2巻発売記念SS 学校一の美少女は一年生
久しく投稿を休んですみません。
2巻の発売が12月1日ということで、はっきり言います。販促です!(`・ω・´)
田中の活躍する姿が見られますので、ぜひ二巻お買い求め下さいm(_ _)m
シンと静まり返った館内。古い紙と埃の匂いが鼻腔をくすぐる。周りには誰もおらず、自分のページを捲る音だけが館内に響いた。
やっと一人になれたことに私はつい息を吐く。読書に耽ることで、だんだんと気持ちが落ち着いてきた。気遣いも愛想笑いも何も気にすることなく、ただ純粋に本を楽しむことが出来るのはとても安らぐ。
入学してからというもの、たくさんの人に囲まれる生活が続いている。中学校のときにも同じような経験がなかったわけではないけれど、だからといって疲れないわけではない。
他人と本音で話すのが苦手なので、どうしても気を遣ってしまう。異性からの好奇の視線もどうしても居心地が悪いし、学校生活というのがいまいち苦手。これがまだまだ続くのだと思うと気が滅入りそう。
思わずため息が漏れ出たところで、キィと図書館入り口の扉が開いた。靴音が響いて、人が入ってくる。黒縁眼鏡で、前髪は目にかかるくらいまで長い。それらはおしゃれのためにしているわけではないだろう。野暮ったい地味な印象だった。
一瞬、嫌な記憶が蘇る。以前にも何度か図書館を訪れる人がいた。大抵の人は静かに本を読んでいたけれど、中にはひそひそと話す人たちもいた。あからさまにこちらに視線を送って、何度も見られるのは気分が良いものではなかった。
そんな嫌な経験があるので、滅多に人が来ない図書館に人が来るとどうしても心配してしまう。
今回はどうだろうか? どうやら心配は杞憂だったみたいで、その男子は特にこちらに視線を向けることなく、一目散に本棚へと向かって見えなくなった。
向けていた意識を手元に戻す。自分の本のページを何枚か捲ったころ、その人は何冊か本を抱えて戻ってきた。本を机に置く音が響いて、紙の捲られる音が聞こえ始める。真剣に読んでいるので、もう大丈夫だろう。自分ももう一度本の世界に入り込んだ。
「……こんなところに図書館なんてあったんだ」
「先輩曰く、ほとんど使っている人はいないみたいだぜ?」
集中を割いて耳に届く二つの声。あれからしばらく静かだったというのに。声の元はどうやら図書館の外からみたい。二人の男子の話し声が段々とこちらに近づいてくる。入り口の扉、その向こう側まで近づき、扉が開いた。
「へえ、ここか。ってあの人って……」
「あ、斎藤さんじゃん」
外での会話よりは控えめだけれど、それでも十分に声が届く。気にしていない素振りを装いながら、視界の端で二人を捉える。こちらに隠そうともしない好奇心に満ちた視線が向いていた。ひそひそ話しながらにやけた表情が彼らに浮かぶ。本当に嫌になる。
二人は本棚から本を選んでくると、私から少し離れたとこに座った。
本を読み始めれば静かになるのかと思えば、予想通りそんなことはない。本を読んではいるけれども、耳障りな話し声が館内に響く。
「噂には聞いてたけど、ほんと可愛い」
「それな。確かに噂になるだけのことはあるわ。あの顔の小ささとかモデルかよ」
言いようのない苛立ちが内に募る。図書館に来たのにどうして話ばかりしているの? そんなことを話していないで、ちゃんと本を読んでよ。もし読む気がないなら帰って欲しい。
図書館にふさわしくない会話の数々が私の集中を蝕む。
本を読んでもいまいち内容が入らず、読んだ部分を何度も辿ってしまう。二度、三度。話し声が聞こえるたびに意識がそっちに向かって、目の前に身が入らない。
はぁ。もう我慢できない。今日は帰ろう。本をぱたんと閉じようとしたその時だった。
「あの、すみません」
二人とは違う、しっとりと沈むような低めの声。顔を上げると、さっきまで別のところで本を読んでいた眼鏡の男の人が二人に話しかけている。まさか自分たちが声をかけられると思っていなかったのか、二人は目を丸くして固まっていた。
「話をするなら外でしてもらえませんか? 本を読んでいる人がいるので」
ただ淡々と語っているだけなのだろうけど、どこか有無を言わせない迫力がある。眼鏡の男子はじっと二人を見据えると、二人はいそいそと立ち上がる。
「わ、悪い。おい、いこうぜ」
「あ、ああ」
慌ただしく荷物をまとめ、ドタドタと足音を鳴らして出ていった。入り口の扉がギギギと閉じて、館内は一気に静かになった。二人が消えた扉を見つめていた彼の体から力が抜ける。
「あっ」
身体を翻した彼と目が合い、思わず声が出る。さっきの出来事が予想外で呆けて見つめていたせいだ。
何か言われるのかと唾を飲む。けれど、彼は何も言うことはなく座っていた席に戻った。
元の静けさを取り戻した館内。彼はさっきまでと同じように本を読んでいて、そこにはさっきまでの気迫はない。自分が思っても言えなかったことを、まさか他の人に言われるとは思いもしなかった。偶然ではあるだろうけど、追い払ってくれたことはとても助かった。
気を取り直して、さっき閉じた本を開く。今は邪魔するものは何もないのですぐに本に集中できる。本の世界に入り込む直前「良い人」そんな言葉が脳裏に浮かんだ。




