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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
終章 激闘王国編

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第44話 ゴブリン部隊の活躍

 サキュバスのアルティは討たれた。


 これで襲撃してきたモンスターは全滅だ。


 我はようやく一息吐く。


「ニーア。ともかく帰って来い」


 ニーアは素直に頷く。

 タフターン山の方へ足を向けた。


 妻とともに覚悟を決めたとはいえ、寿命が迫っているのは紛れもない事実だ。

 何かがあってからでは遅い。

 なるべく側にいてほしかった。


 ともかく、我らの勝利だ。

 薄氷を踏むこともなく、完全に勝利したことを今は喜ぼう。


 そして勝って兜の緒を締めるのだ。

 我らの敵はモンスターではない。

 国そのものなのだから。


「少し腹が減ったな」


 妊娠・出産に、大量のモンスターの生成。

 短期間で色々なことがありすぎた。

 魔力も最初と比べると、かなり少なくなっているのを感じる。


 ここいらで腹ごしらえをするのも悪くないか。


 我はフランを呼ぼうと、その小さな姿を千里眼で探した。


 ――――ッ!


 つと首をもたげる。


 我は視線を送った。

 その先にあるのは、重たげな鉛色の雲だ。


 よく目を凝らした。

 ちらりと影が雲の中で蠢いているのが見える。


「休ませてくれぬな」


 我は舌打ちする。


 向こうもこちらが気づいたことを察したのだろう。

 雲の中の影は徐々に高度を落とす。


 現れたのは獰猛な顎門。

 そして雄々しく広げた翼だった。


「キィイイヤアアアアアアア!!」


 金属を引っ掻いたような奇声を空にぶちまける。


 現れたのは竜……。

 飛竜(ワイバーン)だった。


 その背には鎧を纏った騎士が跨がっている。

 首から先はなく、手に1対の光を輝かせた兜を抱えていた。


 B級のモンスター――デュラハン。

 そしてA級のモンスター――飛竜(ワイバーン)


