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【12/1発売】俺は知らないうちに学校一の美少女を口説いていたらしい〜バイト先の相談相手に俺の想い人の話をすると彼女はなぜか照れ始める〜  作者: 午前の緑茶
第一章 斎藤視点

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【斎藤さん視点】第17話 学校の彼への恩返し

 彼に保健室に運んでもらった後、保健の先生に家まで送ってもらいそのまま寝た。朝起きると、1日ゆっくり休んだことで熱は引いて幾分か身体も軽くなっていた。


 改めて昨日のことを思い出すとどれほど彼に助けてもらったのか実感する。少なくともこれまで助けてもらったことを考えると、お礼にお菓子一つ渡して終わり、というわけにはいかない。何か力になれることはないかな?そんなことを放課後の図書館で考えていると本友達の彼が声をかけてきた。


「これ、昨日借りた本。ありがとな。めっちゃ面白かった」


「あ、昨日はありがとうございました。本当にお世話になりました」


 本を手渡されたので受け取りながら、ぺこりと頭を下げて礼を告げる。すると、昨日色々手を煩わせてしまったのだけれど特に気にした様子もなく軽い感じに言葉が返ってきた。


「はいよ、それで調子はどうだ?」


「おかげさまで。まだ本調子ではありませんが日常生活をする分には問題ありませんよ」


「そうか、ならよかった」


 私の体調が良くなったことに安心したらしい。心配そうな眼差しはなくなり、ほっと表情を緩ませた。そんな様子につい嬉しくなる。彼が私のことを大事に思ってくれていると思うと、急になぜか彼の優しい顔を見るのが少し恥ずかしくなり、慌てて心の中でかぶりを振って話題を切り替えた。


「え、ええ。あとこれがいつもの本ですね」


「ありがとな。……最近一冊だとすぐ読み終わっちゃうんだよな」


 本を渡すと彼は受け取った本をじっと眺め、ポツリと小さく呟いた。


「私に2冊持って来いと?」


 今貸している本のシリーズはどれも分厚くかなり重い。2冊持ってくるとなるとかなりしんどくなる。何度も助けてもらっているので、彼の願いなら聞いてあげたいところだけれど叶えるのは難しい。


「流石にそんなことは言わねえよ。今でさえ感謝してるんだ。これ以上重いものを毎日持って来させるとか、申し訳なさで死ねる」


 彼の言い方的におそらく、たまたま心の声が漏れ出たという感じだった。だからか、それほど強く2冊読みたいというわけではないらしい。今の本の貸し借りの状態で特に不満はないみたい。

 それでも、普段あまり自分のことを話さない彼がせっかく言ってくれた想いなので、力になりたい。昨日もお世話になった分の恩を返すいい機会でもあるので、うーん、と頭を捻る。考えに考えて一つ提案してみることにした。


「……じゃあ、一緒に帰りますか?」


「はい?」


 自分でもかなり大胆なことを言っている自覚はある。異性と一緒に帰るなんて、どんな噂をされることやら。ただ、私にはこれしか思いつかなかった。多少は嫌な思いをするかもしれないけれど、それで彼の力になれるなら構わない。

 それにおそらくひと騒ぎくらいは起きそうだけれど、互いに友人としか思っていないのだからそんな噂はそのうち無くなるはず。


 もちろん、こんなことを言われれば驚くのは当たり前で彼は面食らったように呆然と固まってしまった。


「…………」


「私の家まで来てもらえるなら、2、3冊くらい渡します」


「いや、それは……」


 どこか言いにくそうにする彼。だいたい何を考えているかは想像できる。大方、異性、それもかなり目立つ側の人が誘ってきたことに戸惑っているのだろう。加えて噂が立ち、目立つ可能性があることを心配をしているに違いない。


 もちろん、そんなことは私も分かっているので無理強いはするつもりはない。だけれどせっかく彼の力になれる滅多にない機会なのだから出来るだけ助けたい。

 それに噂になりそうなことを除けば互いに何も思っていないのだし、一緒に帰ったところで特別な意味なんてないのでそこまで気にする必要はないと思う。

 

「いいんですか?これまでよりも沢山読めるようになりますよ?」


「いや……でもな……」


 まだ渋り、うーんと悩んでいる。やはり一緒に帰るというのが気がかりなのだろう。それなら、悩んでいる部分を取り除けば良いだけ。


「じゃあ、こうしましょう。別に一緒に帰る必要はありませんし、帰るタイミングだけ合わせて私の後ろをついてきてください」


「……それで頼んだ」


 今度は納得したらしく、渋々ながらもこくんと頷いた。やはりお気に入りの本がよりたくさん読めるようになることは捨て難かったみたい。まったく、彼らしくてつい口元が緩む。


「はい、いいですよ」


「ついていくからってストーカーで訴えるなよ?」


「もう、そんなことはしませんよ」


 ふざけているのか戯けるようにそんなことを言うので、呆れて冷たい目で見てしまう。まったく、そんなことするはずがない。ある程度信頼しているから提案したのだから。


「でも、いいのか?こんな男に自分の家の場所を知られて。もしかしたら何か危ないことされるかもしれないぞ?」


「したらその時は然るべき処置を取るだけなので」


「あ、左様でございましたか」


 目を細めて鋭く睨むと、肩を竦めて小さくなった。別に本当に彼がそんなことするつもりないってことは分かっているけれど、ここまで大人しくなるのは少し面白い。


「それにあなたはそういうことしないし出来ないでしょうし」


「信頼してくれているのか?それはどうも」


「多少は信頼していますが、あなた私に対して興味がないでしょう?それが主な理由です」


「あー、そっちか」


 やはり私の思っていた通りだったらしい。内心を言い当てられたせいかなんとも言えない表情で苦笑を零した。


 改めて思うと本当に不思議な人。最初だけならいざ知らず、ここまで関わってもまったく妙な目線で見てこないなんて。おかげで不安なく友人として関わることが出来ているから良いけれど。


「最初の時にお礼とかこつけて親しくなろうとしてきたなら、私も関わる気はなかったんですけどね」


「安全な人と思ってもらえたようでよかったよ」


「はい、おかげさまで」


 とりあえず少しは力になれたと思う。やっとこれまで助けてもらったことの恩を返せそうでほっと安堵する。


 それにしてもまさか異性と一緒に帰ることになるなんて。自分で提案しておいてなんだけど、驚いている自分がいる。異性として意識していないとはいえ、今までの私ならこんなこと絶対しなかっただろう。これも彼の影響なのかもしれない。先程のことを考えると、2人だけの秘密が出来たみたいで少しだけ嬉しくなった。


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