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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
終章 激闘王国編

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最終回 邪竜は幼妻とイチャイチャしたい。

最終回です。

 光が弾ける。


 魔王ルドギニアの巨躯が、縦に割れる。

 光が溢れると、古い遺跡のように崩れはじめた。


 我は着地する。

 剣を振り、聖剣を鞘に収めた。


 兄を見上げる。

 すると、ルドギニアはかろうじて残っている顎門を我に差し出した。

 ふんと息を荒くし、目を細める。


「何故だ?」


 問う。

 牙が1本ぼろりとこぼれ落ちた。


「何故、貴様は人間を評価する。古代の人間たちが何をやったのか、お前も知っておろう」

「はっきり言おう、ルドギニアよ」


 顎を上げ、我は宣言通りはっきりと答えた。


「我もさほど人間というものが好きではない」

「馬鹿な! ならば何故……!?」


 その答えをいうのに、我は1度舌の乾きを潤さなければならなかった。

 やがて答える。


「はじめは対抗心だった」


 そう。

 はじめは対抗心だったのだ。

 優秀な兄への対抗心。


 ただ兄のいうことを聞きたくない。

 そんな些細な稚気(ちき)から始まった。


「愚かな……」


 ルドギニアは唸る。

 半ば呆れたように。

 我も同意だった。

 叱られた子供のように肩をすくめる。


「しかし、今は違う」

「ほう……。では、今はどうだというのだ。一体、何がお前をそうさせる!」

「なに、簡単な理由だ」



 我が妻は人間だ。



「は?」


 ルドギニアは目を丸くする。

 滑稽だった。

 長い年月の間、世界を震撼させ続けた魔王が、初めてマジックを間近で見た子供のように驚いていたのだ。


「我は世界を救うとか、人間の世界を救うとか。そういう壮大な杓子で、お主を倒したのではない」


 ひとえに娘のため。

 妻のため。

 家族のため。

 我を慕う配下のため。


 その生活のため。


「我は守っただけだ。妻といつまでもイチャイチャしてられる空間を」

「何を言っているのだ、お前は! 狂ったのか!!」

「お前にはわかるまいよ、ルドギニア」


 世界の平和などよりも……。その再生よりも……。


 愛するものと睦み合うことの大切さを。

 愛を語る重大さを。


「お前は我と妻がいるダンジョンに侵入した。そして我は撃退した。我にとって、今起きている大事(だいじ)は、ただそれだけのことなのだ」

「ふ、ふざけるな! お前と妻の寝床を襲ったから報復しにきた――貴様は今、そういっているのだぞ!」


「それが重要なのだ!!」


 我は一喝する。

 ルドギニアの頬の肉がこそげる。


「我と妻、そして家族の生活を荒らすものがいようなら、我は戦う。魔族であれ、モンスターであれ、別なダンジョンマスターであれ、そして人間であれ――だ」


 ルドギニアは目を細める。

 答えは返ってこなかった。

 ついにその顎は、落ちていた。


 しかし、呪いの籠もった瞳には、やはり「愚かな」と言っているように聞こえた。


 ルドギニアの身体がゆっくりと朽ちていく。

 静かに――。その断末魔の叫びすら存在しなかった。


 砂城が崩れるがごとく――。

 魔王の最後は、異様なほど静かだった。


 残ったのは、灰だけだ。


 風に巻かれ、晴天の空に吹き上がる。


 誰かが言った。


「勝った……」


 はじめは誰もが疑問系だった。

 信じられなかったのだ。

 本当に魔王を倒したのか、と。


 しかし、その現実は波のように伝播していく。


 やがて歓声が津波のように返ってきた。


「やった!」

「魔王に勝ったぞ!」

「滅びたんだ!」

「我々の勝利だ!!」


 大竜騎士団、そしてカステラッド王国で長年虐げられた人間たちは、拳を突き上げる。

 笑顔が灯り、青い空に向かって輝いた。


 自然と拍手が巻き起こり、万歳と手を挙げるものもいる。

 中には我の名を連呼するものもいた。


 カステラッド王国は沸騰した。


「ガーデリアル様」


 ルドギニアの灰を呆然と見ていた我の前に跪いたのは、大竜騎士団団長ミリニアだった。


