052教団本部へ
(52)教団本部へ
二階堂さんは死んだ。立花も死んだ。周平、凛太郎、蛇川も、自業自得とはいえ、やはり死んだ。もっといえば、加賀谷浩輔も夏原寛治も新郷武も、ある意味曲玉の犠牲者だ。曲玉に関わった人間たちが次々に死んでいく。
別の生き方があったかもしれないのに。別の幸せが待っていたかもしれないのに。
「やはり教団ナイトフォールは壊滅せにゃならん」
新郷のおっさんが決意を表明した。両目が炎を宿している。
「俺ひとりでこれから教団の萩市本部へ乗り込む。なに、『波紋声音』と『つぶて氷』のふたつがあれば、蛇川を使っていた幹部連中ぐらいは叩きのめせるだろうよ」
俺は当然のように手を挙げた。
「俺も行くぜ、おっさん」
新郷は「駄目だ」と首を振った。俺は反駁する。
「最後までやり抜きたいから連れてってくれよ。だいたい前に『爆裂疾風』の力を借りたいっていってたのはあんたじゃねえか」
「前とは状況が違う。とりあえずこっちには『爆裂疾風』『波紋声音』『つぶて氷』の3本がある。向こうには『水流円刃』『刺突岩盤』『放射火炎』『飛翔雷撃』の4本と、龍覇が持つ謎の最後の1本がある」
おっさんは煙草を吹かした。紫煙を宙にくゆらせる。
「しかし、この中で圧倒的に優れているのは『波紋声音』だろう。使い方さえ間違えなければ、どんな八尾刀にも負けはしない。何しろ相手が能力を発動する前に唱えれば、麻痺させて楽々と倒すことができるんだからな。それが今俺たちの側にある以上、『爆裂疾風』がなくても十分戦えるんだ」
そりゃそうだけどよ。俺はなおも言いつのった。
「俺は家族や友人が心配なんだ。おっさんの探偵事務所で曲玉を発見できなかった郡川と山城は、かつて凛太郎と周平が向井渚先輩をさらったように、俺の大切な人たちを人質にするかもしれない。俺としては、連中が二度とそんな気を起こさないように、十分に半殺しにしておく必要があるんだ。それに俺が『爆裂疾風』の支配者である限り、ナイトフォールは常に俺の命を狙ってくるんだぜ。そのことも考えてくれよな」
新郷はしぶしぶこの言の確かさを認めた。
「……しょうがないな。分かった、ついてこい」
「よっしゃ、そうこなくっちゃ!」
俺は新郷とともに隠れ家を出た。服は私立探偵の替え着を借りた――ぶかぶかだったけど。唯は曲玉とともに待っているとのことだ。
出発寸前にふたりは何ごとか打ち合わせをしていたが、俺が催促するとおっさんは運転席に乗った。
「じゃあ行くか」
そしてスバルのGF1型インプレッサスポーツワゴンは出発した。最後の戦いに向かって……
「この先200メートルほどか」
新郷は車を停めた。教団本部からだいぶ離れたところにある有料駐車場だ。てっきりビル前まで行くものだと思っていたので、俺は少し拍子抜けした。
「何だよ、こんな場所に停めちまってよ。どうかしたのか?」
「お前の持ってる『波紋声音』と『つぶて氷』をちょっと見せてみろ。気がかりがあるんだ」
「気がかり?」
俺はおっさんの要求に応じ、ふたつの八尾刀を渡した。新郷は車の窓がすべて閉まっているのを確認する。そのうえで、
「『波紋声音』」
と唱えた。
俺は体が麻痺し、後部座席に倒れこむ。おっさんは動けない俺に対して安心させるように言った。
「唯に頼んである。もうすぐあいつが来るから、それまで大人しくしてろよ」
新郷はふた振りの八尾刀をジャケットのうちにしまいこみ、
「俺が命に代えても終わらせてくる。じゃあな夏原。縁があったらまた会おう」
そうしておっさんは車を降り、ドアを閉めた。その靴音は、教団本部のほうへ歩み去っていく。
ふざけるな……! 俺は憤激したが、体はなかなか動かない。
そのまま1分が過ぎ、3分が過ぎて、5分が経過した。




