表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
終章 激闘王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/56

第48話 腹ぺこ邪竜が食べたかったもの。

 大竜は天に向かい、甲高く嘶いた。


 宣戦を布告するような竜の啼き声。

 カステラッド王国城外を越えてこだましていく。

 空気が震え、落雷のように轟いた。


 悪天の中で佇む禍々しい姿は、まさに邪竜であった。


 さらに竜が開けた穴から現れたのは、モンスターだ。


 槍を手にした竜骨兵。

 鶴嘴を手にしたドワーフ。

 ローブをなびかせた大魔導。

 闇色の鎧を身に纏ったさまよえる騎士。


 地獄の穴から悪鬼たちは次々と這い出てくる。

 魔族で埋め尽くされた群衆に目を留めると、迷うことなく突っ込んでいった。


「ぎぃゃああああああああ!!」


 汚い悲鳴が広場のあちこちから聞こえた。

 武器を持たず、お祭り気分が抜けていない魔族たちは、突如現れたモンスターの餌食になっていった。


 しかも、今カステラッド王国には精鋭部隊がいない。

 すべて国境の戦線へと送り込まれていた。

 ここにいるのは、最高でBクラスの雑魚モンスターばかり。

 対して、相手はSクラスを揃えた精鋭だ。


 竜骨兵の槍に貫かれ、ドワーフの鶴嘴に頭を割られる。

 大魔導の魔法になぎ払われ、騎士たちの突進力に突き飛ばされていった。


 先ほどまでのお祭りは一点、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


 魔族とダンジョンモンスターたちの頭上で、1発の銃弾が飛んでいく。


 銃弾は、磔にされていた獣人少女の拘束をはじき飛ばした。

 火の中へと落ちそうになった少女を、一陣の風がさらう。


「ニーアさん!」


 つぶった目を開け、フランは叫ぶ。

 フードを上げ、顔を見せたのは、同じく竜の巫女であるニーアだった。


「ごめんね、フラン」

「ううん。ニーアママ、ナイスタイミングだよ!」


 声は後ろから聞こえた。

 金髪の少女――フラリルが、拘束していた鉄輪を無理矢理外しているところだった。横のルニアの拘束も外すと、2人とも側に近づいてくる。


 ルニアは久しぶりの母親の再会に感動を隠しきれなかった。


「ニーアママ、良かった。生きてたんだね」

「心配させてごめんね、ルニア」


 たまらずルニアは母親の胸に頭を預ける。

 綺麗な銀髪を、ニーアは「いーこいーこ」と撫でた。


 フランは久々の親子の再会に、もらい泣きする。


「皆さん、ご無事で何よりです」

「良かったね、ルニア。ニーアママが無事で」

「うん。良かった」


 涙を払う。


「ともかく、みんなここから脱出して」


 ふと周りを見れば、戦地のど真ん中だった。

 竜骨兵が奮戦し、デュークたちが引きつけてくれてはいるが、危険であることに変わりはない。


 母親の提案にルニアは、銀髪を振った。


「ううん。ルニアも戦う」


 近くに落ちていた剣を拾い上げる。


「フラリルもそうするでしょ」


 姉妹の腕を掴んだ。

 フラリルは顔を上げて、呆然としていた

 視線の先を追うと、パパ――ガーデリアルの方だ。


「パパ、大丈夫かな」

「ホントだ。フラフラしているね」


 2人は祈るように手を組む。

 それぞれの肩にニーアとフラリルが手を置いた。


「パパなら大丈夫」

「ガーディ様ならフランたちを救ってくれるはずです」


 ルニアとフラリルは同時に頷く。


「「うん。だって、私たちのパパなんだもの」」


 子供たちの声援は、魔王と対峙する大竜へと届けられた。



 ◆◆◆



 腹が減った……。


 我は宿敵ルドギニアと対面しながら、つぶやいていた。

 間抜けなことは百も承知だ。

 それでも我はそういわずにいられなかった。


 ルドギニアは呵々と笑う。

 すると、我が這い出てきた穴を見つめ、すべてを喝破した。


「なるほど。破竜騎士団を使って、我が地中から強襲したように。そなたもまたダンジョンから穴を伸ばし、このカステラッド王国までつなげたというわけか」


「…………」


「だが、そなたには地竜のように地中を潜行する能力があるモンスターはいない。おそらくドワーフによる人海戦術を使ったのだろう。時間がかかったはずだ。我と対決することが決めてから、穴を開け始めたのだな」


「…………」


「あっぱれとほめておこう。そなたの慧眼は、我の知力を越えた。よもやそんなことを企み、あまつさえ死を偽装し、我を欺いた」


「…………」


「タフターン山の頂上が派手に吹っ飛んだのは、赤竜の炎でもなければ、地竜が起こした地響きでもない。そなた自身が、爆弾を使って(ヽヽヽヽヽヽ)吹き飛ばしたのだろう。そしてそなたは生き埋めを演出し、地下に作っておいた一時的な避難場所に身を潜めていたというわけだ」


 どうだ? 間違いあるまい?


