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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇

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第3章:悩ましき大男ー002ー

 う〜ん、と唸るはマテオばかりでなく(かえで)もだった。

 無理しなくていいよ、別に……、と流花(るか)にしても珍しくおずおずしている。


 三人は異能力世界協会に充てがわれたマンションの一室にいた。


 マテオのために用意された部屋の居間で食卓を囲んでいる。テーブルの真ん中に置かれた大皿に乗った料理をみんなで覗き込む格好を取っていた。

 野菜炒めにしたつもり……が、調理人たる流花の説明だ。

 言われてみればそうかも、とするマテオと楓である。 

 どっちゃり皿に盛られているものは、黒い。焦がしたわけでなく付いた色だからこそ、余計に不可解だ。


 普段ならつべこべ言うところだ。だが今日は、いろいろあった。だからマテオは椅子に腰を落ち着けて、箸を取る。

 流花の作った中華もどき料理は見た目はあれだが、匂いはいい。

 いただきます、と両手を合わせたマテオに、楓も倣って食前の挨拶をして箸を取った。

 いつも通り食事をするマテオに、ぱくぱくと楓も口へ運んでいた。流花の作った黒い野菜炒めをおかずにご飯をかきこんでいる。


「おい、流花。なに感激してんだか知らないけれど、食わねーのか」


 箸と茶碗を手にしたマテオは、今にも涙を零しそうなほど瞳を潤ませている流花の姿は不審以外の何物でもない。


 だって〜、と食事風景を眺めていた流花が始める。


「流花が作ったものを普通に食べているところ初めて見たんだもん」

「なんだよ、普通って」


 マテオの疑問に、流花が答える。

 どうやら故郷の『東』で暮らしていた際は、けっこう料理をしていたらしい。行動も限られた生活の中で、陽乃(ひの)に習い取り組んでいたそうだ。けれども腕前のほうはさっぱりで、向上の跡さえ見えずであった。


「流花が誰かの役に立つことがあるなんて、思いもしなかったら感動してる」


 マテオは箸と茶碗を置けば、真面目くさった顔で言った。


「せっかく流花が喜んでいるところ悪いが、僕は味覚がイカれている。毒耐性を身につける過程で、食事は活動に必要な摂取行為でしかなくなっているんだ。だから、ごめんな」


 言ってからマテオは解らなくなる。なんで自分は謝っているのだろうか?

 けれでも楓もまたマテオに同様とばかりの内容で続く。


「流花、あたしもごめん。味、ぜんぜんわかんないの。食べる必要なんてないのに、料理させるなんて無駄なことをさせちゃっている」

「そんなことないって、楓ちゃん」

「でも誰かと食事したかった気持ちは、本当。本当だって、今、気がついた。だから、ありがとう、流花」


 今度こそ涙ぐんだ流花だった。


 マテオも楓の話しに、つい感激してしまった。隠すために、ぶっきらぼうに伝える。


「僕は味が解らないけれど、食事は必要とする身だからな。栄養の点では頼むぞ。それに鼻は効くので匂いは大事だから、今日の感じを忘れるなよ」


 それから箸を引っ掴むようにして手に持てば、おかずと共にご飯をかきこんだ。

 あたしも、と楓もまた食事を再開する。


 野菜炒めの異様な黒さを除けば、ごく日常的な夕餉の光景だった。


 わずかに涙の跡が残るものの晴れやかな顔で流花もようやく食事に手を付ける。黒い野菜炒めを、ぱくり口に入れた。 


「うげげぇー、まずいっ」


 げんなりといった様子に、マテオはツッコまずいられない。


「流花さー、味見しなかったのかよー」

「したよー。作っている時は、美味しくはなかったけど食べられないことはない、て思ったもん」

「お、おまえ。美味しくなかったんじゃないか」

「でも食べれるくらいになったと思ったのにー」


 そう返した流花は小瓶を取り出した。

 なんだぁ、とマテオは呆れる。ふりかけを手元に用意していた流花の周到さだ。さらにである。


「流花のそれ、あたしもわかる。作っている最中の味見って実際より美味しく感じるのよね〜」


 楓の助け舟に、どれだけ前の話しをしているんだとマテオは考えたが口にはしない。出していいはずがなかったから、話しかける対象は流花へ変えた。


「作った本人を差し置いて食っているのは気が引けるから、せめて自分も食べれるくらいにはなってくれ」

「うん、わかった。流花、がんばる」


 とても良い返事だ。だがふりかけご飯を一口すれば、「う〜ん、とりたまそぼろサイコー」と頬っぺたを落としそうな流花である。

 大丈夫なんだろなぁ〜、と思いつつマテオが黒のおかずを小皿に移すべく箸を伸ばしかけた。


 来客を告げるチャイムが鳴った。


 敵対組織であるPAOに陽乃と悠羽を拐われたマンションを引き揚げてから、まだ数日しか経っていない。ここを知る者は限られているはずだ。マテオとしては、突き止められての襲撃なら、まだ理解できる。きちんと手順を踏む来訪のほうが緊張を生んだ。

 冴闇夕夜さえやみ ゆうやだったら、また頭に血が昇りそうだ。

 陽乃の妹だから、なんて言い草はあまりに酷い。


 怒りがぶり返したマテオは玄関モニターを開く。

 映し出された人物はマテオだけでなく後ろから覗き込む流花と楓の意表も突いていた。

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