学校一の美少女は対面する①
翌日の放課後、斎藤と一緒に図書館で一ノ瀬を待っていた。
「なんか、久しぶりだな」
「そうですね。最近は私の家で過ごすことがほとんどでしたからね」
「たまに本を借りには来てたが、斎藤とこうやって図書館で一緒にいるのは凄い懐かしい感じがするわ」
相変わらず人気のない図書館。その静けさのせいで俺と斎藤の会話はやけに大きく館内に響き渡る。
「考えてみると、知り合ってからもう半年が経つのか」
「もうそんなにですか。早いものですね」
話し始めたのは九月の中旬ごろ。振り返ってみると、過ぎた日々というのは一瞬だ。今でも図書館で話しかけられたときの衝撃は色あせることなく、鮮明に思い出せる。
「最初、ここで話しかけられた時は本当に驚いた。あまりに信じられなくて何度も瞬きしたし」
「あれは、田中くんが私のお気に入りの本を読んでいたからです。やっぱり好きな本のことは語り合いたいじゃないですか。悪い人ではないのは分かっていましたし、つい好奇心が勝って話しかけてしまいました」
「なるほどな。あの本がお気に入りの本なのは、すぐにその後の饒舌な語りで分かったけど」
「それは忘れてください」
斎藤はむっと唇を突き出し、不満げな視線を送ってくる。あの時も誤魔化していたが、夢中になると我を忘れる癖は認めたくないらしい。その視線に肩を竦めて苦笑を零した。
図書館入り口の扉がギギギと軋んで音を立てた。どうやら件のあいつがやっと来たらしい。
高身長のスタイルの良いシルエットがこっちに近づいてくる。胡散臭い笑みを湛えて、ゆるりと手を上げた。
「あ、ごめんごめん。女の子たちに囲まれちゃって、彼女たちを撒くのに時間がかかっちゃった」
「遅いぞ。ほら、座れ」
「はーい」
反省しているんだか、していないんだか。申し訳なさなどおくびにも出さず、椅子を引いて俺と斎藤の前に座った。
「はじめまして、斎藤さん。一ノ瀬和樹です」
「はじめまして。斎藤玲奈です」
互いに義務的な挨拶を交わして頭を下げる。一ノ瀬はいつも通りだが、斎藤は少し表情が硬い。まあ、最初だし、こんなもんだろう。
「今回一ノ瀬を呼んだのは、相談にのってもらったし報告しておこうと思ってな」
「ふーん、なんだい?」
もう既に話の内容を察しているのだろう。にやにやと一ノ瀬の口元が緩んでいる。やっぱりなんか腹立つな。
「斎藤と付き合い始めたから。一応言っておく」
「おー、おめでとう! ようやくかい。長かったね」
一ノ瀬は目を輝かせて、しみじみと慮るようにうんうんと頷く。
「デートとか色々してるのにいつ付き合うのかやきもきしていたよ。あれだけ好き好きオーラを出しておいてさ」
「おい、余計なこと言うな」
妙な事を言い始めたので慌てて引き留めるが、すでに斎藤の耳に入った後。斎藤が「田中くんがそんな雰囲気を出していたんですか?」と興味を見せ始めた。
「基本田中って、全然周りの人に興味持たないのに、斎藤さんのことだけはいつも真剣に考えてるからね。もう、普段のお前はどこに行ったんだい?って感じだよ」
「そ、そんなにですか」
斎藤は一瞬目を丸くした後、によによと嬉しそうにほのかに口元を緩め始める。喜んでくれるのは嬉しいが、自分の気持ちを好きな人に知られるのは流石にきつい。こみ上げる羞恥を誤魔化すように一ノ瀬を睨んだ。
「もうそれ以上話すのやめろ。二度と相談しないからな」
「ごめんって。でも、ほら、嬉しそうな斎藤さんを見れたんだからさ。満更でもないでしょ?」
「そりゃあ、確かに喜んでる斎藤は可愛いが……って今のはなし!お前、もうしゃべんな」
思わず本音が漏れてしまった。さっきよりもさらに熱が顔に上がってくる。隣を見れば、斎藤が小声で上目遣いに体を寄せてきた。
「そ、そういう不意打ちはやめてください」
「す、すまん」
赤みが差した頬のまま、きゅっと唇を結ぶ斎藤に、罰が悪く頬を掻く。そっと視線の前に戻せば、目の前の一ノ瀬が温かい目をしていた。こ、こいつ……。
仕切り直しにコホンと咳ばらいを一つ入れる。
「と、とにかく、色々世話になった。ありがとな」
「はーい。幸せそうでなによりだよ」
頭を下げれば、一ノ瀬はにこりと楽し気に微笑む。その笑みは、いつもどおりのからかいの混じった笑みに見えたが、本心からの満足そうな笑みにも見えた。
まだ続きます。




