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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
終章 激闘王国編

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第46話 竜の乙女たち

ちょっと長めなのでお気を付け下さい。

 魔王竜ルドギニアは、カステラッド王国の地下から千里眼でタフターン山の様子を見つめていた。


 激しい攻撃の末、タフターン山の頂上は吹き飛んでいた。

 目で見てわかるほど、標高が低くなっている。

 硬い岩石が転がり、時折吹く風に砂埃が舞っていた。


 ガーデリアルの姿はない。


 重い岩石に圧死したか、それとも赤竜の炎で消し飛ばされたか。

 定かではないが、大竜の姿はどこにもなかった。


「おめでとうございます。ルドギニア様」


 振り返ったのは、カステラッド王国国王にして、ルドギニアの御子(みこ)ジョリオン・アスヒリア・カステラッドだった。


 対して、ルドギニアは唸りを上げた。

 それは兄弟竜であるガーデリアルに対しての、鎮魂もあったのかもしれない。


「馬鹿な弟だ。大人しく我が軍門に下っておれば良いものを」

「ともかく、これで後顧の憂いは断ちました」

「うむ。いよいよだ、ジョリオン」

「では、あの計画を」


 ルドギニアは大きく首を動かした。


「魔族の復権を。そして今度こそ、我は世界を制する」


 ガーデリアルの終焉。

 ルドギニアにとっては、始まりだった。


 力は十分蓄えた。

 人間側の切り札であった聖剣も、土の中だ。

 今度こそ魔族による支配する。


 タフターンの惨状は、まさにその狼煙にふさわしい。


『ジョリオン様』


 話しかけてきたのは、破竜騎士団団長ルーテル・ヴァン・ミリガーだった。

 地竜に負けまいと鍛えた巨躯を持つ団長は、残っているダンジョンの捜索を命じられていた。


 どうやら何か出てきたらしい。

 さすがにダンジョンの中までは千里眼で見えないが、ルーテルの口調はどこか弾んでいた。


『敵の兵器を見つけました。かなりの量です』

「ガーデリアルが貯蔵していた古代の兵器か」


 ルドギニア自ら返事を返す。

 魔王のお出ましに、慌ててルーテルは傅いた。

 ジョリオンは尋ねる。


「いかがいたしますか?」

「接収だ。持って帰られるか?」

『はっ。ただ量がかなりありまして』

「そんなにか?」


 ルドギニアは目を細めた。

 声音から不興を買ったと思ったのだろう。

 ルーテルが沈黙する。


 ジョリオンから言わせれば、ルドギニアはどちらかといえば腑に落ちないという顔をしていた。


 代わりに答える。


「わかった。他の団にも協力させる。そなたはそのまま捜索を続行せよ」

『御意!』


 力強く返事を返し、ルーテルは作業に戻っていった。


 ジョリオンは踵を返し、主を見上げる。


「気になりますか?」

「いや、気のせいであろう」


 ガーデリアルは死んだ。

 死んだのだ。



 ◆◆◆



「ふにゃあ……」


 フラリルは自分の寝言で起きてしまった。


 良い夢だった。

 フラリルママ、ニーアママ、そしてルニアと一緒に、パパにペロペロされている夢だ。

 とってもくすぐったくて、でも気持ち良くて。

 夢の中で何度もペロペロしてもらった。


 本物のペロペロを味わいたい。

 そんな切なる願いを秘め、フラリルは瞼を開ける。


 周囲は薄暗い。

 やたらと振動がすると思ったら、竜骨兵に抱かれていることに気づいた。


「起きたのね、フラリル」


 隣を見る。

 獣耳の少女が微笑んでいた。


「フランママ、おはよ」

「おはよう、フラリル」

「ここは?」

「ダンジョンの中よ」

「ふーん」


 辺りを見渡す。

 ダンジョンであることは確かだろうが、見たこともない場所だ。

 フラリルは生まれたばかり。

 見たことがない場所があるのは当たり前だが、何か様子が違う。


 タフターン山に張り巡らされたダンジョンと違って、補強が雑だ。

 何か突貫工事で、ただ穴を延伸していったという趣がある。


 ともかく、彼女が知るタフターン山のダンジョンとは違うことだけはわかった。


