは言え、ここのメイドに女性ものの下着を頼むことなどできるはずもなく困っていたのだ。

メイドに頼むということは『私は女性です』と告白するようなもの。何よりメイドからリオンたちに話がいって、それが殿下の耳に届くことだってあり得る。それだけは絶対に避けたかった。

幸い、月に数回休みがあるらしいので、それを利用して自分で買いに行くことになるだろう。こんな時は何も知らないお嬢様でなくてよかったと思う。いや、普通はそうあるべきなのだが。


「副団長。彼は我々より年下に見えるんですけど一体幾つなんですか?」

「十五だ。当然お前たちより年下だ」

「成人もまだなんですか!?それであの強さ……。さすが英雄だ」


驚愕している彼らに、本当は成人しているなどと言えるわけもなく、ここは黙っておくことにした。

この国の成年年齢は十六歳である。私が殿下の正式な婚約者になったのもその時だ。

尤も、婚約は白紙に戻ったのだけれど。


まあ、それはもう終わった話なので正直どうでもいい。それよりも先程の最後の言葉だ。

英雄とはリオンを指す言葉のはず。どうして私に言うのだろうか。

首を捻るけれどさっぱりわからず、気付いたら眉間に皺が寄っていた。

そんな私に気付いたのだろう。リオンが困った子を見るような目で私を見る。


「お前な、気付いていないようだが今回の真の英雄はお前だからな?」

「は?なんで?」

「そりゃそうだろう。魔物の大半はお前が倒したんだぞ。俺はお前をダンジョンに連れて行ったに過ぎない。お前がいなければ死んでいた者だっているんだから当然の結果だろう」

「えぇ……。僕はただ魔物を倒しただけなのに」

「諦めろ。それより上の連中がお前を表彰したがっていたぞ?俺が止めておいたが時間の問題かもな」

「うぇっ」


リオンの言葉に自分でも驚くくらい変な声が出た。表情も相当酷いらしく、リオンに「苦虫を噛み潰したような表情だな」と突っ込まれてしまった。

公爵令嬢としては些か問題のある言動である。でも今だけは大目に見てほしい。

だって私は心の底から軍上層部と関わりたくないのだ。


リオンの言う『上の連中』が誰のことなのか見当はついている。

彼らは軍の第一線を退いた人たちで、元近衛長とか元副団長などの厄介な肩書と発言力を持つ。そのため彼らとは、殿下の婚約者として嫌々ながらも何度か会っているのである。


その彼らに会う。それはつまり、ルディが公爵令嬢(マルティナ)だと彼らに気付かれる蓋然(がいぜん)性が高くなる、ということである。

彼らは本当に恐ろしく、ルディの正体を知られたが最後、あっという間に周りを囲まれて逃げることも叶わないだろう。

リオンが先手を打ってくれたことに今はただ感謝するばかりである。

ただ、リオンの制止がどこまでもつかはわからない。彼が抑えてくれている間に会わずに済む方法を考えなくては。さて、どうしたものか。


「そんなに嫌なのか?」

「当然」

「なら、褒賞を『自分に関わるな』にすればいいんじゃないか?」

「リオン!!」

「な、なんだ?」


リオンの言葉に衝撃が走る。

確かに彼の言う通り褒賞を『自分に関わるな』にすれば、そしてその褒賞を予めリオンか団長に伝えてもらえれば、私はこの先ずっと軍の重鎮たちに会わずに済む。上手くいくか不安は残るが、やってみる価値はあるはずだ。

リオンのおかげで一条の光が射しこむ。

興奮のあまりつい声が大きくなり、リオンがそれに驚いてどもった。

そんな彼を無視して話を続ける。


「それだよっ!君って頭いいよね!」

「お前それ褒めてないだろう?」


それは誤解だ。私ではそんな大胆な考えは浮かばなかっただろう。心から賞賛しているのだと彼に伝える。


「そんなことないよ、思い切り褒めてる!だから上にそのこと伝えてね!」

「くそっ!素直に喜べねぇな!」


あ、言い方間違った。リオンが拗ねている。

彼の前だとつい気が緩んでしまって……ってそんなこと言っている場合ではない。とりあえずフォローしなくては。


「あの、リオ……」


『申し訳ありません、遅れました!』

「構わない。所用を言い渡したのはこっちだ」


私の声を遮って、入り口の辺りから若い女性の謝する声がした。

皆が一斉に声の主に視線を向ける中、団長は表情一つ変えず、振り返りながら女性に返事をする。

私も彼らにつられるようにその声の主に向き直り、そして固まった。

団長の影の薄さ……。

団長に触れると話が脱線してしまいそうだったので、割愛させていただきました。団長はずっとリオンたちと一緒にいます。


それと、リオンは良心が痛んだため、結局ルディを師団長に売ることはやめました。その後は陰ながらルディを師団長の魔の手から守っています。

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