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【12/1発売】俺は知らないうちに学校一の美少女を口説いていたらしい〜バイト先の相談相手に俺の想い人の話をすると彼女はなぜか照れ始める〜  作者: 午前の緑茶
第二章 

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一ノ瀬和樹の示すもの

後書きにお知らせがあります!

 時間は平等に過ぎていく。柊さんに相談してから一週間以上経った。


 あの日から、柊さんのアドバイスに従って斎藤の抱えるなにかについて触れるのをやめた。それが功を奏したのかは分からないが、多少は斎藤が悲しみの笑みを浮かべることは減ったように思う。それは触れなければ曖昧な笑みを見せる必要がなくなったからだろう。


 ただ、よそよそしさというものは無くならなかった。あれからも微妙な壁を感じることが多い。踏み込まず踏み込ませず、それはまるで出会った最初のころを彷彿とさせた。


 それでも、あの時に比べれば豊かに色んな表情を見せてくれてる。だから、なんとなく斎藤は今のままを貫きたいという意志表示のようにも思えた。


 柊さんが言っていた通り、斎藤の望みが今の関係を維持したいというものなら、俺はそれに従うべきなのだろうか? 最近の斎藤の態度を振り返ると、告白にも迷いが出てくる。


「……はぁ」


「どうしたの、田中がため息なんて珍しいじゃん」


 意外そうに目を丸くして、俺の前の席に座る一ノ瀬。


「なんだよ」


「んー、最近元気なさそうだし、何かあったのかと思ってさ」


 少しだけ悩むように顎に人差し指を当てて、言葉を選ぶようにゆっくりと紡ぎだす。一ノ瀬にまで気付かれるとは、よほどおかしかったらしい。


 斎藤のプライベートに関わることなので話すか迷ったが、告白すると一ノ瀬には伝えてあったので、それも含めて相談した方がいいかもしれない。


「最近、微妙に斎藤が俺に対してよそよそしいんだ」


「なに、セクハラでもした?」


「違えよ」


 まったく、なにを言い出すんだ。流石にそんな嫌がられるようなことはしていない……はず。


「多分だが、斎藤はなにか悩みみたいなのを抱えているんだ。で、それを俺には踏み込ませたくないみたいで壁が微妙にある感じになってる」


「あー、そういうことね。まあ、それなら放っておくしかないでしょ。向こうが触れないでほしいと思っているなら」


「だよなー」


 一ノ瀬の返事は分かりきったものだった。現に今は柊さんのアドバイスに従ったことで、ある程度上手くいっている。俺さえ気にしなければ、いつもとなんら変わりはない。


「ただ、今の感じだと告白していいものか分からないんだよ」


「じゃあ、告白はまた別の時にしたらいいんじゃない? 別にホワイトデーに必ずしなきゃいけないわけじゃないんだし」


「そうか、そういう選択もあるのか」


 あっけらかんと軽く口にした提案は、予想外のものだった。


「もともと僕が提案したから田中も乗り気になったわけだし、別に今回じゃなくてもいいでしょ」


 一ノ瀬の言葉はとても納得できる。もともと一ノ瀬の提案にのって告白をする決意をしたわけだが、付き合うというものが未だにどういうものなのかは分かっていない。それでもあの斎藤のバレンタインの姿を見たから告白しようと思えた。


 だが今はその時と状況が異なる。斎藤との間にはあの時にはなかった壁があり、どこかよそよそしい。それならまた元に戻るまで待ってからでも遅くはないのかもしれない。


「そんなに悩んでいるってことは柊さんには相談したんでしょ? 何か言ってた?」


「ああ。今のままを維持するのがいいと言われたよ。何も触れずに今の関係を維持するのがいいって」


「まあ、そうだろうね」


 一ノ瀬は、うん、とゆっくり首を縦にふる。


「誰にだって踏み込まれたくない領域っていうのはあるしね。それは田中も分かっているから遠慮しているんでしょ?」


「ああ、そうだよ」


 これまでそういう相手が嫌がる部分を避けて、気にしないふりをして接してきたからこそ、俺は斎藤と親しくなることが出来た。


 本来だったら今回だって同じように振舞うべきだろう。

 だが、どうしても斎藤のあの辛いほほ笑みが脳裏にちらついて仕方がなかった。


「……やっぱり、これまで通り気にしないで接するのがいいんだよな?」


「さあね。それを決めるのは田中でしょ。自分自身で選択しなきゃいけないと思うよ」


 いつになく真剣な表情でじっと真っすぐにこちらを見つめてくる。そこにいつもの薄いほほ笑みはない。

 ただ、声音だけは優しくどこか語りかけるようだった。


「田中が、これからも友達として斎藤さんを接していくなら、触れないのが正解だと思うよ。それが斎藤さん側の望みでもあるわけだし。でも、今、悩んでいるんでしょ?」


「ああ」


「だったら、もっと悩めばいいさ。どうしてここまで悩むのか、これまではどうして悩まなかったのか。そこまで深く考えなよ」


 一ノ瀬の言葉は心の奥底まで響いて消えていく。だが、その余韻だけはいつまでも耳に残る。


「考えて考えて、それから決めるんだ。何が良いのかではなく、田中が何をしたいのか。それを見つけて選択したらいい。選んだ行動が良いかどうかなんて後になってみないと分からないんだから。考えるべきは君がなにをしたいのか、だよ」