 周りには竜骨兵と、ドワーフしかいない。

 大魔導やデュークなどの精鋭部隊の姿がなかった。


 そもそも――。


「ねぇ、パパは?」

「――――ッ!」


 フランの顔を引きつるのを、小さな眼は見逃さなかった。


「ニーアママもいないようだけど。フラリルが寝てる間に何かあったの?」

「それは――」


 ママは言いよどむ。

 すると、すぐ隣で寝ていたルニアが目を覚ました。


「ニーアママはどこ?」


 寝ぼけ眼を擦りながら、ルニアは周りを見渡す。


 フランは意を決した。

 一旦行軍を止めると、2人が寝ている間に起こったことを話す。


「パパが!」

「ニーアママは無事なの!」


 聞き終わった瞬間、2人は声を重ねた。


 フランは子供の手を握る。

 自分より大きな子供の手は、少し震えていた。


 気丈に微笑む。

 花が開いたようなフランママ特有の笑顔だった。


「大丈夫。パパもニーアママも無事よ」


 頷く。

 ルニアとフラリルは飛び上がって喜んだ。


「わーい。今度、パパに会ったらペロペロしてもらうんだ」

「フラリル、ズルい。ルニアもペロペロしてもらう」

「一緒にペロペロしてもらおう、ルニア」

「うん。ペロペロしてもらおう、フラリル」


 仲良く頷き合う。


 無邪気に語る子供の姿を見て、フランは救われた。

 同時にちくりと胸が痛む。


 ガーデリアルも、ニーアもきっと無事なはずだ。

 しかし、最後の命令――作戦2号は、あまりにも危険な作戦だ。

 それはガーデリアルですら認めていた。


 成功確率は低い。

 奇跡のようなものだと……。


 だけど、信じなければならない。


 そのためにフランたちは今、北へと向かっている。


「フランママ?」

「ママ、どうしたの?」


 お互いの手を握り合いながら、フラリルとルニアは首を傾げた。


「「どうして泣いてるの?」」


「え?」


 慌てて、目元を拭った。

 両目から滂沱と涙が流れていくのに気づいた。


「あ、あれ? なんで」


 拭っても拭っても涙が出てくる。

 悲しくないのに。

 いや、悲しんではいけないはずなのに。


 2人の娘がフランの横に立った。

 自分よりも小さなママに顔を近づける。

 あろうことか、少女の涙をペロペロとなめ始めた。


「ちょっと! 2人とも!」


 慌てて止めるが、娘達はやめようとはしない。

 それどころか、何か懐かしさを感じるようになってきた。


 ガーデリアルに初めて頬を舐められた時の――。


 ――まるでパパが隣にいるみたい……。


 気がつけば、涙は止まっていた。


「ママ、落ち着いた?」

「フラリルママ、大丈夫?」


 フラリルとルニアは心配そうに見つめる。


「ありがとう、フラリル、ルニア。うん。ママ、元気が出たよ」

「良かった!」

「やったー!」


 2人は喜ぶ。

 その姿を見て、フランの顔にようやく笑顔が灯った。


 ――しっかりしなきゃ。


 フランは自分を戒めた。

 自分はまだまだ子供だ。

 けど、娘達のママであることに変わりはない。


 守られているだけではダメなのだ。


 ゴゴゴゴゴゴ……。


 突如、ダンジョンの中が微震を始める。

 何か轟音が岩盤の向こうから近づいてきているのを、フランの耳は捉えた。


「みんな、逃げて!」


 フランは叫ぶ。

 竜骨兵とドワーフ、そしてルニアとフラリルは、言葉通り後退した。


 横の岩盤が割れる。

 飛び出してきたのは、大きな竜の上顎。

 まるでドリルのように螺旋を描いたそれは、周囲を掘削し、あっという間に空間を広げてしまった。


 現れたのは地竜。

 その上に、鋼鉄の鎧を纏った魔人が跨がっていた。


「おいらたちを襲ったヤツだ!」


 声を荒げたのは、付いてきていた工兵部隊隊長のオイディルだった。


 カステラッド王国が誇る地竜部隊。

 破竜騎士団。


 タフターン山瓦解のきっかけを作った魔族たちだった。


「ふん! ネズミどもめ! こんなところでこそこそ隠れていたか!」


 地竜の上で、魔人は叫んだ


「俺様の名前は、ルーテル・ヴァン・ミリガー! 破竜騎士団団長様だ。見つけたぞ、邪竜の守護者ども! 我が地竜ドグリルで貴様をひき殺してやるわ!」


 ひぃいいいはあああああああああああ!!


