学校一の美少女の強がり
感想、誤字報告、いつもありがとうございます(*・ω・)*_ _)ペコリ
一ノ瀬にメッセージを送ると、すぐに了承の返事が返ってきた。
「ん、向こうも斎藤と話してみたいってさ」
「そうですか」
「明日の放課後、図書館で大丈夫か?」
「はい、それでいいですよ」
斎藤が頷くのを見て、スマホの画面に視線を戻す。明日会う旨を打ち込んで送った。あいつのことだか、快く承諾してくれるだろう。
「それにしても、斎藤が自分から男子と話そうとするなんて意外だな」
「確かに、普段だったら避けるところですが、田中くんの話を聞いたら話さないわけにはいきませんよ」
真剣な表情でぽつりとつぶやく斎藤。考え込むように僅かに視線を下げている。
「そんなに一ノ瀬が言いふらさないか心配か?」
「はい。田中くんの秘密が周りにバレないためにも私が念を押しておきます」
「そうか……」
随分と気合の入った様子で意気込む斎藤につい苦笑が漏れる。そこまで心配することではないと思うが、俺のためだというなら、ありがたく受け取っておくとしよう。
曖昧に微笑でいると、そっと斎藤が小さく声を漏らした。
「……それに、どうやら事情を把握しているみたいですし」
「事情?」
「え? あ、その私と田中くんが親しくしていることとかです」
少しだけ声を上擦らせながら、あせあせと手を慌ただしく動かしながら説明してくれる。
「なるほど。確かに俺たちの関係性を俺たち以外で一番把握しているのは一ノ瀬かもな」
「でしょう? それに田中くんと親しいみたいですから、これを機に田中くんの恥ずかしい秘密を聞いてみようかと」
「おい?」
いたずらっ子みたいくすっと笑う斎藤を軽く睨む。別に恥ずかしいことをあいつに話してはいないはず……。少しだけ不安で振り返ってしまった。
斎藤は俺の威嚇に臆した様子もなく、ゆるりと口元を緩めて続ける。
「まあまあ。恥ずかしい秘密は冗談としても一ノ瀬さんには少し聞いておきたいことがあるので、ぜひとも話したいところですね」
「ふーん? なにを相談するんだ?」
「それは……内緒です」
「そうか」
斎藤が一ノ瀬に尋ねる内容というのは気になるところだが、しつこく聞くのも野暮というものだろう。少しだけ引っかかるものを感じながらも内心で首を振って振り払った。
会話も一段落がついたところでリュックから本を取り出して、いつものように読書の準備を進める。読み進めていたページを探してペラペラとめくっていく。
斎藤もそれ以上話すことはないようで、俺と同じように本棚から本を運んできた。
(なんか、あんまり変わらないな……)
隣に座る斎藤を横目に眺めながら胸の内でぼやく。凛とした澄まし顔で開いた本を眺める斎藤の様子は、普段とほとんど変わりない。その姿に一度は飲み込んだ僅かなわだかまりがまた湧いてきた。
喉に刺さった骨のように引っ掛かり、気になって仕方がない。付き合ったというのに、ここまで平然とされると昨日のことが嘘のように思えてくる。こっちは昨日からずっと意識しっぱなしだというのに、斎藤は少しも意識していないのだろうか?
「なあ、斎藤」
「はい? どうかしましたか?」
俺の問いかけに、本を持ったまま首を傾げてこっちを見てくる斎藤。きょとんとどこか抜けた表情が可愛らしい。俺を見る斎藤の表情には、やはり付き合い始めたことを気にしている素振りは無かった。
「あのさ、昨日のことだけど……俺達って付き合い始めたんだよな?」
わざわざ確認するのもどうしてか恥ずかしく顔が熱くなる。話している間にも羞恥に耐え切らなくなり、ぽりぽりと頬を掻いてついそっと視線を横にずらした。
斎藤のことだから、どうせ変わらず冷静に認めるだろう。そうなんとなく思っていたが、違った。
「は、はい。そうですよ……?」
斎藤は分かりやすく白肌の顔を茜色に染めて、本で鼻まで隠すように持ち上げる。そしてその本の上からそっとこちらを上目遣いに見上げきた。予想していた反応とは違う反応にこっちまで動揺が移りそうだ。
「お、おう。それならいいんだ。あまりそういうのを意識している素振りがなかったから、てっきり昨日のは幻かと……」
「そ、それは、気にしないように装っていただけです。あまり意識しすぎるのもよくないと思って。上手く話せなくなりそうでしたし」
「まあ、確かにな」
そういうことだったのか。斎藤の言う通り、斎藤が普通に接してくれたから普段通り話せていた。もし、斎藤が最初から意識していて気まずそうにしていたら、会話もままならなかっただろう。
「それなのに、そんな、つ、付き合っているとか確認してきたら、平静を装えるわけないじゃないですか」
斎藤は不満を声に混ぜて、ちょっぴりとだけ恨めし気に目を細めて睨んでくる。その目の下の頬には、まだ朱に染まった上頬が本の上に覗いていた。
その恥ずかしそうに見上げてくる姿は、斎藤が俺とのことを意識してくれているのだと教えてくれるのに十分なものだった。
「悪かった。でも、そんなに意識してくれてるのは、その、嬉しいぞ?」
少しだけ恥ずかしさはありつつも素直に気持ちを伝えると、斎藤はぷいっとそっぽを向いて前を向いてしまう。
「わ、分かりましたから。本を読みますので、もう変なことを聞いてこないでください」
膝に本を置いてぺらぺらと慌ただしくページを捲る斎藤の耳は真っ赤に染まってた。




