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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
終章 激闘王国編

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第47話 邪竜復活!

 世界が炎に揺れていた。


 大地は焼かれ、海は干上がり、空は黒く染まる。

 ついに現れたのは、荒涼とした赤い大地だった。


 誰もいなくなった世界で鎮座していたのは、2匹の巨竜だった。


 守護竜ガーデリアル。

 魔王竜ルドギニア。


 神に世界の再生を託された2人は、激しく言い争う。


 ガーデリアルは、人間の再生を望んだ。

 一方、ルドギニアは、人間以上の存在の創造を望んだ。


 世界の再生を循環させる鍵として、2匹の竜は知能を持つ生物を望んだが、その考えの根本はまるで違っていた。


 2人の議論は、平行線のまま、ついに袂を分かつことになる。


 ガーデリアルは人間を再生した。

 ルドギニアは魔族という人間に変わる種族を生み出した。


 それは、人間と魔族の長い戦いの始まりでもあった。



 ◆◆◆



 ルドギニアは人の気配に気づき、その巨眼を動かした。


 視界に見えたのは、ジョリオンだ。

 国王は動いた竜を見て、肩をそびやかす。


「申し訳ありません。お眠りでしたか、我が主」

「夢を見た」

「夢……で、ございますか?」

「昔の夢だ。ガーデリアルとのな」

「……1つ愚問するのをお許しください」

「許す」


 ジョリオンは胸に手を置く。

 恭しく傅いた。


「主は後悔をされていますか?」

「ガーデリアルを討ったことか……」


 ルドギニアの御子は複雑な表情を浮かべる。

 不興を買うと思ったにも関わらず、ルドギニアがあっさりと答えてしまったからだろう。


 その御子の顔を見て、ルドギニアの表情は愉悦に歪む。


「あれは我と同じ腹より生まれしものではあるが、それを1度として気にしたことはない」

「では、何故今の今まで放置しておいたのですか?」


 ルドギニアには幾度かガーデリアルを葬る機会はあった。

 そもそも、厄介な存在であるなら、山に封印するより殺してしまった方が手っ取り早いはずだ。


 ルドギニアはそうしなかった。


 情をかけたと思われても仕方ない。


「考えを変えると思ったのだ」

「考えを変える?」


 ジョリオンは眉根をひそめる。


「言葉通りの意味だ。……それよりも我に何か言づてがあったのではないか」

「はっ」


 主の言葉に興味はあったが、ジョリオンは気を取り直す。

 もう1度、頭を垂れた後、報告した。


「我が娘が、タフターン山の残党を捕らえました」

「ほう。ミリニアがか」

「竜の巫女と子供が含まれるそうです」

「初陣であったな。なかなかの手柄ではないか。のう、父上殿」

「滅相もありません、主」


 ルドギニアは首をもたげる。

 ひらりと巨大樹のような尻尾を動かした。


「これでガーデリアルも完全に終わりだな」

「仰る通りかと」

「確か。出征の前に、盛大なパーティーを開くといっていたが」


 ルドギニアは世界進行を本気で考えていた。


 蒼竜騎士団。

 破竜騎士団。

 炎竜騎士団。

 そして大竜騎士団を先頭に、手始めに周辺諸国を版図とする。


 ゆくゆくは世界から人間を一掃するつもりだった。


 主の問いに、ジョリオンは頷く。


「そやつらの罪状はどうなる」

「王国動乱罪として、火あぶりの刑が打倒かと……」

「ならば、盛大にやるが良い。戦勝祈願の余興としては面白かろう」

「御意に」


 ジョリオンは再び頭を垂れる。

 そのまま下がった。


 ルドギニアは天井を見上げる。


「この地下の空間は気に入っていたのだがな」


 それはもう叶わないであろう。


 もうすぐ世界は、ルドギニアは名実ともに王となるのだ。



 ◆◆◆



 数日後、カステラッド王国王都リバール。


 その中心に立つカステラッド城の広場は、無数の人で埋め尽くされていた。

 歯をむき出し、拳を突き上げ、眼は狂気に彩られている。

 犬の遠吠えのような歓声は、王都の城壁外まで鳴り響いていた。


 広場の中央に3人の娘がいた。


 1人は獣人の少女。

 2人目は銀髪の美しい少女と、同じく金髪の少女だった。


 十字に貼り付けにされ、その下に大量の薪が並べられていた。

 今から火刑に処されるのは明白だ。

 すでに周りでは「殺せ」とコールがかかっている。

 城内は「殺せ」という文字で一色となっていた。


 その異様な雰囲気の中、王城のテラスに人が立つ。


 カステラッド王国国王ジョリオン・アスヒリア・カステラッドだった。


 周りには警護の兵。

 そして各国の要人たちが囲んでいる。

 祭りだと聞いて招待された彼らは、異様な光景に戸惑っていた。


 ジョリオンの姿を認めた時、集められた国民たちのボルテージは収まるどころ、さらに高まっていく。

 王の名を連呼し、地面を叩き、王国を賛美する言葉を贈った。


