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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇

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第6章:知らぬは弟ばかりー004ー

 本能みたいなものだった。

 ピンチに陥れば、むしろ冷静になろうと努める習性が働くマテオだ。


 病院で暴れる鬼へ傷つけた側なのに、なぜか激痛が走る。

 まるで自分のほうが全身を斬りつけられている感覚だ。

 瑚華(こなは)が散布した痛覚を刺激する薬品のせいと知るは、まだ後である。    

 身動きならない我が身に、周囲を窺った。


 マテオと同じ傷を負った鬼は悶え苦しんでいる。

 残る二体の鬼どもはかすり傷すらないから襲いかかっていく。

 ガスマスクを付け白衣を着た護衛を跳ね除け、主軸である瑚華へ迫る。

 鬼の丸太のごとき太い腕がつかみかかった。

 つかみかかったところで終わった。

 腕を伸ばしたまま鬼どもは硬直だ。

 きらきら輝きを放っている。

 金色の彫像と化していた。


「良かった、間に合いましたな」


 心底から安堵した男性の声だった。

 激痛がさらに増すマテオであったが、新たな闖入者に意識を失っていられない。

 瑚華の嬉しさを隠す様子にも興味が刺激されている。


「なに、また来たの」


 自分を助けててくれたにも関わらず、瑚華の邪険な物言いだ。

 墨色の裳付姿をした僧侶は救世主であるはずだが申し訳なさそうな態度をしていた。


「すみませぬ。我々の『神々の黄昏の会』へ、瑚華殿を誘う役目を引き受けております。承諾していただけるまで、この道輝(どうき)、何度でも足を運びまする」

「だーかーらー、言ってるじゃない。例の件をクリアできたら、考えてあげてもいいわよって」

「いえ、それは。拙僧は修行の身。節度節制にて精進する日々を送らなければならぬのです。ご要望はお受けできぬ代わりに、瑚華殿をお守り致します」

「あっ、そ。じゃ、今回のことは当然だとして感謝しないわよ」

「そうでなくては、瑚華殿ではありませぬ」 


 傍から聞いている分には、何とも形容し難い男女の会話である。

 もしマテオが元気だったら、瑚華が道輝に出した条件の中身を聞きたいところだ。

 その時は刻々と激しくなる痛みに我慢できない。

 センセェー、と叫んでいた。


「あら、まだ意識あったんだ。凄いわ、マテオ」


 感心感心といった瑚華が、マテオの容態を見るべく近づいてくる。

 これでようやく、と安心しそうになったマテオは、瑚華の口許に浮かぶ邪悪な笑みに気づく。思い込みではなく、実際にモルモットとされ痛みが引くまで相当の時間を要するのであった……。


◇    ◇    ◇    ◇

 

 ネオンサインの青が、屋上看板のそばにいる者たちを照らす。


「あの坊さん、鬼をやっつけるの、一瞬だったもんな〜」


 思い出しながらのマテオに、「そうなの!」とアイラは興味津々だ。

「なんだか、とっても冴えないおじさんだったじゃない。変な格好なくせして、やたら地味だし」

「彼は僧侶なんですよ。姉さんのは、とても失礼以外のなにものでもない評価だと思います」


 マテオはたしなめているつもりだったが、「そーお?」とくるアイラだ。


「二人は道輝の能力の凄まじさは聞いていないのかい?」


 顔半分の傷跡を黒マスクで覆うリーの問いに、マテオとアイラの姉弟とくればである。


「あれ、そういえばあいつの能力は何か、姉さん、知ってます?」

「えー、私が知るわけないじゃない。ていうか、マテオこそ知ってなくちゃ、ダメじゃない、もぅ」


 姉弟の会話に、あはは、とリーが笑う。

 笑ってから、気づいたように訊く。


「二人とも、どうしたんだい」


 マテオとアイラは顔を見合わせてから答えた。


「いや、初めて笑うの見たからさ」

「びっくりー、そんな顔、できるんだー」


 まさに驚愕する白銀の髪を持つ双子の姉弟に、リーの残された素顔は少し苦いものを含んだ。


「出来るとしても、顔の半分だけどね」

「なに言ってるの! いくら声にしていても本当は笑えていない人が、どれだけいると思ってんの。リーって言ったわよね。顔半分でも、それだけ笑えるなんて、素敵なことなんだって自覚しなさい」


 アイラが憤然として述べた。まるでマテオに対するかのような熱弁だった。

 言葉を失ったかのようなリーが、やがて半分でも柔らかな表情を見せた。


「そうか、そうだね。ありがとう、アイラ。キミは素敵な女だ」


 まさかの長年に渡って追い求めてきた敵対組織の長から出た褒め言葉である。

 マテオとしては、疑り深いくせに人の良い姉だから照れてまくるだろうと予想した。

 しかしながら、アイラは急に暗い顔をしてくる。


 理由を承知していたのは、リーのほうだった。


「すまない。アイラには気が障る表現だったかな」

「ううん、違う、違うの。リーが悪いんじゃなくて」

「いや、やはり自分が悪い。アイラがどうして逢魔街に来たかを承知しながら、ついとはいえ、不用意な発言をしてしまった」


 慌てたのはマテオだ。いったい何を言っているか、自分だけが解っていない。訊かずにはいられない。


「お、おいっ、リー。どういうことだよ」

「知らないのか? アイラはあまりに求婚者が出てくるから辟易しているという話しだが」


 驚き返されてしまった。

 今晩のマテオには確認しておかなければいけない事案が多く待ち受けているようだった。

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