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暁に立つ吸血姫  作者: 澪亜
第一章 過去編
33/54

友人たちは、涙を隠す(2)

「……まずは領内中に、魔王が封印されたことを報せます」


重苦しい空気の中、エイシャルが口を開く。

その場の誰からも、異論は出ない。

エイシャルは、連絡用の魔道具を手に取った。


かつて、ノックスが各街の代表者に渡したそれ。

今は、他にも各街の中にも設置されている。

電話のように代表者同士のみで話をすることもできれば、放送のように街中に一斉に話をすることも可能だ。

救援の依頼をするだけでなく、街の人たちに避難指示を出せるようになった方が良いだろう、とのアウローラのアイディアだった。


「私は、シャリアンデの臨時代表のエイシャルです。皆んに、お伝えしたいことがあります」


呟くそれは、街中に響き渡る。


「本日、我々の英雄たるノックスさんとアウローラさんが、魔王の封印に成功しました」


街中の騒めきが、魔道具を通して聞こえてきた。


「我々は、救われました……っ!」


街中の騒めきに呼応するかのように、エイシャルの声もまた大きくなる。


「夢でも、妄言でもありません。アウローラとノックス、二人の英雄のおかげで、これからこの領地は……今までのように大量の魔物の襲撃に怯えずに済むのです!」


ワァァ……! と歓声が聞こえた。


「……ですが、犠牲は小さくありません。街を人質にされ、アウローラさんは負傷。そして、ノックスさんは……その身を犠牲に魔王を封印しました」


エイシャルは、語りかけるようにゆっくりと、そして感情を込めて言葉を紡ぐ。


「それでも、封印はひと時の措置です。残念ながら、やがて封印は解けてしまいます。その時が来るまでに、我々は備え、強くならなければなりません」


先程の歓声が嘘のように、シン……となった。


「……そんな……いつかは、魔王が復活するなんて」


「どうして、お二人は倒して下さらなかったの?」


「……大丈夫さ、アウローラ様がまた我々を守ってくださるよ」


「いや、分からねえぞ。やっぱり、アウローラ様じゃ勝てなかったってことじゃねえか。それか、魔王に情が湧いたとか……」


「そんな……」


ガヤガヤと、不安の声が魔道具を通して聞こえてくる。


「……ふっざけんなぁぁぁ!」


魔道具から聞こえてきた声に、カミルが叫んだ。

エイシャルの近くで吠えたそれは、当然、魔道具を通して全ての街に伝わる。


「さっきのエイシャルの説明、聞いていたかよ?! 魔王は街を、人質にしたんだ。それでアウローラは、俺たちを守るために、旦那を犠牲にしてまで封印するしかなかったんだよ!」


魔道具に向かって、カミルが叫んだ。


「大体、そもそもの前提が違ってんだ。アウローラにも、ノックスにも、俺たちを守る義務なんかねぇ。それなのに、二人に守って貰えることが、当たり前のような態度をしやがって……」


カミルは、泣いていた。

声からそうと分かるほど。


「……二人は、こんなことが起きるまで戦いとは無縁だったんだ。それでも二人は、最前線で戦って、街を、皆を守った。傷だらけになりながら」


「……始めの頃、二人はいつも腕や足を失くしたり、血だらけになったり……とにかく怪我ばかりだった。すぐに治るから大丈夫なんて言ってたけど、傷を負えば痛みを感じる。体の傷は癒えても、心の傷は残る。それなのに、二人は救援依頼があればすぐに飛んで行った。二人が傷つくのが嫌で止めたいのに、止める勇気もなかった。私は、そんな自分が恥ずかしくて、嫌で嫌で堪らなかった」


ポツリ、ポツリとエルマも言葉を紡ぐ。


「……ここにいる皆、二人に命を助けられている。今、お前らが生きてそこに立っているのは、二人が血だらけになってまで勝ち取ってくれたものだ」


再び、カミルが魔道具を手に取り叫ぶ。


「魔物が襲ってくるのは、他人事か? 二人が戦ってくれるから、自分には関係ない? 違うだろう! 自分を守るために自分で何ができるか考えて、決めて、一人一人が行動すべきことだ。……不安な気持ちは、分かる。怖いのも、分かる。でも、それでも俺たちは前を見て自分の足で歩かなきゃなんねえだ」


段々と、カミルの言葉に熱がこもった。


「今のお前らは他人に身を委ねておきながら、その恩人に唾を吐きかけるような、恥知らずなことを言ってるんだぞ。それを分かってて尚、ぐだぐだ文句を言う奴ら、俺たちを見捨てたお偉方と同じだ。そんな奴らを、俺は心の底から軽蔑する」


「……私はこれ以上、二人の足枷にはならない。……ううん、それ以上に、二人の恩に報いたい。そのために必要なことは、なんだってする」


エイシャルが、口を開いた。


「彼らの話は、アウローラさんとノックスさん側に立つ人の意見です。……ですが、二人が我々を守ったのは紛れもない事実。二人がいなければ、なす術もなく仲良く皆で息絶えていたでしょう」


街からの声は、既に消えていた。

ただ静かに、放送を聴いているようだ。


「……死んでも構わなかった、そう思われない方は二人の功績を否定するのは止めて下さい。そして、恩を感じている方は、どうか……協力して下さい。私は、二人が下さった時間を無駄にはしたくない。二人が下さった時間で、必ずや街を復興させてみせます。そしてできることならば……エルマさんの言った通り、アウローラさんにノックスさんをお返ししたい」


「できることならば、じゃねえ。やるんだ。俺は例え一人だとしても、諦めたりしねえ。必ず、必ず二人がまた笑い合える時を取り戻すんだ」

 

カミルの言葉を最後に、放送は終わった。


……その日、領地の人たちは、手を取り喜び合った。

魔物に襲われ、明日をも知れぬ不安から解放され、安堵し涙を流す人もいた。


そして、決意の日でもあった。

カミルの熱によって、蹲っていた人たちの心に熱が灯った日でもある。

……それは、彼が特別な力を持つ人ではないからこそ。

彼の言葉に奮い立ち、彼は特別になり得たのだった。

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