 歓声に手を振って応えると、ジョリオンは高らかに宣言する。


「我が同胞よ! 時は来た!!」


 拳を振るう。

 耳をつんざくような吠声が返ってきた。


「もはや我々は人の中で生活することはなくなった。国境に縛られることはない。この世界そのものが我らの土地。すべては同胞諸君らのものだ!!」


「おおおおおおおおおおお!!!!」


 ジョリオンはさらにまくし立てる。


「我は国王として最後に命じる。同胞たちよ! 今こそ人間の皮を破れ! 何も恐れることはない! この世界は魔族のものとなるのだ!!」


「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」


 歓声でもなければ、悲鳴でもなかった。

 まるで産声のような雄叫びが沸き起こる。


 すると、集まった人々が次々と異形の姿へと変わった。

 普段隠している角や尾、あるいは羽を存分に広げ、血気を漲らせる。

 筋肉を隆起させ、人がけだものへと姿を変えた。


「これはどういうことか、ジョリオン王!!」


 立ち上がり、驚いたのは、式典に招かれた要人たちだった。

 周囲の光景を見ながら、憤り、王を叱責するものすらいた。


 対してジョリオンはゆっくりと振り返った。

 赤いマントを翻し、唇に愉悦を讃えて、要人達を見つめた。


「簡単だ、要人がた。……つまりはこういうことだよ」


 するとジョリオンの身体が縦に割れる。

 人間という“服”を脱いだそこから現れたのは、赤黒い巨大な竜だった。


「かあああああ……」


 首をもたげ、低く嘶く。

 要人たちは総じて腰を抜かし、広いテラス一杯に鎮座した竜の姿を認めた。


「魔王……」


 1人の要人が呟く。

 魔王の姿は、いくつもの伝承の中で伝えられてきた。


 赤黒い肌を持つ大竜。


 魔王は人間との和睦後、地下に潜ったといわれてきた。

 そこから魔族の姿もめっきりなくなった、と。


 だが、今目の前にある非現実な存在はなんだ。


 要人たちはそれぞれ自問するが、有効な答えなど返ってはこない。

 ただ1つだけ確定しているのは、このままでは殺されるということだ。


 要人たちは悲鳴を上げながら、王城の中へ逃げていく。


 数百年ぶりに地上に出たルドギニアは、歓声を送る同胞たちの方を向いた。


 人の皮を脱いだ魔族たちを見ながら、叫ぶ。


「魔王ルドギニアは、ここに復活した!」


「ルドギニア様!」

「おめでとうございます」

「お待ちしておりました!!」


「すでに我を悩ませる聖剣は、守護竜とともに消滅した。今こそ、我らの世界を作る時だ!」


「おおおおおおおお!!」

「魔族の世界を!」

「魔界の創成を!」


「決起せよ! 同胞よ!」


 ルドギニア!

 ルドギニア!!


 ルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニアルドギニア!


 王の名前を呼ぶ。


 魔族たちの声が呪詛のように広がった。

 嵐を呼び寄せ、忌々しい太陽の光を遮る。

 落雷が魔族を祝福し、大量の雨が国の闇を暴いていった。


 王の宣言は遠く、カステラッド国境で待ち構えていた騎士団たちに響く。


 蒼竜騎士団は北を。

 破竜騎士団は西を。

 炎竜騎士団は東へと進行した。


 突然の竜の侵攻に、他国の国境警備兵達は為す術なく蹂躙されていく。

 その勢いは留まることを知らず、刷毛でペンキを塗るかのごとく、帝国の首都を目指した。


「狼煙を挙げよ! 今宵こそ魔族決起の日とするのだ!!」


 広場に張り付けにされた少女の足下に、火が付けられる。

 油をよく含んだ木は、雨の中にもかかわらず、大きな火柱を上げた。


 甲高い歓声が上がる。

 手を叩き、地面を踏みならし、魔族たちは踊り狂う。

 広場は、今まさにクライマックスを迎えようとしていた。


 ドゥウオオオオオオオンン!


 鈍い轟音が空気を震わせた。


 見ると、城の西側が崩れている。

 魔族たちはそれも催しの一環だと勘違いし、歓声を上げた。


 だが、違う。


「あれは――」


 ルドギニアは目を細めた。

 そこはダンジョンの入り口がある場所だった。

 故に、崩れ落ちた建物の下は、ぽっかりと穴が開いていた。


 ルドギニアの巨躯ですら通り抜け可能な巨大な穴。


 穴の闇から現れたのは、赤い瞳。

 さらに鋭い刃のような牙。

 長い首だった。


「まさか――」


 のそりとそれ(ヽヽ)は穴から這い出てくる。

 特徴的な大きな腹を抜き、最後に尻尾を振り回した。

 全体像が現れた瞬間、天をも覆うほどの大翼を解放する。


 竜だった。


 ルドギニアに負けないほどの巨躯を持つ大竜。


 魔王は、息を呑む。


 大竜はルドギニアを見て、歓喜するように甲高く嘶く。

 すると、赤い目で睨んだ。


「邪竜だ!」


 叫んだのは、先ほど王城の中に引っ込んだ要人の1人だった。

 嵐の中、向かい合う2匹の大竜。

 その禍々しい姿は、この世の終わりを想起させるに十分だった。


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