 引きつった笑みを浮かべ、狭い空間で吠え立てる。


 ドワーフたちは戦いていた。

 先の戦いで強襲を受けた記憶が新しいからだろう。

 部隊隊長のオイディルにも、土と混じって汗が浮かんでいる。


 皆の様子を見ながら、フランは前に出た。

 ガーデリアルが預けてくれたダマスカスナイフを握る。


 ――フランがみんなを守らなきゃ!


 心に決めた。

 その時、小さな少女の前に影が出来る。


 金髪と銀髪を下ろした少女が、巨大な竜の前に立っていた。


「フラリル! ルニア! ここは危険よ。下がって!」


 忠告するが、2人の娘は微動だにしない。

 代わりに返ってきたのは、頼もしい言葉だった。


「大丈夫だよ、フランママ」

「こいつらは、私たちが――」


「「倒す!」」


 2人は構えた。


 すでに戦闘態勢だ。

 子供であるのにも関わらず、フランですら身が竦むほどの闘気を漲らせている。


「その容姿……。お前ら、竜の子だな」


 ルーテルは値踏みする。


 最初に噛みついたのはルニアだった。


「お前、タフターン山を襲ったヤツだな」

「おおよ。しっかし、張り合いがなかったなあ、お前たちのパパさんはよ」

「なんですって!」

「張り切って地下から侵入したのによ。相手にしたのは弱っちぃ工兵のみ。全く出番がなかったぜ!」

「戦いはまだ終わってないよ!」


 フラリルは叫んだ。


「は! 知らないのか。タフターン山はもうぺしゃんこだぜ。消し飛んじまったよ。お前たちのパパもろともな」


「「そんな!」」


 フラリルとルニアの顔が絶望に歪む。


 ルーテルはそんな子供の顔を楽しみながら、とどめを刺した。


「嘘なんかじゃねぇよ。赤竜どのもの炎を食らって、跡形もなくなったってよ」


「「嘘だ!!」」


 ルニアとフラリルは激昂する。

 同時に飛び出していた。


 ルーテルは読んでいたらしい。

 愛騎に鞭をくれると、長い地竜の爪が竜の子をなぎ払う。

 如何な神速の竜の子とはいえ、来る方向がわかれば対処のしようがある。


 結果、2人は吹き飛ばされた。

 岩盤に叩きつけられ、小さな口から鮮血が舞う。


「は! 竜の子っていっても、その程度かよ! 所詮、負け犬――負け竜の子供は結局、負け――――」


 突然、ルーテルの言葉が途切れる。


 ハッと振り返った。

 気がつけば、人影が――いや、獣の形をした人が立っていた。


 荒い息を吐き出し、手にはナイフを握っている。


「いつの間に!!」


 地竜の上で距離を取る。


 相手は獣人だった。

 おそらく竜の巫女。

 だが、容姿からしてまだ幼い。


 それでも近づかれるまで気配を感じなかった。


「獣人特有の抜き足ってヤツか……」


 獣人は狩猟種族だ。

 気配、音の消し方は、生まれた頃から出来るほど、本能に深く刻まれていると聞く。


「だが、所詮子供だろ! 魔人の俺様には――」


 剣を抜き放とうとした瞬間、己の手がない(ヽヽヽヽヽヽ)ことに気づいた(ヽヽヽヽヽヽヽ)