 真摯に誠実に。まるでなにかヒントでも与えるように。一ノ瀬のセリフの数々が突き刺さっていく。


「決めるのは田中自身だよ。僕に言えるのはこれだけ。安易な考えに逃げて後悔だけはしないで」


「……分かった」


 俺が首を縦に振れば、一ノ瀬は、ふっ、といつもの軽い笑みを浮かべて去っていった。その後ろ姿を眺めながら、一ノ瀬の言葉を振り返る。


 俺が何をしたいのか。どうしてここまで悩むのか。その答えはまだ得ていない。だから、未だに触れないことが正解だと分かりつつも、それを肯定しきれないのだろう。


 相談したところで、行動するの俺自身であり、その行動を選ぶ権利は俺にある。俺はどうしたらいいのだろうか?


 悩みに答えは出ることなく、何も得ないままホワイトデーを迎えることになった。


 

 こんな区切りが悪いところで、お知らせを入れてすみません。かなり長いので興味ない方は読み飛ばしていただいて構いません(*・ω・)*_ _)ペコリ


 書籍の方についてのお知らせです。

 既に何人もの方に予約して頂いているみたいですが、7月1日にHJ文庫より刊行されます。


 一応新しい話の分が60,000字ほどあります。ですが『書き下ろしが60,000字程度』といっても分かりにくいと思います。

 具体的にはwebで投稿している斎藤視点の話はwebからの文章の引用はあっても、ほぼ書き下ろしで5話分ほどありますし、もちろんバイトの話なんかも増えています。

 あとは根本な設定のところから変えている部分もあるので、この小説を読んで楽しめた人なら100%面白いと思える新作、は言い過ぎかもしれませんが、そのぐらい新鮮味を感じて読んでもらえると思います。あ、もちろんストーリーの進行自体は変わっていません。


 元々書籍化の話が来た際に、新しい人はもちろん、これまで読んでくださった方々でも楽しんでもらえるようにしようとは思っていました。

 ずっと楽しく書いてこれたのは読んで下さった方がいるからですし。

 既に読んでいるのに応援のために買ってくださる方々がいると聞いて、お金を出すだけの価値のあるものにしようと思い、今回色々書き下ろしさせてもらいました。


 価格はおおよそ700円程のようです。普通に高いですよね。漫画ならワンコイン以下で買えるのに、それなら買わないでwebだけでいいわ、って思うのも当然だと思います。

 そんな中でも買おうかな、と思った酔狂な方が少しでもいて下さったなら嬉しいです。webとは違う2人の新しい面や物語を楽しんで頂けると思います。


 書籍で変わった部分や2人の話のかけ合いなんかは、ネタバレにならない範囲でそのうち特別編の形で一回はお話として紹介しようと思っていますのでお待ちください。

 

 イラスト担当は葛坊煽様です。素敵なイラストを書いてくださいました。

 今回はカバーイラストの公開の許可が出たので、書籍は買うつもりはないよって方もぜひ↓↓↓のリンクから見てください。ついでにフォローなんかもして頂けると嬉しいです。


 最後に一年以上もの間、ずっと書いてこれたのは読んで下さった皆様のおかげです。これからもwebで投稿していきますのでよろしくお願いします( ੭ ˙ω˙ )੭

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新作『女性不信のオタクくん、推しの歌い手について隣に熱く語った結果〜隣の席の黒髪堅物山田さんがこっそり囁いてきた「その歌い手の正体、私だよ」』は↓↓↓から

https://book1.adouzi.eu.org/n5501hm/

本作品は HJ文庫より7/1発売中です


E39jDU9VEAM_tDa?format=jpg&name=900x900
― 新着の感想 ―
[一言] 書籍 買います イラスト もう少し 変化が欲しいなぁ バイトの時はエクステンションつけてますとか(←これすごい良いと思うのだけど) 化粧の仕方が違うとか(口紅色がぜんぜんちがうとか) 絵…
[良い点] 一ノ瀬くんには多分一生足を向けて寝られないと後で気づくんですね というかこやつ経験値高過ぎだなー ホントに高校生か
[一言] 一ノ瀬くんの一見突き放すようなアドバイスいいですね(*'▽'*) 相手の意思を尊重する姿勢がいいです(^^) 田中くんの本当にしたいことを上手く引き出してくれたのではないでしょうか? 次回も…
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