第27話 学校一の美少女の家への訪問
冬休み初日、早速彼女の家へ訪れていた。
もう何度も行き慣れていたので玄関までは簡単に辿り着く。
だがなかなか呼び鈴を鳴らす勇気が出ず、ボタンに指を付けたまま押すことが出来ずにいた。
同年代の異性の家に入るなんて経験はこれまで1度もない。そんな俺がまさかこんなことになるとは。
まだ歩いて来ただけだというのに、既に緊張と不安で精神的にかなり疲れている。
本に釣られて承諾したが、軽はずみだったかもしれないとほんの少しだけため息を吐く。
まあ、これ以上くよくよしていても仕方がないのでボタンを押すと、扉が開き斎藤が姿を現した。
「どうぞ、入って下さい」
いつもの見慣れた制服姿ではなく、ぶかぶかのグレーのパーカーに下は黒のズボンというまさに部屋着といった感じの服を着ていた。
おそらくゆるい服が楽だから着ているのだろう。
普通ならそんな姿ならダサいだろうに、彼女が着るとそれすらも様になって見えるのだから美少女というのは得なものだ。
「お邪魔します」
見慣れない彼女の服装に少しだけ違和感を覚えつつも、まだ見たことがなかった奥の部屋へと案内された。
「……本だらけだな」
眼前には膨大な量の本が敷き詰められた本棚がいくつも並んでいた。
一般の女子高生の部屋とはほど遠いが彼女らしい部屋に思わず苦笑する。
実際に行ったことはないが、女子の部屋は花の香りや甘い匂いがする、といった表現をよく見かけるが、この部屋から漂うのは本屋と同じ紙の匂いだった。
「別にいいでしょう」
「女子高生の部屋とは思えないな」
「私に一般の女子高生を期待しないでください」
彼女も自分が普通の女子高生とはほど遠いことは自覚しているのか、ツンとしたいつもの冷たい声でそう言われてしまった。
「まあ、紙の匂いは落ち着くから俺は好きだけど」
フォローの意味も込めて小さく零す。
一般の人からしたら変な匂いなのかもしれないが、この匂いはとても落ち着く。
なんとなく優しい匂いだし、本に包まれたような気分になれるので特に本屋は好きだ。
この部屋も同じ匂いがするので、さっきまでの緊張がゆるりと解けた。
「……そうですか。飲み物入れてきます」
彼女はピクッと身体を震わせたかと思えばキッチンの方へと行ってしまった。
どこに座るか一瞬迷ったが、律儀に椅子が2つ用意されていたので片方に座る。
ほっと一息をつきリビングを見回す。なんとなく思っていたが、彼女は一人暮らしらしい。リビング以外にはキッチンと彼女の部屋らしき場所があった。
そのままキッチンの方を見ると彼女は急須でお茶を淹れているところだった。
意外というかあまり想像できなかったが、彼女がお茶を淹れている姿は様になっていて非常に似合っていた。
ただの本好きの少女というわけではないらしい。洗練された動きから育ちの良さというのを感じた。
「……なんですか?」
俺が見ていたことに気付いていたらしく、彼女はトンッとお茶を机の上に置くと、眉をひそめて軽く睨んできた。
「意外と家庭的な面もあるんだなと」
「家庭的かは知りませんが、一人暮らしなんですからこのくらいは出来ます」
お茶を急須で淹れられるのが一般的だとは思えないが彼女からすると当然らしく、呆れ顔で見てくる。
はあ、とため息をついて彼女はそのまま向かい合う形で座った。
しん、と静かになり沈黙だけがあたりを漂う。
こう静かになると否応なく俺と彼女しかこの部屋にいないことを実感する。
別に彼女とどうこうなるつもりは一切ないが、異性、それもとても可愛い女の子と2人きりでいるという状況は、やはりなんとなく緊張するし落ち着かない。
少しでも落ち着こうと、俺は一口お茶を飲んで心を鎮めた。