「魔王を討ち! カステラッド王国を解放いただいたこと、感謝の言葉もありません。本当にありがとうございました」

「感謝などする必要はない。我は我の家族と身の回りのものを守ったにすぎん」

「心得ております。しかし、あなた様にどうしても進言したいことがあります」


 ミリニアはさらに頭を垂れ、我に言った。


「どうか。カステラッド王国の国王となっていただきたい。魔王を討った勇者であるあなた様こそが、この国を治めるべきです」


 我は顎をさする。


 悪くないか。

 ここにはルドギニアが作った鉄壁のダンジョンがある。

 人間もいる。

 冒険者もいる。

 強大なダンジョンを経営するのも、楽しみではある。


 むろん、我は――。


「断る」


 あっさりと否定した。


 ミリニアは顔を上げる。

 予想外の返答に驚いている様子だった。


 確かに玉座は魅力的だ。

 豊富な人材を動かすことが出来る点において、少し楽しみではある。


「な、何故?」

「第1に我は人間が好かん」


 我の周りにいる家族は好きだ。

 しかし、それ以外の人間が好きかと言われれば、そうではない。

 王が人間嫌いでは、国の経営が立ちゆくとは思えぬ。


「第2に我には家族がいる。その生活を守れれば、我はそれでいい」

「しかし、我々はどうやって再建していけば」

「そなたがいるではない。そなたの周りには、そなたのためなら命をかけられるものがいるのではないか?」


 ミリニアは周りを見る。

 騎士たちが笑っている。

 親指を立て、王女を支持するものがいた。


「さて……。では、行くか」

「もう行かれるのですか!? せめて何か礼をさせてください。そうだ。盛大に祭りをしましょう。それまでは――」

「生憎と人間の料理は好かぬ。それに一刻も早くタフターン山を復興しなければならないのでな。魔族も残っておるし」


 ルドギニアは討たれた。

 しかし、まだ蒼竜騎士団、炎竜騎士団、破竜騎士団は残っている。

 魔王が討たれたと聞けば、必ず報復にやってくるであろう。


「時間はないぞ、ミリニア。祭りはそれからでもいいであろう」

「はい……」


 我は背を向ける。

 ミリニアは再び頭を下げた。

 その後ろで、騎士が、カステラッド王国の国民が、1人の勇者の背中に向けて、頭を垂れていた。


 我は家族達が待つ場所に戻る。

 先頭に立っていたのは、我が妻だった。


「お帰り、ガーディ」

「う、うむ……」

「どうしたの?」


 ニーアは首を傾げる。

 我は咳を払った。


「わ、我の人間の姿はどうかのぅ?」

「かっこいいよ」

「そ、そうか! それは良かった」


 てっきり怒られるかと思っていたが、好評で何よりだった。


「でも、竜の方が何倍もカッコいい」


 両手を回して、ニーアは告白する。

 うん。やっぱりそうであろうな。


「ああ。そうだ。その前にニーアよ。手を差し出すがよい」

「?」


 ニーアは手を差し出す。

 その手に我は聖剣の刃をそっと乗せた。

 我が妻は輝き出す。


「ガーディ、これは?」

「聖剣の魔力の一部をお主に送っている。これでそなたの寿命の問題も解決するであろう」

「ホント! ガーディ、ホント?」

「うむ。良かったな、ニーア。これでまだまだお主と生きていけるぞ」


 本当に良かった。

 聖剣の力ならあるいはとは思ってはいたのだが。

 よもや我がその力を制御出来るとは思わなかった。

 結果として、我が妻の命を救うことが出来たのは、僥倖だ。


 我は密かに聖剣に感謝する。


 しかし、お主との付き合いはこの刹那だけだ。

 我は竜。

 そなたを扱うものは、勇者であらねばならん。


 聖剣をそっと置く。


 すると、たちまち大竜へと変化した。


 我は顎を振り、軽く翼と尻尾を動かす。

 人間の姿も動きやすかったが、やはり我はこっちの方が馴染むな。


「やっぱりニーアは、こっちのガーディがいい」


 ニーアの瞳が輝く。

 すると、早速我の背に乗った。

 スリスリと鱗の感触を確かめる。


 我も妻の肌の感触を味わう。

 やはり我も竜の方がいいな。


「さて、お主達も乗るがよい」

「乗るってどういうことですか、ガーディ様」

「タフターン山に戻るからに決まっておるだろう」


「「え? どうやって?」」


 声を揃えたのは、フラリルとルニアだった。


