吸血姫は、別れを告げる(3)
それから、更に五十年が過ぎた。
……魔王を封印してから、百年。百年だ。
五十年は、公務に没頭することで自分を誤魔化していた。
けれども、もう……無理だった。
最早、仕事では誤魔化せない。
まず、体が悲鳴をあげていた。
魔王封印のために、莫大な魔力を消費する日々。
その上、食事である血を摂取することも許されない。
常に怠さを感じるのは封印直後からだったけれども、そこに飢餓感も加われば生き地獄。
そしてそれよりも苦しかったのは……心の問題。
会いたい。会って、抱きしめて。
私の、最愛の人。
その優しい声で、私の名前を呼んで。
叶わないと知っていても、もう永遠に会えない人たちもいる。
大好きで大切な、友人たち。
共に魔物との戦いを駆け抜けた、戦友たち。
政という名の戦場で私のサポートしてくれた、戦友たち。
過去を思い出すと、自然と涙が溢れる。
会えない人たちを想うのは、何度目だろうか。
過去を妬み乞うのは、何度目だろうか。
いっそのこと、全てを投げ捨て、封印を解いてしまいたい。
同じ時を生きる最愛と、二人だけの世界に行ってしまいたい。
それでも気を保てていたのは、かつての友人の願いのお陰だった。
『命は、巡るのよ。私は、貴女を置いて逝くけれども……貴女は、失うばかりじゃないの。新たな出会いが、貴女を待っている』
『私は、願うわ。貴女が膨大な時の重みに、潰されないことを。貴女と、貴女の周りが笑顔溢れるようにと。そして、ノックスが目覚めることを』
大切な友人の、愛しい願い。
彼女の願いが、私を繋ぎ止めている。
確かに、失うものばかりではなかった。
新たな大切な出会いもある。
魔物の襲撃から助けた子から生まれた子どもに、会った。
学園に通って、楽しそうに日常を語る子ども達に会った。
新たに建てた病院で、生まれた子ども達にも会った。
そういった時、魔王封印の後悔が薄れる。
あの時に下した判断は、決して間違いでも、愚かな選択でもなかったと。
けれども、その新たな出会いが、私を再びこの地に縛り付ける。
過去に縋りついたところで、救われない。
だからこそ、縛り付けられると分かっていながら、求める。
今も、やがて過去になるのに。
今に求めたところで、報われない。
それでも、彼女の願いが私をギリギリのところで繋ぎ留めている。
愛しくて、憎い、時の流れ。
時にはそれに苦しみ、時には癒さる。
そうして心が浮き沈みを繰り返しながら、私は二百年の時を待ち続けた。