 両者とも蒼色に彩られ、鬨の声を挙げた。


「蒼竜騎士団か!」


 カステラッド王国が誇る飛竜(ワイバーン)部隊。

 1500騎の飛竜と竜騎士からなる騎士団は、空の王者と呼ばれている。

 その実――魔族の群れだったというわけだ。


 気がつけば、タフターン山の上空は、飛竜(ワイバーン)で埋まっていた。


 よもや、騎士団を配置するためのSクラスモンスターを囮にするとはな。

 まったく……。大胆な作戦を考えるものだ。


 その時、1匹の飛竜がこちらに近づいてきた。


 乗っているのは首なし騎士(デュラハン)ではない。

 どう見ても、人間だった。


『ガーディ、気をつける』


 といったのは、試練のダンジョンを経由で山頂に向かっているニーアだった。


『カステラッド王国には食物人間の他にも、魔族に造られた人間いる。その人間は魔族に忠誠を誓ってる』


 なるほど。

 さながら、魔人といったところか。


「私は蒼竜騎士団団長マステバ・ハイード! 邪竜ガーデリアルに告げます。今すぐ投降なさい。さすれば、我が王は寛大な処置をお与えになるでしょう」


 蒼竜騎士団団長と名乗った男は、飛竜(ワイバーン)に騎乗したまま通告した。


 青い髪に、色白の肌。

 武人というよりは、物静かな神官のような印象がある。

 しかし、纏う闘気はやはり騎士そのものだ。


 魔族を従えながら、そこに悪意はない。

 国を守るための騎士が我が前に立ちふさがっていた。


 どういう教育を施されてきたのかは知らない。

 魔族の洗脳は魂の根底から歪ませるものらしい。

 マステバは、良いサンプルのように思えてならなかった。


 我は鼻で笑う。

 すると、マステバは眉間に皺を寄せた。


「何がおかしいのです」

「何故、我が投降しなければならんのだ?」

「見てわかりませんか。すでにタフターン山は我が蒼竜騎士団1500騎に包囲されているんですよ」

「だから、どうした?」

「制空権を――空を飛ぶものに対抗する術を持たないあなた方に、万が一の勝ち目はないでしょう」


 マステバはさっと手を掲げる。


 飛竜(ワイバーン)に跨がる首なし騎士たちは、竜にくくりつけた筒から投げ槍を引き抜く。

 まるで我に見せつけるように天へ掲げた。


「我ら竜騎士の槍を受けてみますか?」


 なるほど。

 確かにあれほどの槍を高々度から叩きつけられれが、我の鱗とて無事では済まない。配下が受ければ、一撃で絶命だ。


 だからといって、はいそうですか、と投降するほど、我は人格が出来ていない。

 何せ我は竜であるからな。


 口を開け、思わず笑った。


「リン……。待たせたな」


 我は配下に命令する。


 すると、頂上付近にいくつかぽっかりと穴が開いた。

 その穴から巨大な鉄の砲身がせり上がってくる。


 砲身には数人のゴブリンが取り付き、何やら準備を始めていた。


「な、なんだ!?」


 マステバは戦く。

 恐らく見たことがないのだろう。

 何せこれも、こやつが生まれるずっと前に製造された古代の兵器なのだからな。


「目標――敵飛竜部隊!」

「ぎぃぎぎぎぎ!」


 部隊の隊長を任せているリンが、ビッと敬礼した。

 他のゴブリンに指示を出す。

 砲身の角度を決めると、飛竜たちへ向けた。


「存分にやるがよい、リン!」

「ぎぃいいい!!」


 リンは叫ぶ。

 撃て、といったのだろう。


 砲身が火を吹いた。

 1発の砲弾が、空気を切り裂き、マステバの横をかすめていく。

 ふわりと青い髪を梳かした。


「残念でしたね。当たらなければどうということ――」


 音速の倍の速度で撃ち出されても、当たらなければ意味がない。


下等なモンスター(ゴブリン)に任せたのが間違いだったのですよ」

「問題ない。狙い通りだ」

「なんです――……」


 マステバがさらに眉間に皺を寄せた瞬間、背後から光が閃いた。

 ドンという爆発音が、飛竜(ワイバーン)が密集する空で弾ける。


 蒼竜騎士団に襲いかかったのは、爆発の破片だ。


 飛び散った金属片が竜を、あるいは騎士達を貫く。

 突然現れた鉄の雨に竜たちは嘶いた。

 暴れる飛竜を抑えきれず、首なし騎士たちは本体(くび)と一緒に落とされ、タフターン山の硬い岩肌に叩きつけられていった。


「第2射、放てぇ!」

「ぎぃいいい!!」


 再び火を吹く。

 マステバとは逆方向にいた飛竜(ワイバーン)たちに撃ち込んでいく。


 飛竜たちは為す術がない。

 弾を回避するどころか、音に戦き、いさめるのに苦労していた。


「落ち着け! 隊列を――」


 マステバは指示を出す。

 だが、発射音にかき消された。


 その中で、我の念話だけが周囲に広がっていった。


「どうだ、マステバとやら。これが古代の兵器――高射砲というものだ」


 対空に特化した古代の兵器。

 そのシンプルさ故に、追尾兵器が生まれてもなお廃れなかった。


 砲弾には榴弾を装填してある。

 威力は弱いが、広範囲の目標を殺傷可能だ。

 特にこの弾は、生物に対して絶大な威力を持っている。


 それがたとえ竜の皮膚であろうと関係ない。

 音速以上で射出される金属片の前には、魔法でもない限り、防ぐことは不可能だ。


 それが6基。

 我を守護するように配備されていた。


「よもや、こんな兵器まで腹の中に収めているとは」

「その通りだ、マステバ。苦労したぞ。まあ、生みの苦しみよりはマシだがな」


「ぎぃいいい!!」


 リンが第3射を指示する。

 弾はマステバの近くで炸裂した。


「くっ――!」


 マステバは、竜の首にかけられて手綱を引く。

 見事に破片をかいくぐった。

 さらに槍を構え、我に迫る。


「ガーデリアル!」


 物静かな顔に鬼が宿る。

 口から覇気を吐き出した。


 ズドゥン!!