「知れたこと。飛んで帰るに決まっている」

「ええ! 主、飛べたのですか!?」


 素っ頓狂な声を上げたのは、デュークだった。


 我はムッと目を細めた。


「デューク、貴様だけでも徒歩で帰るか?」

「いや、それはそのぉ――」


 デュークはどう反応していいかわからず、もぞもぞと動く。

 まるで乙女が小水を我慢しているような仕草に、一同は爆笑する。


「良い! 今日は気分が良い。無礼講だ。さあ、乗れ」

「は! 有り難き幸せ!」


 デューク以下、騎行部隊、大魔導の魔導部隊を順に乗り込む。

 ドワーフたちは断った。

 土と鉄の種族である彼らにとっては、空を飛ぶなど以ての外らしい。

 残った竜骨兵とともに、ダンジョンから帰るといった。


 我は聖剣を銜え上げた。


「では、行くぞ」


 我は翼をはためかせる。

 風が嵐のように巻き起こった。


 ミリニアたちが手を振るのが見える。

 我は今一度話しかけた。


「ミリニア、努々忘れるでないぞ」

「……?」

「もし、そなたを含めた子孫が、我の前に立ちはだかるというなら容赦はせん。我は人間の味方ではない。我の家族の味方なのだ」


 ミリニアは直立する。

 顎を絞め、キリッとした顔を我に向けた。

 すでにその表情には、王者の相が浮き出ていた。


「心得ておきます」

「だが、我が試練に挑みたいというなら話は別だ。……それまで我は、この聖剣を守護しよう。次なる勇者が現れるまで」


 その言葉を最後に、我は飛び上がった。


 大きく翼を動かし、風を捕まえる。

 あっという間に、青い空の向こうへと飛びだって行った。


「ばいばーい!」

「カステラッド、さようなら!」


 フラリルとルニアが地上に向かって手を振った。


 その横でデュークが1対の赤い光を輝かせる。


「帰ったら忙しそうですな」

「うむ。デューク、大魔導。これからも頼むぞ」

「はっ!」

「お任せを」


 すると、空の上で我の腹が鳴った。

 大蛙のような低い唸りに、フランはクスクスと笑う。


「帰ったら、まずは食事ですね」

「そうだな。久しくフランの飯も食べておらんし」

「無理なダイエットはもうおやめください」

「我もこりごりだ」


 我は項垂れる。


「でも、シュッとしてるパパも好き」

「うん。かっこいい。空飛べるし」


 フラリルとルニアは、ニーアと同じく背中の鱗を撫でる。


 好きか。カッコいいのか。

 どうしたのものかのぅ。

 もうちょっとこのままでいるのも悪くないか。


「だーめ。ガーディは大きい方がいいの!」


 反対したのはニーアだった。


 決まりのようだ。

 さすがに、正妻の意見には誰も逆らえない。


「ガーディ、食事とか復興よりも大事なことがある」

「な、なんだ?」

「わからない?」


 ニーアは首を傾げる。


 なるほど。

 我は妻の顔を見て、すべてを察した。


「よくわかった。それは最優先でしなければな」

「そう。世界救うよりも大事」

「帰ったら、早速しよう」

「うん。楽しみ」


 ニーアは頷く。

 我も了承した。



 そうだ。

 

 帰ったら、ペロペロしよう。




 ◆◆◆



 数百年後――。


 1人の少年が山に設けられた扉の前に立っていた。

 扉は鉄製で、分厚い。

 巨人すら通れるほどの大きさだった。


 しかし、少年は気圧されることなく、扉を見上げた。


 否――。

 意志の塊のような眼光は、はっきりと山の頂上へと向けられていた。


 山の名前はタフターン。

 その頂上には、聖剣が刺さり、守護竜が勇者を待ち構えているという。


 少年は勇気を振り絞り、1歩踏み出す。


 瞬間、落雷のような声が聞こえてきた。



『ふははははははは……。よくぞ来たな、小さな勇者よ。歓迎するぞ』


『3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。』はこれにて最終回です。ここまでお読みいただきありがとうございます。

初めての人外主人公だったのですが、いかがだったでしょうか?

ご感想、評価などをお待ちしております。


今後もなろうの方では活動していきますので、よろしくお願いします。


改めてありがとうございました。

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