 どろっとした血が、ソースのようにぶちまけられる。

 ルーテルは大口を開け、悲鳴を発した。

 身体をくの字に曲げ、のたうつ。


 獣人少女フランは、切り取った魔人の腕(しょくざい)を放り捨てた。


 暗闇の中で、1対の眼光が光る。

 普段は子鹿のように優しい瞳が、獅子――いや、竜が宿ったかのように燃えていた。


 獣人の狩りは、二撃決殺。

 1撃目で獲物の自由を奪い、動かなくなったところでトドメを入れる。

 フランはただその本能に則っただけだ。


 もはや彼女にとって、ルーテルは仇ではない。


 ただの獲物だった。


 ゆっくりと近づいていく。


「ま、待て! 参った! 降参だ! 許してくれ」


 命乞いをする。

 すり足で後退するルーテルだったが、突如その足場が傾いた。


「よいしょおおおおおおおおお!!」


 気合い一閃!


 地竜が投げ飛ばされた。

 岩盤を抉りながら、地竜はひっくり返る。


 首謀者は怪力を持つフラリルだった。


 長い鼻を掴むと、投げ放ったのだ。


 地竜は宙を掻く。

 裏返った地竜など、ひっくり返った亀に等しい。


「ルニア!」


 フラリルが叫ぶ。

 すでに準備は出来ていた。


 ルニアの口内が青白く光る。


「――ッ!!」


 雷息を解き放つ。

 光の槍が、地竜を串刺しにした。


 ルーテルの愛騎ドグリルは、悲鳴を残す間もなく絶命する。


 ドグリルの主はというと、愛騎と一緒に放り出されていた。

 地面の闇に紛れるように這い回り、人知れず退却しようとする。

 その視界に、小さな足が見えた。


 少し鼻を利かせると、獣人特有の臭いが漂ってくる。


 顔を上げた。

 怒りに赤くなったフランの姿が、そこにあった。


「わ! 待っ――」


 風を切る鋭い音が、半壊したダンジョンに響く。


 再び命乞いをしよとした魔人の頭が、胴から滑り落ちた。


 フランは振り返ることなく、ダマスカスナイフに付いた血を払う。

 やがて大きく息を吐いた。


 赤みがさした顔が通常に戻っていく。


「ママ、凄い!」

「強い、フランママ!」


 目を輝かせたのは、2人の子供だった。

 フランに飛びつくと、顔をすり寄せ、甘えてくる。

 2人の肌は時折、竜の鱗の部分が擦れて痛かったが、ガーデリアルの鱗を思い出して、少し安心した。


「ママとルニア、フラリルがいれば無敵だよ!」

「このままカステラッド王国に行って、魔王をやっつける!」


 フラリルは拳を掲げ、ルニアはふんと鼻息を荒く吐き出した。


「そんな簡単には――」


 フランは困っていたが、内心ではそれもいいかもしれないと思っていた。


 カステラッド王国に攻め込む。

 もしかしたら、この3人なら出来るかもしれない。


 たとえ、主がいなくても……。


 フランが決断を下そうとしたその時、オイディルが叫んだ。


「何か来るぜ!」


 破竜騎士団の仲間だろうか。


 3人は警戒する。

 ダンジョンの奥で見えたのは、地竜の長い鼻ではない。


 ぼんやりとした橙色の光だった。


 こちらにやってくる。

 フランの耳はすでに大勢の足跡を捕捉していた。


 現れたのは人だった。

 フルプレートの鎧を纏った騎士達。

 その鎧には大竜の紋章が刻まれていた。


 1人の騎士が1歩進み出る。

 他の騎士と比べると上背は物足りないが、どこか特異な風格を漂わせていた。


 フルフェイスの兜を脱ぐ。

 美しい亜麻色の髪が乱れた。

 現れたのは、女性の顔だった。


 フランは息を呑む。

 同性の彼女から見ても、女性は美しかった。


「我が名は大竜騎士団団長ミリニア・トーレストである!!」


 高らかに口上を述べる。

 すらりと女騎士は剣を引き抜いた。


【再告知】

2017年9月18日(つまり明日) 文学フリマ大阪に参加します。

ブースはD-23です。わかつき本舗&延野庵でお待ちしてます。

※ 詳細は活動報告にて。

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