 まるで己の推理を誇るようにルドギニアはまくしたてた。


 我はそれをぼんやりとした眼で見ていた。

 その正否について何もいわない。

 何もいえなかった。


 先ほどまで上機嫌に舌を回していたルドギニアは、一旦言葉を止める。

 半分意識を失いかけている我を見つめた。


 眉間に深い皺が寄る。


「しかし、我が同胞よ!! その姿は何だ!!」


 叫んだ。

 空気がビリビリと震える。

 広場で争う魔族とモンスターは、2匹の竜を注視した。


 いや、見たのはルドギニアではない。

 我の変わり果てた姿に、目を留めたのだ


「ぐふふふ……」


 ふらつきながら我はそれでも虚勢を張る。

 牙から涎を滴らせながら、笑みを浮かべた。


 我の姿は一変していた。


 長い首。

 雄々しい翼。

 鋭い顎門。

 その点に関しては変わらぬ。


 だが我の最大の特徴である大きな腹が、空気がなくなった風船のようにしぼんでいた。

 3000年間、腹の底に埋もれていた手は枯れ木のように歪曲し、目も若干落ち窪んでいる。


 両足で立ててはいるが、突風でも吹けば倒れてしまうほどよたよたしていた。


「ルドギニア……。我が兄よ」


 というと、城内はざわめく。

 声を無視し、我は続けた。


「敵の心配とは余裕だな」

「余裕にもなる。我を驚かせた奇策家が現れてみれば、死線をさまよっているのだからな」


 荒い息を吐き出す我を睨む。

 全くその通りだ。

 我はいつ死んでもおかしくない状態だった。


「なに……。少々人間がやるような体重調整をな。……ああ、なんといったか」

「ダイエットか……

「そうだ。ルドギニアよ。人間嫌いな癖によく知っているではないか」

「ほざくな、愚弟よ!!」


 ルドギニアの声は再び大気をゆがめる。


「そんな姿で何をしにきた! よもやこの魔王に一撃を入れようというわけではないだろうな!」


 怒れるルドギニア。

 我は再び呵々と笑う。


「決まっている。お主に会うためだ」

「はあ!?」


 我の腹には多くの古代の兵器が詰まっていた。

 中には高射砲のような大きなものまで入っていた。

 それらはタフターン山の防衛の一助として活躍した

 逆に、その重量は我の膂力を超え、我の活動範囲を狭める結果となった。


 故に我は決断した。

 作戦第2号――。


 それは我がダイエットをし(ヽヽヽヽヽヽヽ)、魔王ルドギニアと直接対決するための作戦だった。


「我はすべての兵器を放棄し、腹の中の空にして、そなたの前に現れたというわけだ」


 落ち窪んだ眼窩の向こうで、眼光を光らせる。


 渾身の秘密の暴露に対して、ルドギニアはあっさりと頷く。


「なるほど。タフターン山に大量の兵器が残されていたのはそのためか」


 すると、クツクツと笑い始める。

 やがて世界の端まで届くのではないかと思うほど、大笑を轟かせた。

 そして――。


「馬鹿か、貴様!!」


 笑ったかと思えば、飛んできたのは罵倒だった。


「ダイエットだと? 我を倒すための作戦だと……? 愚かなり! 全くここまで愚弟だとは思わなかったぞ、ガーデリアル!」

「ああ……」


 我も思う。


 まさに言葉通り、腹が減って死にそうになっていた。


 人間の子供が両親に申告するならまだしも、我は竜だ。

 今から魔王と戦うものが、死にそうになっていては、武勇伝にはならない。

 ただの喜劇だ。


「ここからどうするのだ? 国にある武器をまとめて飲み込むか? カステラッドは我のダンジョンだ。そなたのものではないぞ!」


 全く同意だ。

 わざわざ説明をいれてくれた魔王に、賛辞を送ってやりたいほどだった。


 カステラッド王国にある武具は、すべてルドギニアのもの。

 それは疑いの余地はない。


 だが、ルドギニアは知らぬまい。

 なぜ、我が宝物をため込んだのか。

 古代の兵器を、我が身が動かなくなるまで飲み込み続けたかを。


 そなたは知らぬまい。


「腹が減ったよ、ルドギニア」

「そうか。ならば今楽にしてやろう。間抜けな愚弟の顔を、これ以上見てはおれん」

「我はずっと腹が減っていたのだ、ルドギニア。3000年の間、な」


「は? 貴様、何を言っている」


 ルドギニアは眉をひそめる。


 そうだ。

 我はずっと腹が減っていた。

 3000年間ずっと。


 限りのない飢えを満たすため、我は人の兵器を飲み込み続けた。


 火薬を使用した銃器。

 科学という技術を使った熱兵器。

 あるいは、冒険者が持つなもなき武具。


 槍、弓、鶴嘴、モーニングスター、杖、爪、槌……。


 そして剣……。


 しかし、そのどれも我の飢えを満たせなかった。


 我はずっと我慢していたのだ。

 何度もいうが、3000年ずっとだ。


 それは我が前にありながら、食べることを禁止されていた。


 芳醇な香り……。

 噛み応え良さそうな外見……。

 想像するだけで涎が出てくる。


「やっとだ。やっとなのだ、ルドギニア」


 今宵、我が悲願は成就する。


「だから、貴様は何をいって――」


 すると、我は顎を開ける。

 赤い舌に載っていたものを見て、ルドギニアの顔色が一気に変わった。


「まさか……。聖剣……!!」


 3000年間、片時も離れず守り続けた。

 ついぞその真の持ち主は現れなかったが、我は今この時確信していた。


 聖剣は我が食べるためにあったのだ。


 我の餌となり、栄養となり、そして我に魔王を撃たせるためにあったのだ。


 いや、もうそんなことはどうでもよい。

 やっと聖剣を食べることができる。

 もはやその喜びの前では、世界の趨勢などどうでも良かった。


 我は感謝を示すため、人間の作法に則った。



「いただきます!」


感謝のいただきます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