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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇

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第5章:青い月の下の素顔ー003ー

 青い月明かりを背に立っていた。

 影に彩られていても、顔を覆うは白黒の仮面と判別はつく。


 マテオにすれば暗闇でも探し出してみせる相手だ。


 能力者を敵視する組織『people with psychic abilities trafficking organization』の首魁は『リー・バーネット』を名乗った。

 流花(るか)を求める東の鬼どもの盲点を突いたマンション屋上の寝泊まりも、リーには通じなかったらしい。

 ただ少し冷静になれば探し当てられても当然か、とマテオは割り切れる。

 なぜなら不安要素は承知のうえで共に過ごしてきた経緯がある。


 リーはマテオが疑惑とする者を呼んだ。


「来い、MAKOTO」


 屋上に張られたテントのドアパネルがはためく。


 刃と刃がぶつかり合う音も立つ。

 リーを守るように立ち塞がったマコトの揺れる黒髪に、長い白銀の髪が絡まるように揺らめく。


 姉さん、とマテオの呼ぶ声を背に、アイラは手にした短剣を押し込みながらだ。


「結局はこうなるのよね。わかっていたけれども」

「ごめんね。せめて今晩くらいは仲良しでいたかったね」


 剣で受け止めるマコトはすまなそうだが、アイラはばっさり切り捨てる。


「あら、白々しい。ここの場所を教えたの、あんたじゃないの」

「ち、違うね。それは絶対に違うね。まこちゃん、今晩は流花の友達で、みんなの友達でいたかったね。ホントよ」


 思いもかけない激しさで、マコトが訴えてくる。

 マテオに肩を貸して立ち上がった流花が真っ直ぐな目を向けた。


「うん、わかってる、わかってるよ、まこちゃん。流花のわがままに付き合って、お友達でいようとしてくれた気持ち、嬉しかった」


 流花……、ともらすマコトに出来た隙を、アイラは見逃さなかった。

 重なった刃を外しては斬り込んでいく。

 月の青い光りを反射させた刃が華麗な軌道を描く。


 上半身から血潮を辺りへ撒くマコトの手が蹴られた。

 短剣が宙を舞っては、屋上の固いコンクリ床へ音を立てて落ちていく。

 同時に、マコトは首根っこを捉まれ地面へ押し付けられる。

 小さな身体から想像もつかないほど怪力を発揮したゾンビ少女によって拘束された。


 (かえで)ちゃん! と流花の叫びに対してである。


「ごめん、流花。あたしはやっぱりマコトは信用できなかったし、今でもしていない」


 それから押さえつけたマコトへ向かう。


「悪いわね。でも話していて楽しかったのは、本当だから」

「なに言うね。そんな楓だからこそ、流花のそばにいて欲しいと、まこちゃん思うね」


 ふっと口許を緩める楓だ。

 アイラが短剣を掲げた。刃先が指すは、白黒の仮面を付けたリーと名乗る人物だ。


PAO(パオ)の頭がやって来るのに、まさか用意はこれだけって言うことないわよね。さっさと次の相手を出したら。この前の機械人形でもなんでも来るがいいわ」


 ふふふ、と仮面越しにリーが笑う。

 アイラを苛立たせるには充分な余裕の響きだ。


「何もないなら、こっちから……」

「何もないよ。本当に話しをしたくて手ぶらで来た」


 ウソ、とアイラが一刀両断すれば、「ホントさ」とリーは返しつつ「ただ……」と含みを持たせる。


「ただ、なによ」

「これでも組織の長なんでね。まるきり無防備でとはいかないんだ」


 えっ? と突然に声を上がる。主は、楓だった。

 理由はすぐに判明した。

 床へ押し付けていたマコトが発光する。

 目を向けた者のまぶたを落とされる眩い輝きを放つ。

 マテオを始めとする誰もが再び目を開けば、リーの横に立つマコトの姿があった。


「申し訳ないが、話しをするにしても切り札は手元に置かせてもらう」 


 涼しげなリーに、ふんっとアイラが鼻を鳴らした。


「PAOのヤツなんかと、誰が話しすんのよ」

「するさ。しなければ、ここから立ち去る。そうすれば二度と君たちの前には現れないかもしれない」


 姉さん、と呼ばれたアイラが振り返れば、流花に肩と借りたマテオが静かに首を横に振っている。


 くっと悔しがるアイラだが認めざるを得ない。

 白銀の双子が揃って瞬速の能力を発現できない状況は取り逃す公算が大だった。長年に渡り追い続けてようやく辿り着いた『PAOの首魁』と相対す機会を、感情へ任した挙句に逃しては軽率すぎる。


「いったい、なんの話しがあるって言うのよ」


 不機嫌極まりないながらアイラは話しを聞く態度を見せた。

 肩を組むマテオと流花に、楓も前へ出てくる。

 青い月の下、マンションの屋上で両者は対峙する。


 まず切り出したのは、リーだった。  


「マテオ。立っているのはきついだろう。テントの横に屋外用のチェアがあるみたいだし、座ったらどうだい?」

「いや、大丈夫だ。僕は腰を落ち着けての話し合いなんて眠くなる」

「そうか、そうだったね、キミは」 


 ジョークと解釈されかねないマテオの返答に、リーはやけに納得しているふうだ。


「さっさと話しに入りなさいよ」


 アイラは苛立ちを隠さない。

 マテオだってそうなると思っていた。

 相手が相手である。今すぐにでもぶっ殺してやりたい、となるはずだった。


 なのに、どういうわけだろう。

 実際に今、目の前にして気持ちは平静にある。姉と違って、ちっとも昂りを覚えない。

 何かが違っていた、決定的に。


 解答はさほど時間をかけず明かされる。


「そう慌てないでくれないか。まず話す前に見て欲しいものがある」


 そう言ってリーは白黒の仮面へ手をかけた。

 まさか、とマテオだけでなくアイラと楓に流花までも驚くなかで、素顔が明かされようとしていた。

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