 高射砲の音に混じり、重たい銃声が轟いた。


 飛竜(ワイバーン)の眉間に穴が開く。

 竜の脳神経が集まる部位が、正確に貫かれていた。


 激しく翼を羽ばたかせ、主の命令に従っていた飛竜が、すとんと落ちる。

 そのまま地面に激突した。


 血を吐く竜を見ながら、無事だったマステバは顔を上げる。

 目の前に鎮座していたのは、我だった。

 側には、SAVAGE110のスコープをのぞき込んだニーアが立っている。


 マステバの飛竜を撃ち落としたのは、彼女だ。


 相変わらず、恐ろしい射撃精度だ。

 空で回避を前提に動き回る物体を撃ち落とすのは、並の人間には出来ない。

 さすがは我が守護銃(ガンナー)

 自慢の妻だけある。


 マステバは顔を青ざめさせながら、我を凝視した。


「Sクラスモンスターを囮にした奇襲。見事だ、蒼竜騎士団団長」

「黙れ、邪竜め!」


 マステバは側に刺さっていた槍を拾い上げる。

 その切っ先を我に向けた。

 美しい女のような手は震えている。


「その後は無策すぎたな。我が対空防御を考えていなかったと思っていたか」


 まったく……。

 馬鹿にするのも大概にしろといいたい。


 だが、おかげで相手の奇襲に対してカウンターを仕掛けることが出来た。

 その点では、感謝してやってもよいか。


 やがて我は大口を開ける。


「おしゃべりはこのあたりにしておこう。我を驚かせたせめてもの礼だ」



 存分に我が炎を食らうがよい。



 大きく息を吸い込む。


 同時にマステバは槍を投擲した。

 ニーアはSAVAGE110であっさりと撃ち落とす。


 マステバが絶望の表情を浮かべた瞬間。


 魔人の眼は紅蓮の色に染まった。


「ぎゃあああああああああああ!!」


 炎に飲み込まれる。

 如何な魔造(まぞう)の人間とて、我の炎に耐えきれることは出来ない。


 炎の塊の中で、声を失い、やがてその影すら失った。


 あの大竜騎士団に並び立つカステラッドの精鋭――蒼竜騎士団。

 その団長マステバは、あっさりと消滅した。


 まずは1勝か……。


 1つ息を吐く。


「ぎいいい。ぎぎぃ」


 奇声を発したのはリンだ。

 次の指示を求めている。


「引き続き、空に浮かぶ飛竜(ワイバーン)と竜騎士たちを殲滅しろ」

「ぎぃ。ぎぎ!」


 敬礼する。

 榴弾を装填し、次々と撃ち込んでいった。


 半数の飛竜と団長を失った蒼竜騎士団は北の方へ撤退する。


「よくやったぞ、リン」

「リン、いーこいーこ」


 我とニーアは褒め称える。


 リンは小躍りしながら喜んでいた。

 この時のために、ゴブリン部隊には高射砲の扱い方を訓練させ続けてきた。


 ようやく活躍が出来て、嬉しいのだろう。


 我も素直に嬉しかった。

 リンは初期からいるモンスターだ。

 愛着も湧く。


 少々手のかかる悪戯小僧だがな。


 口元が緩む。


 ――と、その時。


 我の赤い瞳に、大きな火球が映った。

 タフターン山よりも高く撃ち出された弾は、放物線を描き、こちらに落ちてくる。


「リン、避けろ!」


 我が叫んだ。

 だが、遅い。


 火球はタフターン山山頂に突き刺さった。


9月18日、第5回文学フリマ大阪に参加します。

ブース位置は D-23 (イベントホール) わかつき本舗&延野庵でお待ちしております。

詳細は、活動報告にてご確認下さい。

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